第8話 風紀委員の幼馴染
「ふあぁ……ねっむ……」
昨夜はあまり眠れなかったせいで、授業中にあくびが止まらない。
言うまでもないが、寝不足の原因は全裸の安城が横で寝ていたことだ。
学校があるために寝ようと努めたが、目も股間もギンギンのまま朝を迎えてしまった。
授業を半分聴き流しながら、あくびを何回もしていると隣の席から紙くずが飛んできた。くしゃくしゃに丸められたメモ帳の切れ端を開いてみれば『昨夜はお盛んでしたね』と書いてある。俺は紙を丸め直し、前園に投げ返してやった。
授業が終わり、休み時間。
安城が前園の横を素通りしてやってくる。
「せっかくの休み時間だし、校内デートしたいな」
「そうか……でも休み時間って短いよな。だから教室デートで勘弁して――」
「……ダメなの?」
「よし、行こう!」
しゅんと肩を落とす安城の姿を見たら断れない。
もし断ったとして、教室内でヤンデレモードを発動されたら困るしな。
「どこに行こう……雛乃は行きたいところあるか?」
「明也くんとなら、どこでも」
どこでもいいというのが一番困るんだよな。
俺の彼氏力が試されているような気がして、考えた結果、無難に校庭のベンチに行った。裏庭付近の孤立したやつとは違い二つ並んでいる自販機で俺と安城の分の飲み物を買う。
二人でベンチに腰掛けて何気ない話をする。
仲良さげに会話する俺たちは、傍目からだと普通の恋人同士に見えるはず。
彼女ができたのは初めてだったが、わりと何だか上手くやれていた。
自分の変な器用さに呆れながら、楽しそうに話す安城に相槌を打ち続ける。
「それでね、今度の休日はお出かけデートしたくて……」
「いいな。雛乃と一緒なら、どこでも楽しそうだ」
「そうかな……そうだといいな……えへへ」
もじもじと内股を擦らせて嬉しそうに笑う安城。
彼女の横顔を見ていたら、視界の端で黒髪が靡いた。
「彼女と一緒に仲良く校内デートですか。随分と楽しそうですね」
嫌味のような声色で言葉を投げかけてきた黒髪ロングの女子。
……嫌な奴と会ってしまった。
「お前には関係ないだろ……
「関係あります。風紀委員として校内で盛られては困りますから」
氷華は勝ち気に慎ましやかな胸を張り、制服に付けられた風紀委員の腕章を見せつけてくる。
雨宮氷華。俺の幼馴染。高校に入ってから疎遠になっていたが……なぜか今日は絡んできた。
「めんどくせぇ。さっさと失せてくれ」
「ふん……相変わらず生意気なクズ男ですね。そちらの彼女さんはお得意の媚びへつらった態度で落としたんですか?」
「そ、そんなんじゃ……ねぇよ……?」
「言葉に詰まっているじゃないですか」
溜め息を吐いた氷華は、ベンチに座る安城を見下ろす。
「あなたも、こんなクズ男と付き合っていては食い物にされますよ。即刻別れるべきです」
「……勝手なこと、言わないで」
俯いている安城は身体を震わせる。
氷華は嫌味に笑うと、更に言葉を重ねる。
「それとも、落ちこぼれ同士お似合いというやつですか? あなたの噂は知っていますよ、安城雛乃さん。どうやらクラスの問題児みたいですけど……精々、私たち風紀委員の手を煩わせないでくださいね?」
「……そんなこと、しない」
安城の否定の意思に対し鼻を鳴らした氷華は、俺を一瞥して去って行った。
「ごめん雛乃、不愉快だったよな。あの馬鹿に今度会ったらキツく言っておくから」
「あの人、明也くんの何なの?」
「あー……ただの腐れ縁だよ。幼稚園児の頃から付き合いがあって、高校に入ったら話さなくなったんだけど……なんで今更ちょっかい出してきたんだろうな」
へらへらしながら頭を掻く俺にジト目を向ける安城。
頬を膨らませて睨みつけてくる彼女に、とりあえず俺は頭を下げた。
「むう……いいもん。明也くんの彼女は私だし。あの雨宮さんって人には負けてないし」
「勝ち負けの問題なのか?」
そもそも何を争っているんだ。
なぜか氷華にジェラシーを感じているように拗ねる安城の肩を抱き、しばらく身を寄せて落ち着かせた。
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