死霊達の宴

 ロンドン塔で行われた魔術儀式はつつがなく進行していた。

 剣を手にしたタリシエンは幼きころからの夢を実現しようとしていた

 それは父親が馬鹿にした下らない妄想。子供の夢。

 そう、ワイルドハントを率いるアーサー王となる夢だ。願望は剣を通して魔力を増大させた。魔力は影響は強め、ロンドン中を漂っていた曖昧な存在たちが具現化していった それはワイルドハントの発現であった。

 死霊の軍団がロンドン市内を蹂躙していく。

 至る場所で死霊が徘徊し、人を襲い、魂を奪い糧とした。

 交通網や、警察、消防署はすでにその機能を麻痺させていた。

 街を覆った灰色の霧は外部との接触を阻み、街は完全に孤立していた。



 淀んだ霧の中、ゆっくりと市街地に入ったリアムたちは車をゆっくりと進ませていた。

 霧は濃く、ライトをハイビームにしても道は一メートル先も見えない。

 道端には放置された車や逃げた人たちが捨てたと思われる荷物が散乱していた。

 時折、上空からジェット機の音が聴こえてくる。おそらく空軍の偵察機だろう。

「みなさん。僕らは今、ロンドン市街に入ろうとしています。状況は思っていたより、酷く、不気味です。荒れた街の中には住民は見えません」

 ロジャーはそう言うと自分に向けていたカメラを外に向けた。

「今、僕らの目指しているのはロンドン塔。別名ホワイト・タワーです。この事態の原因がそこにあるからです。その原因を取り除けば、英国はこの危機を乗り越えられるかもしれません」

「まだロンドン塔には行かない」

「えっ? なんだって?」

 ロジャーは慌ててカメラを止めて言った。

「困るよ。ライブ配信なんだから」

「それがなんの意味なのかわからないけど、先に行くところがある」

「それは俺も聞きたいね、この車はロンドン塔に向かって走らせてるんだぜ」

「ごめんなさい。この道がちょう立ち寄り先だったから」

「まあ、いいさ。で? どこに行って何をするんだい?」

「精霊の宿。人間の世界に出た時、私達が休める場所。多分、そこに精霊たちが集まっているはずだから協力を得られるかもしれない」

「わかった。道はこのままでいいのか?」

「ええ。近づいたら詳しく教えるわ」

 ロジャーは再び、カメラを回し始めた。

「皆さん。僕らはロンドン塔に行く前に、力を貸してくれそうな人たちに会う事になりました。そこでは、もしかしたらものすごい映像を見せれるかもしれません」


 しばらく行くとなにかが道を塞いでいるのが見えた。

 それは陸軍の装甲車だった。

 様子を見る為にリアムがアクセルを緩めると装甲車の陰から小銃を構えた兵士たちが姿を現す。

 銃口はリアムたちの乗る車に向けられていた。先頭のひとりが手間に出ると左手をかざしてリアムたちの車を停止させた。

「検問だよ。どうする?」

「とにかく話をしてみる、話が通ればいいけど」

 ガスマスクをした兵士が運転席側の窓に近づいてきた窓ガラスをノックした。リアムは窓ガラスを下げた。

「市街地には入れません。引き返してください」

「どうしても行かなければならないんだ。重要な用事がある」

「お気持ちはわかりますが、無理です」

「俺達はどうしてもロンドン塔に行きたいんだ。この事態の原因はロンドン塔で起きてる事なんだよ。それを止めれば丸く収まる」

 本当の理由だったが、事情を知らない人間には漠然とした話すぎた。兵士はまったく受けつかなかった。

「市街は非常に危険なんです。正体不明の敵が徘徊していますから。それにこの霧には解析不明の成分が検出されています。行かない方がいい」

「正体不明の敵って?」

「わかりません。今、軍が対処しています。とにかく引き返してください」

「わかったよ」

 リアムは窓ガラスを閉じるとフルドラの顔を見た。

「話し合いは無理そうね」

「ああ、仕方がないな。かといってワイルドハントや魔術の事を言っても錯乱したと思われるだけだ。俺としては一応、かなりわかりやすく説明したつもりなんだがな」

「ねえ、君たちなにかやばいこと考えてない?」

「いいや、いないよ」

「嘘だね。あんたらとは付き合いは短いけど、その顔は違うね」

 バックギアを入れるとミニクーパーを一直線にバックさせた。だがハンドルは切らない。加速する為の距離を稼いだだけだ。

 兵士も車の動きがおかしい事に気づく。

 十分距離を取るとアクセルを踏み込んだ。車は加速していき道路を塞ぐ装甲車の車列めがけて突き進んでいく。

「相手は装甲車だよ!」

「わかってるさ」

 ミニクーパーの小柄な車体が装甲車の隙間を縫って走り抜けていく。

 兵士たちが走り去るミニクーパーに小銃を構えたが、リーダーがそれを止める。

「撃つな! 相手は市民だ」

 小隊は射撃を中止した。

「軍曹!」

「撃つなと言っているだろ!」

「いえ、あれを御覧ください」

 見ると道の先に騎馬の集団が見えた。

「あれは報告にあった”敵”なのでは?」

 部下が緊張した様子で言った。

 道の先にいるのは黒い鎧にボロボロのマントを纏った騎士たちだ。

 リアムたちの車はその騎士たちに向かって突き進んでいた。

「リアム!」

 ロジャーが情けない声をあげる。

「わかってる。フルドラ、あれが、その……あれか?」

「ええ、死霊の軍団。ワイルドハント」

 フルドラは弓と矢を取り出して準備をはじめていた。

「で、どうすればいい?」

「私の好きなこと」

「……はいはい、強行突破ね」

 ミニクーパーはワイルドハントに突っ込んでいった。

 先頭の騎士たちが武器を構えて走り出した。

 フルドラが身を乗り出して弓矢を放った!

 矢が騎士の頭を貫き、落馬した。

 フルドラは二矢目を構える。後続の騎士が手斧を振りかざしてクーパーのフロントウィンドウを叩き割った。リアムはハンドルを切りそこね車はスピンする、

 ロジャーは体をシートに押し付けられながら修理代の事を考えていた。

 スピンする車から二矢目を放つ。

 斧を持った騎士が撃ち抜かれて倒れた。

 車は態勢を立て直し、路肩に乗り上げる前に停止する。

 後続の騎士たちがさらに迫ってくる、リアムは銃の安全装置を外した。

「ロジャー・ラビット、お前は車から降りて逃げろ」

「そうはいかないよ、動画の撮れ高がまだ足りない。それに僕達チームじゃないか」

「はは、勝手にしろ」

 迫りくるワイルドハント。

 フルドラは弓矢を構え、リアムは銃を構える。

 その時、銃声が一斉に鳴り響いた。銃弾が騎士たちに向かって撃ち込まれた。どうやら道路封鎖をしていた部隊が応戦を開始したようだ。

 銃弾が騎士の体を貫くが一部が四散するだけで致命傷にはなっていなかったが、銃弾の衝撃で命中するたびに動きを止める。

「市民を守れ! 車に近づけさせるな!」

 陸軍の兵士たちがL85A1を撃ちながら、進んでいく。

 一緒に進んでくる装甲車から12.7mm重機関銃の強力な銃弾が射たれた。

 その攻撃力にさすがの幽霊騎士も身体の半分が四散していくが、完全に倒すことはできなかった。


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