第29話 虚仮威し

……なんで、兵士はあんなのに従って……


[神器の中には、兵士の忠誠心を100%にするものがあります。それを起動しているからですね]


……まあ、異世界で破壊活動するのに、良心の呵責を持たれても困るしね。

強い兵器も使わせる訳だし。

合理的なシステム……か?

戦闘の柔軟性は失われそうだけど。


……リア、内政コマンドだ。

この状況を解消して欲しい。

ラナを無力化したい。


[……私を何だと思っているのですか?最後はじまりの世界は、全ての世界の頂点。そして、旧神が失われた今、ラナは正に全知全能の存在……そもそも、この世界は、世界強度が強すぎる……私の内政コマンドなんて、使える訳がないでしょう]


……詰んだ。


「まずは、貴方達を蹂躙します。その上で……そうですね、貴方、お姉様を犯しなさい!」


ラナが、僕に剣を向ける。


「……え、羽修さんににゃ……それはやぶさかではないですが、できれば自宅で、ベッドの上がいいにゃ……」


「やっぱりそっちです!」


「龍二は嫌にゃ」


「だから指名するんでしょうが!」


ぬう……


「……俺の扱いって……勿論、ミアちゃんに手を出す気は一切ないけど……」


龍二が複雑そうな声を出す。


[……何とかなるかも知れません]


ほう?


[光と音の共演……あれを何もない地面に撃ち、次は当てると脅します。うまく騙せればあるいは……]


……なるほど。


実際には、兎すら倒せないような、本当に光と音が凄いだけの空砲だが。

とにかく、見た目だけは強そうに見える。

後は僕の演技力次第だけど……いける……か?


「ラナさん、交渉しよう」


「……交渉、だと?」


援護射撃スキル。

その発動を、頭の中でシュミレーションする。


「僕には、その力ゆえ封印している、圧倒的な力がある。正直、気は進まないが……使わざるを得ない。君が悪いんだよ。僕にこれを使わせるんだから」


「まさか……右手の封印を解くにゃ!?」


ミアが悲鳴を上げる。

いや、右手が疼くは、あれはただの鉄板の冗談ですよ。


「……羽修、大丈夫……なんだな?」

「兎中くん……」


龍二、栗原が心配そうに言う。

いや、なんでみんな右手に視線集めるの。


「……何をする気だ」


ラナが訝し気な声を出す。

無理に止めようとしないのは、圧倒的な実力差から来る自信だろう。

そもそも、圧倒的な力を見せつけて、こちらの心を折ろうとしているのだから。


[援護射撃の直前に……私の真名を叫んで下さい]


……そういえば、最初にリアに僕が名付けたんだったな。

真名、知らないんだけど。


[いえ、ご主人様がつけて下さったのが、今の私の真名ですよ?]


いや、それ真名違う。

名前が長いから省略しているだけだろ!!


まあ良い。

確かに、長い名前の方が格好つくものな。


「行くぞ」


僕は、右手を突き出すと、


「ダンタリアン!その力を示せ!」


適当な宣言と共に、援護射撃を発動。

見掛け倒しの光が、天の裂け目から落下。

敵陣の真ん中に生じていた空隙へと着弾。

そして。


ぎっ


地面が崩れ──いや、空間が崩れ。

世界の外側である虚空間が露出。

そして。


ごおおおおおお


宇宙船の壁が開き、中の物が吸い出されるように。

周囲の大地が、空気が、兵士が、戦艦が。

裂け目に吸い込まれ、虚空間へと放り出され。


ぎじ


境界獣が無数に殺到。

人を、船を、世界を、その口腔へと……


じじ


世界が、抵抗。

裂けた穴を埋める為。

マナだけでは足りず、周囲の物……大地や、兵士、神器群……本当に穴を埋める為のモノとして、それらで穴を塞いでいく。


時間にして数十秒。

無敵の陣容を誇っていた調停部隊は。

その3割近くを、失っていた。


穴の近くには、身体半分が素材として使われ、残りは形を保ったままの、人すらいて。



さて、問題だ。

想定外の事態になった場合。

人が取れる選択肢は、意外と少ない。


僕は選んだ。

当初の予定通りの行動を取ることを。


そう言えば、不思議だ。

さっきから、普通の声なのに、距離がある相手と普通に会話できているな。


まあ。


今度も、相手に聞こえる筈。

淡々と、告げた。


「次は当てる」


「いや、羽修よ。これ、当てるとか当てないとか、そんな次元のものじゃねえよ」


龍二が、半ば呻き声で突っ込んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る