第20話 モーガン・フェイの魔術

 闇の奥で眼球はリアムたちを凝視していた。

 敵意があるのはわかる。だがこのような相手にどう対処すればいいのか。

 迷うリアムの横で、フルドラが持っていた弓矢を対物ライフルに変化させた。これが妖精の魔法かと呆れつつも感心もする。

 超常的な相手には心強いことこの上ない。

 フルドラは華奢に見える身体でライフルを構えてみせた。身体のブレもないのが不思議に思える。

 だが敵はそれを察知したのか、攻撃をしかけてきた。

 黒い無数の腕が闇の奥から伸びてきたのだ。リアムはハンドガンで応戦するが命中して腕を吹き飛ばしても数が多すぎる。取りこぼした腕が迫ってくるのだ。

 黒い腕の群れが到達寸前にフルドラは引き金を絞る。

 鈍い発射音と同時に腕の群れにフルドラが飲み込まれてしまう。

 なんとか避けたリアムだったが、それを見たリアムは血の気が引く。

 一瞬、姉の死がフラッシュバックした。彼女はエマではないのに……。

 気がつくとリアムは危険も顧みず、黒い腕の群れに飛び込んでいた。

 

 一方。放たれた12.7x99mm弾が闇の奥にある瞼のない眼球に命中した。

 甲高い叫び声のような奇声がトンネル内に鳴り響く。

 その直後、暗闇がまるで引き潮のように一気に引いていく。

 リアムが必死にフルドラから黒い腕を引き剥がしていたが、それにすべて離れていく。中からぐったりしたフルドラが現した。

 リアムが呼びかけるとフルドラがゆっくりと目を開いた。

 リアムは、安堵したが、リアム自身は何故自分がこれほどまで安堵の気持ちに満ちているのか理解できないでいたのだった。

 

 気がつくとトンネルの中は元に戻り、照明もまともに路面を照らしている。

 立ち尽くすロジャーの背後を何事もなかったように車が通り過ぎていった。



 遠く離れたロンドンのロンドン塔(ザ・タワー)では……

 モーガン・フェイが片目を押さえて蹲った。

 魔術が破られた事に驚くと同時に怒りが込み上がってきた。

 そばにいたタリエシンが眉を顰めてフェイを見る。

 それほどフェイの形相は歪んだものだった。

「何かあったのか?」

「私の魔術を打ち破った者がいました。発掘現場を探っていた連中です」

「君のその不思議な能力を破ったとすると、相手は君と同じ力か、それ以上も力を持つのか?」

「いえ……違います。単に私が相手を見くびっておりました。次はこのようなことはないでしょう。それよりも、その者たちはワイルドハントを阻止しようとしています」

「それは問題だな」

「ご安心ください。私共マルジン・ウィスルトが責任を持って対処いたします」

 モーガン・フェイは、そう言うと右目から手を離した

 右目は赤く充血し、赤い血が涙のように流れていた。

 タリエシンは、治療が必要だろうと声をかけたが、フェイはそれを拒否し、儀式を続けるように言った。

 タリエシンは、頷くとエクスカリバーを手に取り、祭壇に向かう。

 広い床には魔法陣が複数描かれ、その中央に裁断がある。東西南北に大きな宝石が埋め込まれた美術品がひとつずつ置かれていた。

 儀式に重要なのは美術品というより、宝石の方で、それらは黙示録の四騎士を象徴するものだった。儀式には重要なものでもあった。

 フェイが中断んしていた儀式を再開する為に魔術書を開くと、綴られていた呪文を唱え始めた。

 透き通った声でラテン語が展示場内に響く。それは呪文というより賛美歌のようだった。


 展示室の外で警備をしていたボディーガードたちは、中から聞こえてくる歌声にも似た声に違和感を感じたが、雇い主のすることに文句はつけられない。

 様子を見に行くべきか迷ったが結局やめた。

 ボディーガードたちは、金持ちのする事はわからないとばかりに肩をすくめるだけだった。

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