第19話 魔術の罠
ミニクーパーは寂しい海岸線を走っていた。
エリック・キャンベルからの情報を得てリアムたちはロンドンに向かっている。
目指すは城塞ロンドン塔だ。
そこに聖剣についての手がかりがある。
ラジオからは不穏なニュースが流れている。ロンドンで何かが起きているようだが事故なのかテロなのか分からない。
少し気になったが、電波の入りが悪いのか、音声が途切れた。
ロジャーはラジオを切り、お気に入りの音楽に切り替える。
リアムは、車内に風が入り込んでいるのに気づき、後部座席を見る。
そこでは窓を開けたフルドラがなにか小声で何か言っている。
まるで誰かと会話しているような様子が気になったリアムが彼女に尋ねた。
「この土地の……精霊の呼びかけがあったから」
フルドラは、奇妙な返事を返す。
これまで何度か彼女の不思議な行動も目にしているが、いまだに慣れない。
「……で? その土地の妖精ってのは何て言っているんだい?」
「それは……」
会話の途中、ロジャーが口を挟む。
「ねえ、君たちって……本当は何者なんだい?」
「動画配信者だよ、お前と同じだよ」
「でもさ、検索してみたけど、君たちの動画って見当たらないんだよな」
「本名は伏せてるんだよ」
「それでも何かおかしい。直感だけど……」
「ああ、わかったよ。なら本当の事を言ってやる」
言い訳の作り話が面倒になったリアムは事実を話すことにした。どうせ信じるわけがない。何しろ当事者のリアムも今の状況が信じられないのだから。
「おれはPMC(民間軍事会社)に所属していて、今は休職中。それで彼女は、妖精だ」
ロジャーはしばらく黙っていた。リアムはロジャーの方を見なかったがどんな顔をしているか想像はついた。そしてようやくロジャーが口を開く。
「ん……あの……僕は確かにロード・オブ・ザ・リングやスローンズ(ゲーム・オブ・スローンズ)は大好きだけど、あとD&D(ダンジョンズ&ドラゴンズ)も好きだよ。でもさすがに今の話はふざけてる」
「何だよ、お前が知りたいっているから教えてやったんだぜ。ちなみに俺は妖精の姿が見えるんだ」
それも事実だったが、ロジャーは再び言葉に詰まる。
「もしかしたら……僕はとんだいかれた連中と関わったのかもしれないな」
リアムはにロジャーのため息混じりの言葉にくすりと笑った。
「今頃気づいたのか?」
そうしているうちに車はトンネルに入っていく。だがロジャーがおかしな事を言いだした。
「あれ? 道を間違えたかな」
そう言ってロジャーはナビの画面を覗き込んで何やら操作している。
「どうした? 故障か?」
「いや、ナビ通りに行けばトンネルを通るはずはないんだよ。だからナビの設定を間違えたかと思って調べてるんだけど……」
「おいおい、かんべんしてくれよ。もしかして道を間違えたってのか?」
暗いトンネルの中、車のライトが点灯される。
照らされたアスファルト舗装は多少古さは感じるものの特におかしなところはない。若干ひび割れや陥没が気になるが、それはイギリスの地方道路は大体そんなもので普通のことだ。
そうしていると後部座席のフルドラが反応した。
「戻った方がいい」
「え?」
「早くこの穴から出ろ」
「何故だ!」リアムが少し苛立ちながら言った。
「さっき、土地の精霊が呼びかけてきたって言ったでしょ? あれは警告だったの」
「警告?」
「何かがこの道に呪いをかけているって。とても危険よ」
話を聞いていたロジャーが顔をしかめる。
「でもトンネルの中でUターンはできないよ」
「ロジャー、彼女の言う通りにした方がいいと思うぞ。俺も何か嫌な予感がする」。
「そんな事言っても……」
その時突然、先が見えなくなった
ヘッドライトの光線は見える。だが光がアスファルトの地面を照らさないのだ。まるで光のすべてが闇に吸い込まれているかのようだ。
「何か嫌な予感がしてきた」
リアムは銃を取り出すと残弾を確認した。銃弾が通用する事態ならましだが……。
「あれ? 何か変だな……故障かな?」
「いや、ヘッドライトは壊れてない。俺にもよくわからんが……良くない事なのは間違いない。いいから今すぐUターンした方がいい」
ロジャーは意を決してハンドルを切ろうとアクセルを緩めて速度を落とした。だが車体が方向を変えようとした時、タイヤに何かが絡みつく。
タイヤがロックし、車体の方向は思っていもいない方向へ曲がっていく。
車内のリアムたちの体が大きく揺さぶられる。
ロジャーが必死にタイヤを掴み立て直そうとしたが、無駄だった。
車は横転してた。
「だ、大丈夫か……?」
シートベルトを外して車外に出たリアムが車の中を覗き込む。
フルドラは自力で車外に出ようとしている。ロジャーがショックは、朦朧としていたのでリアムが引っ張り出した。
「あ、ありがとう……」
横転した車から離れるとタイヤに何かが巻き付いていた。
「あれはなんだ? 生き物か?」
よく見るとそれは何かの腕のようなものだった。人間の腕に似ていはいるが違う。人間の手の様なものはあるが関節がない何か別のものだ。その根元はトンネルの先に繋がっている。
「気をつけろ……来るぞ」
フルドラがそう言ってトンネルの闇をにらみつけた。その手にはいつのまにか弓が構えられている。
リアムも落とした銃を拾い上げると闇に向けた。
「フルドラ、何が来るってんだ? 」
「私たちをロンドンに行かせたくない者が仕込んだ魔術の罠だな。おそらくそれは聖剣を持ち去った者たちと同じだろう」
「魔術……やっぱりそういう類のものか。俺の専門外だぜ」
リアムは眉をしかめる。
「そうだな、これは私の専門分野だ」
フルドラは弓矢を見ると、ため息をつく。
「これでは力不足だな……おい、リアム。お前が巨大な……そうだな。そこに転がっている車の三倍ほどの大きさの化け物を倒そうとするならどんな武器がいい?」
フルドラの奇妙な質問にリアムは小首をかしげる。
「こんな時に何を言ってるんだ?」
「どんな武器か教えろ?」
「あ? ああ……俺が使うならバレットM82だな。RPGもいいが、一発で仕留められるかわからん。弾数もあって強力だし射撃精度もいい」
「ふ……ん、どんな形だ?」
「はあ?」
「形を訊いているのだが」
奇妙な質問が続き、半分呆れていたが何か意味がありそうだとも感じたリアムは、ロジャーにスマホでバレットM82の画像を検索させた。
スマホの画像を見たフルドラは興味深げに見つめる。
「ふむ……私が思っていたものと少し違うが、まあ何とかなるか」
そう言った後、フルドラは何かの言語を唱え始めた。
すると手に持った弓矢が輝きだし、別のものに形を変えていく。
「それバレット M82か?」
フルドラは、片膝をついてバレットM82を構えた。
突如取り出したバレットM82にも驚いたが、重量の対物ライフルを安定させて構えている姿も信じられずにいた。
リアムが呆気にとられているとフルドラが言う。
「来るぞ」
トンネルの奥から低いうなり声のようなものが聞こえる。
闇の中に巨大な一つの眼が現れた。
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