第11話 雛乃と氷華のバスケ勝負

 日々はあっという間に過ぎていき、安城と同棲生活を始めて一週間が経った。


 相変わらず安城は俺に尽くしてくれる。家事全般をやってくれるし、ジュース買ってきてと頼んだらコンビニまで走って買ってきてくれる。つくづくヒモ男にとって垂涎ものの逸材だと思う。


 そんなわけで俺は安城と恋人関係を続け、鬱陶しい梅雨がやってくる前の生暖かい季節を過ごしていた。


 今日は体育があり、B組との共同授業だ。

 A組の俺と安城は体育着に着替え、他のクラスメイトと共に整列していた。


「今回はバスケの練習をやってもらうわ。クラス関係なく好きな人と組んでちょうだい」


 教師がバスケットボールを手のひらの上に乗せながら言う。

 好きな人と組めと丸投げされるのはめんどいんだよな。先生側で決めてほしいわ。


 組む相手はクラスも性別も関係ないらしいので、安城はもちろん、あと早坂にも声をかけてチームを組んだ。


「三人か。ちっとばかし少ないけどパスの練習ぐらいはできるか」


 そう言う早坂は陸上部だが、球技は得意なのだろうか。

 ボールを人差し指でくるくると回転させている姿を見ると、結構やれるんじゃないかという雰囲気が出ている。


「私、バスケのルールあんまり知らなくて……」


 物知らずな安城が助けてサインを送ってきたので、ルールを簡単に教えてやった。実際にパスやシュートの練習も行う。


「シュートするの、結構難しいね」


 そう言いつつも三回に一回はシュートを決めている安城だ。

 綺麗なフォームで投げられたボールが放物線を描き、見事にリングへと入ったのを見た早坂が称賛の拍手を送る。


「凄いな。今までルールもろくに知らなかったんだろ? それなのに、ここまでシュートを決められるなんて、安城さんはバスケの才能あるんじゃないか?」

「そ、そんなことないよ。普通だよ」

「普通のレベルが高いんだよな、お前たちカップルは。運動神経には自信がある俺にも負けず劣らずの動きするし」


 二年生にして陸上部のエースは気落ちするように肩を落とす。

 そんな早坂の肩を叩き、髪を掻き上げて言ってやる。


「フッ……才能ある者は惹かれ合うのさ。お前もその才能ある者の一人だ。まあ、俺ほどではないがな!」

「うぜぇ……風見ってそんなキャラだったのかよ」


 ナルシスト野郎め、と言って不敵に笑った早坂が突然ボールをパスしてくる。俺は難なく受け止めて投げ返してやった。


「あ……雨宮さんだ」


 安城が視線を向ける先には氷華がいた。腰に手を当て、こちらを睨むように見つめている。


「風紀委員の子だよな。二人の知り合いか?」

「ああ。と言っても雛乃とは関係なく、俺の知り合いだ」

「へえ。意外な相手と交友関係があるな」


 交友なんて生温いものじゃない。

 俺と氷華は威嚇し合う敵同士。最近は輪をかけて氷華が嫌味を言ってくるおかげで俺も言い返さえざるを得なかった。


 俺たちの視線に応じるように氷華が近づいてくる。


「明也、安城さん、そして早坂くんでしたか。少しいいですか?」

「なんだよ、お硬い風紀委員様はハブられてぼっちなのか?」

「それは安城さんにぴったりな言葉でしょう? 明也が声をかけてあげなければ延々と一人ぼっちで学校生活を送らないといけないような人なんですから」


 やたらと安城を目の敵にする奴だ。

 嫌味を言われた安城は氷華から目を逸らす。その様子を横目で見た氷華は鼻を鳴らし、人差し指を安城に向けて突き出した。


「安城さん、勝負をしましょう」

「勝負……?」

「ええ、そうです。あなたと明也に距離を取らせるための勝負です」

「なにそれ、そんなのやらない……」

「あら……八方美人のあなたも人の頼みを断れるんですね、驚きました」

「っ……や、やるよ」


 ムキになって勝負を受け入れてしまった安城。

 氷華はにやりと笑う。こいつ分かってて安城を挑発したな。


「なんだか剣呑な雰囲気だな、安城さんと雨宮さん」

「あいつらは仲が悪いんだ。もっぱら氷華がちょっかいを仕掛けてくるんだが」

「そうなのか。ってか雨宮さんを呼び捨てにしてるけど、どういう関係なんだよ」

「幼稚園児の頃からの腐れ縁だ」


 俺と早坂がひそひそと話し合っていると、安城が駆け寄ってくる。


「私、やるよ。明也くんと私の関係を邪魔させるわけにはいかない」

「そうだな。なんの勝負をするか分からんが、あの性悪女の鼻っ面を叩き潰してやれ」

「うん、頑張る!」


 むんっと鼻息を出して気合を入れる安城だった。

 氷華が持ちかけてきたのはシュート勝負。

 離れた位置でボールを投げ、リングに入れることでポイントを得る。

 それを安城と氷華が三回ずつ繰り返し、ポイントが多かったほうの勝ちだ。


「言っておきますけど、運動神経なら私も安城さんに負ける気はしませんので」


 自信満々に人差し指でボールを回転させる氷華。

 こいつは昔から俺に負けないぐらいの万能人間だ。運動も当然のように得意な氷華はバスケのシュートぐらい難なくこなすはずだった。

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