魔都への入口

 陸軍部隊の兵士たちがリアムたちを助ける為、アサルトライフルの射撃をしながら進んできた。

 しかし黒い霧の中から現れた亡霊の騎士たちの動きは止めるものの、完全に倒すことはできなかった。多くの兵士たちが弾薬を再装填しつつ射撃を続けたが不安を覚え始めていく。

 奴らは何故死なない?

 それが亡霊なのだ。だが兵士たちにはそれが理解できなかった。自分たちの相手にしているのが既に死した魂の残像である事を。

 突き進んでくる一騎が部隊の指揮をする軍曹に斧を振り上げた。ひたすらライフルを撃ち続けるが弾丸は騎士の身体を貫通するだけで倒せない。斧が振り下ろされた時だった。一本の矢が騎士の頭を貫いた。亡霊の騎士は落馬すると地面に倒れ伏し、そのまま灰となって消えてしまう。

 それを見て軍曹は初めて自分たちが相手にしているのが人間ではないという事を自覚する。


 その時、突然どこからともなく角笛つのぶえが鳴り響いた。

 するとどうしたわけか亡霊の騎士たちは攻撃を止め、霧の中へ消えていった。

 応戦したいた陸軍の兵士たちは呆気にとられながらアサルトライフルの銃口を下げた。

 部隊の指揮リーダーがリアムに近づく。検温所で会話した兵士だ。

「大丈夫か?」

「ああ……なんとかね」

「私はラリー・ポッター軍曹。陸軍第1師団治安部隊支援旅団所属だ」

「リアム・ディアス。元SAS一等准尉」

「宜しくディアス。ところで、あれは何なんだ?」

「亡霊って言っても信じないだろうな」

 ポッターは首を振った。

「いいや、少し前ならな。連中、銃弾が効かなかった。なのに何故、君等の武器が通用する? 特に彼女の放った矢は奴らを倒せた。あれはどういうわけだ?」

「これも言っても信じられないだろうけど……彼女は特別でね。まあ、特殊な訓練を受けてるとでも思ってくれ」

 フルドラが口を挟む。

「私の使う矢には魔法がかかっている。この世の者でない存在には矢としての役目を果たしてくれる」

 その言葉にからかわれたと思ったのかポッター軍曹は眉をしかめる。

「あ……まあ、信じられない話だが、今は妙に納得できるよ」

「軍曹、状況を詳しく聞きたいんだが。軍が持ってる情報だ」

「ロンドンはパニックだ。町は黒い霧に覆われ、市民が何者かに次々と惨殺されている。治安を守るべき警察は現在、機能していない。代わりに主要各交通網は軍が封鎖。そのひとつが我々だ。だが正体不明の敵に対応には困難を極めている。数時間前に偵察部隊を送り込んだが消息不意名。偵察用ドローンは電波が不調になる奥深く侵入できないでいる……まあ、そんなところです」

「手詰まりに近いわけだ。最悪だな」

「ええ……そういえば、ロンドン塔に行くとか言っていましたね」

「何か知っているのかい? 軍曹」

「この正体不明の霧の広がりの中心となっているのがちょうどロンドン塔なんだ。軍はなんとか状況を知ろうとしているが、さっきも言ったが電子装置が狂ってしまうから苦労しているんだ」

「はっきり言うが全ての原因はロンドン塔で行われている事だ。それと敵は普通の銃弾が通用しない。そいつは実感したと思うがね、軍曹」

 再びフルドラが口を挟む。

「純粋な鉄か銀なら奴らを倒せる。あなた達が崇拝する神の祈りを受けた武器も有効でしょう」

「それは……十字架とか聖水とかみたいな?」

 フルドラは頷いた。

「にわかに信じられないが、司令部にうまく伝えてみよう。ストレートに言っても錯乱んしていると思われるだけだろうけど」

「それがいい。もしかしたら信心深い将官もいるかもしれないしな。何もしないよりましだ」

「我々は任務に戻るが、君らは、ロンドン塔に行くなら早いほうが良いぞ」

「なにかあるのか?」

「ロンドン塔になにかあると見ているのは軍も同じでね。大規模なピンポイント攻撃が計画されているらしい。だから作戦が実行されれば、君等が爆撃に巻きこまれる可能性がある」

「情報ありがとう。注意するよ」

 リアムたちは軍曹たちと別れて再び市街地に向かった。


 車は再び濃い霧の中をゆっくりと進む。

 運転しながら助手席のフルドラに訊いた。

「さっきのあの音……あれは何かの合図なのか?」

「角笛は亡霊騎士たちを指揮している者からよ。理由はわからないけど、何かがあって騎士たちを引き上げさせた」

「うん……軍事作戦的には大規模作戦への移行によく似ている。違っていたらければいいが」

「リアム。そこを右に曲がって」

「了解」

 人気がない路地に入ると古いパブがあった。今のロンドンの状況で営業かと一瞬呆れる。

「ここよ」

「パブだろ?」

「人間にはそう見えるでしょうね。ただ普通の人間は気にもとめないわ。というか店がある事にも気がつくことはない。そいう魔術がかけられているの。あなたみたいな人を除いてはね」

「もしかして、君と初めてあったパブも……?」

「ええ、バーテンも客も全て私の世界の者たち」

「ロンドンはまだだまだ知らない”穴場”があるもんだな」

 リアムたちは店の前に車を停めると中に入った。

 店の中に入ると人間でない客が酒を飲んでいた。

「ようこそ、ロンドンの妖精宿へ」

 フルドラは言った。

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