第17話 ホワイト・タワー
ロンドン塔
ホワイト・タワー搬入口付近
ボディーガードに囲まれて大富豪タリエシン・レゲットが歩いてきた。
シトリーには、少し大げさなのではと思えるくらいだ。
「レゲット卿」
チェンバレンが近づくリエシン・レゲットに会釈する。
「こちらは?」
レゲットはシトリーが気になったのかチェンバレンに訊いた。
「こちらはロンドン警視庁のシトリー警部」
「ロンドン警視庁? 何故、ロンドン警視庁の警部が、ホワイト・タワーに? 警備のことですか?」
「いえ、別件です。私はあなたの寄贈物の事も展示会の事も、ここに来るまで知りませんでした」
そう言ってシトリーは愛想笑いをした。
「何か、高価な寄贈のなさったとか」
「ええ、先日、父が亡くなったのですが……」
「それお気の毒に」
「いえ……生前、四世紀ごろのの武具を大量にコレクションしていましてね。ただ手放すより、博物館に贈った方が有益かと思いたちました」
「それは素晴らしい事ですな。博物館ならば、お父上の思い出をいつでも見に来れる」
一瞬、リエシン・レゲットの表情がこわばった。
「でも、ロンドン博物館への寄贈ではないんですね」
「武具ならこちらでしょう」
「確かに」
シトリーは肩をすくめて同意した。
「それと興味本位でお聞きするのですが、エクスカリバーらしき剣も寄贈したとか。それ、本物なんですか?」
「わかりません。何しろ伝説の剣ですからね。実は、その剣に限っては私が最近、手に入れたものでしてね。父のコレクションを展示するにあたって目玉になるかと思って購入したのです」
「本物かはわからないんですね。残念だ」
「いや、本物と思えば本物ですよ。その方が夢があると思いませんか?」
レゲットはそう言って微笑む。
「他に用がなければ、これで。少し展示物の配置とか様子を確認したいのでね」
「ああ、お引き止めしてすみません。話せてよかった」
横にいたチェンバレンが警部に声をかける。
「それでは警部、私もレゲット卿と一緒に行きますので。大した話もできなくて申し訳ありませんでした」
「いえ、知的好奇心の方は十分満たされました。それだけでも収穫です」
チェンバレンはレゲットを案内して展示場に向かった。
その後姿を見送りながらシトリーは、レゲットとのやり取りを思い出していた。
長年、警察の仕事をしているとわかることがある。
嘘のついてる相手の微細な表情だ。
さきほどの短い会話でシトリーは、レゲットに犯罪者が偽証する時の感じに似たものを感じ取っていた。
確証はないが、彼は、いくつか嘘をついている。
金持ちが道楽で古美術品を寄付するだけの話じゃないか。
だが、何故こうも引っかかる?
シトリーは、携帯電話を取り出すと、部下のヒンクリー刑事に電話をかけた。
「俺だ。タリエシン・レゲットという男の事を調べてくれ」
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