ロンドン・ツアーへ

 リアムが目を覚ますとフルドラが覗き込んでいた。

 今までに見せたことのない表情だ。

「馬鹿な奴め……余計な事をして」

「余計な事をするのは俺の特技さ。ところでどうなったんだ?」

「3人の魔女たちは約束を守った。ロンドンへの道が繋がった」

 フルドラが指差す方に最初はなかった筈の道が見えていた。

「これでロンドンに直行できる」

「すごいな、ショートカットってわけだ。代償はあったが」

「目は痛むか?」

「それが不思議な事に何も感じない。ただ視界が暗くなっただけだよ。遠近感はつかみにくいけど、なんとかなるさ」

「悪かった。こんな筈では……」

「よしてくれ、君にそんな顔をさせたくなかったから俺が右目を差し出したのに、これじゃそれが台無しだ」

「……本当にすまない」

 リアムの頬にフルドラの涙が落ちた。

 やめてくれ……エマと同じ顔でそんな顔をするのは


「あ……お二人さん、邪魔して悪いんだけど」

 ロジャーが口を挟む。

「道の様子がおかしくなってるんだ」

 道が霧に覆われ始めていた。どうやらロンドンへ続く魔法の近道には賞味期限がありそうだ。

「こうしちゃいられないな。高い代償が無駄になる」

「いきなり、あんたは倒れるし、最初なかった道が現れたり……俺、何が起きてたのかよくわからなかったんだけど」

「お前、指輪物語が好きだろ?」

「そうだけど……それがなに?」

「なら、そういうことさ」

「わかんないよ!」


 車に乗り込むとエンジンをかけた。

「本当にこの大丈夫なの? この道」

 ポンコツ寸前のミニ・クーパーは白い霧の中を、ゆっくりと進み始めた。

 車の通った後は霧が覆い隠していく。

「ロジャー、私が運転を代わろう」

「えっ?」

 唐突にフルドラが言う。

「そうしてもらえ、ロジャー。彼女は運転が上手い」

「わかったよ。この不思議な場所は僕より、あなたの方が慣れてそうだ」

 ミニ・クーパーを途中で停め、ロジャーとフルドラが運転席を入れ替わった。

 席に座ったフルドラがシートベルトをすると、ゆっくりとハンドルに手をかけた。

「それじゃ、いくわよ」

「ああ、ついたら起こしてくれ」

 そう言ってリアムはシートを深く座りなおす。

 ところが、ゆっくり寝るどころではない。

 ミニ・クーパーは、湿った地面をスタック寸前にタイヤを回転させると、とんでもない勢いで走り出したのだ。

「いや、ちょっと!」

 ロジャーは必死にシートにしがみつく。

「寝るのは無理そうだな……」

 リアムはポツリと呟いた。


 ミニ・クーパーは霧の中、舗装されていない道を突き進んだ。

 車体は揺れ、前もはっきり見えてないが、フルドラは構わずアクセルを踏み続ける。まるでラリーのドライバーだ。違いはナビゲーターが同乗していないこと。

 やがて白い霧は晴れていき、路面もアスファルトで舗装された道路に変わっていた。

 眼の前の白い霧は晴れ、周囲は建物が並ぶ街に変わっていた。

 フルドラは車を止めた。

「着いたわ。この先は、”渡るには幅が広すぎる川への道”よ」

 目の前には変わり果てた都市は見えた。

 ロンドンは不気味な霧に覆われていた。リアムたちが通ってきた道に漂っていた霧とは違う濁ったような霧であった。

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