魔女たちとの取引き
「その美しい瞳をもらおうか」
魔女はそう告げた。
「あいつは何を言っているんだ?」
「……私の瞳を要求している」
「瞳? 眼か? 無茶いうな! たかだか”近道”するだけだろ? 面倒だが渋滞を待って進む。それでいいじゃないか」
「ロンドンには聖剣があるのよ。早く行かないと儀式が終わってまた逃げられる。それに早く聖剣を取り返してワイルドハントを止めないとロンドンが消滅するわ」
「大げさな。ロンドンには警察だっているし、イギリスには優秀な軍隊だってある」
「警察に亡霊が捕まえられる? アサルトライフルの銃弾で亡霊が殺せる?」
「ワイルドハントの儀式を起こしてるのは生きた人間だろ? そいつらに縦断をぶち込めばいい」
「警察はそれを知らない」
「通報すればいい」
「悪戯と思われるでしょうね」
「眼を失った君がどうやって聖剣を取り戻す? 相手には魔術を使う何者かがついているんだろ?」
「長老たちに連絡をとって別の使者をよこしてもらう」
「とにかく君が眼をくり抜かれるのは絶対駄目だ! 絶対にだ!」
感情の高ぶるリアムの態度にフルドラは黙り込む。
「こうしよう。そこの古い連中には俺が話す」
「あなた人間よ」
「そうだ。だが少し変わってる。君らの仲間を見れるし、才能も買われた」
「……わかった」
フルドラはウルズ、ベルザンディ、スクルド、三人の魔女たちに振り向き直った。
「寛大で偉大なノルニルよ。この者……リアム・ディアスが話をしたいと申しております」
「そやつは人間ではないか」
「人間ですが我々の協力者です」
「ふむ……」
ウルズが顔を近づけた。
「人間のリアム・ディアス。バイキングの末裔よ。我らに話があると聞いたが?」
「ああ、えーと……偉大なる古い方々。ロンドンへの近道を通す代わりにフルドラの眼を取ると聞いたが……別のものじゃだめか?」
「取引きには相応な代償が必要だ。今回はそのリョースアールヴ(光のエルフ)の眼がその代償なのだ」
「これなんかどうだ? iPhone15だ。最新だぜ。綺麗だろ?」
「人間の道具に興味はない」
「変だな。高級車に興味のある妖精もいるのに」
リアムはチラリとフルドラを見た。フルドラは眉をしかめる。
「なら、これは? 腕時計。カシオのだ。メイドインジャパン。人気だぜ?」
「くどいぞ、人間のリアム・ディアス」
「リアム、もうよそう。私が眼を差し出せばそれで済む」
「それなら、俺の眼はどうだ?」
魔女たちが動きを止めた。興味を持ったようだ。
三人は何かを相談した後、今度はベルザンディが顔を近づける。
「お前の眼もとても珍しい。あたしたちもとても興味がある」
そう言ってベルザンディは不気味な笑い声をあげた。
「わかった。お前の眼を代わりにもらう事にする」
「こちらも条件がある! この取引きは不公平だからな」
「不公平? 聞き捨てならないな。一体なんだ?」
「だってそうだろ? こっちはロンドンへの片道なんだぜ? 何故両目を渡さなけやならない。右か左、どっちかひとつでいいだろう」
魔女たちは三度相談を始めた。
そして今度はスクルドが顔を近づける。
「確かにお前の言う通りだ。ならお前の右目をもらおうか。それで文句はあるまい」
スクルドは元の場所にゆっくりと戻っていく。
フルドラはリアムの腕を掴み引っ張り寄せた。
「何を考えている!」
「今の状況で一番いい考えだと思ってね。でもよく考えたらあまりよくないかもな」
「お前は
「
「リアム……」
フルドラが初めて哀しいそうな顔をみせた。
よしてくれ! そうしたくなかったかした事なのに……。
スクルドが手招きしている。
「急かすなよ。すぐ行くから。おい、ロジャー!」
「一体何が起きてるんだよ! 怖いよ」
「ちょっと地元の化け物と話し合いだ。エンジンかけとけ。すぐロンドンに向かうぞ」
「ああ、わかった。元の道に戻るの?」
「いや、近道を使う。エンジンかけてハンドル握って待ってろ」
「は、はい!」
リアムはスクルドに向き直る。
「さあ、やってくれ」
少し離れたところでフルドラが見守っていた。
スクルドはゆっくりと手を伸ばした。正確には手に似たものだ。枯れた枝が指のよう手のような形をしているだけだ。
それがリアムの右目にか翳されると視界が暗くなっていった。
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