第9話 彼女とお風呂

 放課後になるまで安城はどこかおかしかった。

 いつも以上にベタベタくっついてくるし……なんとなく気が焦っているように思えた。


 しかし帰宅したら、いつもの安城に戻って夕食を作ってくれた。

 カレーを食べて満足する。彼女特製のカレーは母さんが作ってくれるやつより美味しかった。


 ささっと速やかに食器を洗い終えた安城は、こちらをチラチラと窺ってくる。俺の動向を探るような視線がむず痒くなったので、何を気にしてるのかと尋ねた。


「そろそろ愛の営みに励んでもいい頃合いじゃないかなって……」


 俯きながら頬を朱に染めて呟く安城を不覚にも可愛いと思ってしまう。

 でも、ここで彼女を抱きしめていいのか。手を出した瞬間に俺はヤンデレ娘の糸に絡められて動けなくなるのでは。快適なヒモライフのために束縛されるのだけは避けたい。


 それはそれとして、安城と愛の営みもやりたいと思ってしまうのは男の性だろう。もともと顔と身体は好みだから、そのエッチなボディを揉みしだけるのなら好きなだけ揉みしだきたい。


 俺が葛藤していると、安城が意を決したように両手を上げて拳を握る。

 気合を入れたガッツポーズだ。むんっとドヤ顔をする安城は俺の手を取った。


「まずはお風呂でご奉仕するよ。明也くんは恥ずかしがってるみたいだし、裸を見せ合って慣れることから始めよう」

「お、おう……?」


 なんか俺が恥ずかしがってると解釈されてしまった。

 異性とそういう行為をするのは多少の羞恥はあるが、だからといって本番になれば男としての獣性を解き放って安城を押し倒すぐらいの気概は持っているつもりだが。


 鼻歌を奏でる安城は着替えを用意する。俺も自分の着替えをタンスから引っ張り出して、風呂場に直行する。


 脱衣所で安城が服を脱ぎ始める。

 上着が脱ぎ捨てられた瞬間、ぷるんと揺れたおっぱいが外界に晒された。クラスの男子が思わず視線を集中させてしまう魅惑の膨らみ。その生の姿が俺の目の前でたゆたゆと揺れている。


 思わず乳房に見入ってしまう俺に気付いた安城が、くすっと笑う。

 

「どうかな、私のおっぱい」

 

 自らの双乳を下から揉み上げ、いくらでも見てもいいよと主張してくる安城。細くしなやかな指が食い込み、その指に沿って豊かな乳肉がむにゅっと押し潰されている。


 乳房の頂点に控える薄桜色に色づく突起も隠すことはせずに見せつけてくる安城は、顔を真っ赤にして視線を横に向けていた。さすがに恥ずかしいらしく、肩が少し震えている。


「最高だな……こんなに素晴らしいおっぱいを好きにできるのが俺だけだと思うと、生きてて良かったと実感するよ」


 俺は安城の肩に手を置いて感動を伝えた。

 ぱあっと表情を晴れやかにさせる安城。そして勢いよく下着まで脱ぎ捨て全裸になる。


 彼女にだけ恥ずかしい思いをさせるわけにもいかない。

 俺は意を決し、上着と下着を脱いで身体を晒す。


「わっ……すごい……」


 安城が俺の股間に視線を集中させる。

 当然のように息子はそそり勃っていた。同級生女子のエロい裸体を見て勃たないわけがない。まじまじと見つめる安城は嬉しそうに微笑んでおり、まるで親からプレゼントを貰った子供みたいだった。


 風呂場に入り、まずは身体を洗うために風呂椅子に座る。

 俺の背後に膝をついた安城は、泡立てたボディタオルで背中を優しく擦ってくれる。


「痒いところはないかな、明也くん」


 決して粗い網目で肌を傷つけないように、ゆっくり丁寧に背中を擦る安城の声は慈しみに溢れていた。俺に奉仕できるのが至上の幸せであるかのごとく、恍惚の色が含まれた声で囁く。


「明也くんが望めば、いつでもこうやって洗ってあげるからね……未来の旦那様の身体を綺麗にするのも私の役目だから……」

「ありがとう……なんだか悪い気もするけど」

「ふふ、何も気にしなくていいんだよ。私は明也くんのために存在してるんだから。好きに使ってくれて大丈夫だからね?」


 どうしてそんなに俺に執着するのか分からない。

 そもそも安城が俺に惚れた経緯だって知らなかった。


 というか、俺は彼女について何も知らないのだ。どんな家庭で育ったのか、好きな食べ物はなんなのか、趣味はあるのか……分かっているのは彼女がヤンデレで、惚れた相手に尽くしたがるということだけ。


 それ以外の背景が謎に包まれている安城雛乃という女子に俺は流されるまま奉仕されていた。


 背中を洗ってくれた安城に改めて礼を言い、俺は一足先に湯船に浸かる。温かい湯を堪能しながら、風呂椅子にお尻を下ろして身体を洗う安城を眺める。やがて彼女は歌を口ずさみ始めた。


「『ロンドン橋おちた、おちた、おちた。ロンドン橋おちた、マイ・フェア・レディ♪』」


 楽しそうに声を弾ませる安城の瞳は、相変わらず色が無かった。

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