第10話 彼女と戯れる

 身体を洗い終え、素肌にまとわりついた泡を流した安城は、巨乳をたゆたゆと揺らして湯船に入る。


 そして、俺の前に背中を向けてお尻を下ろした。

 その瞬間に生じた感触は一生忘れないだろう。


 安城の丸々とした桃尻が、俺の太ももの上にぴったりと密着したのだから。


「ふう、あったかい。明也くんと入っているおかげか、身も心もぽかぽかするよ」

「はは、そうか……そりゃ良かった」


 俺はぽかぽかよりムラムラしてるけどな。

 脚に伝わる安城のお尻の柔らかさ。シミ一つない白磁のような背中。視界全体に安城の裸体が見えて、その綺麗さに目を奪われる。


 少しでも身じろぎされたら俺と彼女の大事な部分がドッキングしてしまいそうだ。全神経を集中させて安城の動きに応じる必要があった。


「ねえ、明也くん」

「はい、なんでしょう……」

「そろそろ裸を見せ合うのは慣れてきたかな?」

「慣れてない。全然慣れてない」

「え、そうなの? じゃあ、まだ本番はダメかな?」

「ダメ……じゃないけど、やっぱりダメ」

「どっち?」


 安城の裸体に意識が集中しすぎて自分でも何を言っているのか分からなかった。脊髄反射的に湧いて出た言葉は安城を少しだけ不安にさせたみたいで、彼女はこちらを向いて目を伏せる。


「やっぱり私……魅力ないかな?」

「そんなことない。めちゃくちゃ魅力的だ」

「だったら、どうして抱いてくれないの?」

「そ、それはだな……」


 なんと言い訳をしたものか。

 別に安城を抱いたって構わないのだ。俺たちは恋人同士なのだから、性行為に励んでも問題はない。


 だけど……なぜか俺は彼女を抱きしめることはなく、いつものダメ男スマイルを浮かべてヘラヘラしてしまう。


「お楽しみはギリギリまで取っておきたいからな。もし雛乃が我慢できないというのなら別だけど……俺のためなら我慢できるよな?」

「ん……我慢、する……」


 やっぱり彼女は俺に逆らえない。

 安城雛乃は忠犬だ。飼い主の言葉には首を縦に振ることしかできない。

 ヒモの宿主としてはSSR級の逸材だ。恐らく俺が何を言っても許してくれるだろう。


 だからこそ……彼女に危うさを感じていた。

 普通、こんなに従順な女子高生はそうそういない。彼女が人に尽くすようになった理由が必ずあるはずだ。


 個人を形成するにあたり、一番に関わってくるものは……育った環境である。幼少期に親に教えられた迷信を成長後でも信じている大人がいるように、周囲の人物や環境は子供に多大な影響を与える。


 これは仮定だが……安城の人に尽くしたがる人格に親が関わっているとしたら。


 ……これ以上考えるのはやめておこう。


「そろそろ上がろう、雛乃」

「うん、分かった」


 俺は安城と一緒に湯船から上がり、風呂場を出た。

 バスタオルを身体に巻き付けた安城が畳の上に正座し、ドライヤーで髪を乾かす。絹糸のような髪の毛が揺れるさまを、俺は黙って見つめる。


 ふと視線を下に落とせば、安城の剥き出しの素足があった。そういえば彼女は正座をすることが多く、俺の部屋にいる時でさえ姿勢を崩す姿を見せる瞬間は少ない。もしかしたら誰かに強く言いつけられて、正座を強要されていた時期があったのではないか。


「どうしたの明也くん? 私の足に何かついてる?」

「いや、すべすべしてそうだなって」

「そうかな……触ってみる?」


 安城は、やはり正座のまま器用に背中を向け、足裏を見せる。

 殻を剥いた卵のようにつるつるな足裏に俺は指を這わせた。


「ひゃうっ……足裏を触られるのってくすぐったいね」

「だろうな」


 安城の足はとてもぷにぷにしていて、餅の数倍は柔らかい。

 指の腹や土踏まずを指先でなぞっていたら、安城はくすぐったいのか正座を崩しそうになる。


「あはは、こちょこちょされるの気持ちいいかも」

「……正座だと足が痺れないか?」

「ん、慣れてるから大丈夫。それよりも明也くん、私の足裏を弄ぶの楽しんでない?」

「楽しい。すべすべぷにぷにだから永遠に触ってたい」

「うん、好きなだけ触っていいよ。私の身体は明也くんのためにあるんだから」


 相変わらず自分を他人に丸投げしやがって。

 安城雛乃という女の子は、そう安いものでもないだろうに。

 いやまあ、名字に安という文字は入ってるけど……。


 足裏をくすぐられて笑いをこらえる安城は、やっぱり可愛い女子だ。

 それと同時に、彼女は少しだけ変な女子でもあった。


 その変な安城雛乃が、俺の人生においてどのような作用をもたらすのか、今はまだ分からない。

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