第7話 同棲生活が始まり、彼女と寝る
安城が戻ってきた頃には、外はもう夕焼けに包まれていた。
何着かの私服と歯ブラシ、生理用品などを鞄に詰め込んで持ってきた安城は、部屋に私物を置いた。
「そろそろ夕ご飯を作らなきゃね。ちょっと待ってて」
制服から私服に着替えた安城が張り切った様子でキッチンに向かう。
「家にまで行って疲れてるだろうし、簡単なもので構わないぞ」
一応は安城の体力を気遣っておく。
分かったーとキッチンのほうから返事がした。俺は夕飯ができるまで部屋でごろごろする。
しばらくスマホを弄ってると、安城ができあがった夕飯をお披露目する。丸テーブルに料理が並べられ、俺は有り難くいただくことにした。
簡単なものでいいと言ったのに、わりと本格的な野菜スープとハンバーグを出してくる彼女に若干呆れるが、それはそれとして美味い。少し濃い味付けも俺好みで、すぐに平らげてしまった。
夕飯が終わり食器を片付けに行った安城が鼻歌を奏で始める。
ゆっくりとしたリズムの曲には聴き覚えがあった。
「『ああ、なんと甘美な恵みよ。あなたは惨めな私を救ってくれた。何もかも失っていたけど、たった今、探していたものが見つかった。愛が盲目というのならば、私は永遠に光を無くしたままで構わない……』」
勢いづいてきたのか、鼻歌が歌声に変わる。
知らない歌詞だ。もしかしてオリジナルソングなのか。
いつもの囁くような儚い声で歌われる曲を、なぜだか俺は黙って聞き入ってしまった。
「お風呂が沸いたよ。一緒に入る?」
畳の上に座ったまま詰め寄り、にっこり笑顔で覗き込んでくる安城を手で制す。待てと言われた忠犬のように静止する安城に言った。
「雛乃から入ってくれ。俺はやるべきことがある」
「やるべきことって?」
「言うまでもないことさ。さあ、ゆっくり浸かってきてくれ」
「むう……分かったよ。私が浸かった後の残り湯は飲んでいいからね?」
飲まねぇよ。
そう突っ込もうとしたが、あまりにも期待に満ちている表情の安城に気圧されて言えなかった。まあ、そんな目で見られても絶対に飲まないけどな。
風呂場は居間と隣接しており、トイレと洗面所は区切られている。
ちなみにバスタブは結構大きいので、二人で入ることが可能だ。そのうち安城と入る機会があるかもしれない。
PCの前に座った俺は、作業に移る。
キーボードを叩いて画面上に文字を生み出していき、二十分ほどが経った頃に安城が戻ってきた。
「気持ちよかった~。浴槽が大きくて驚いたよ」
風呂上がりの安城は髪がしっとりと濡れていて、肌もほのかに上気して桃色になっている。身にまとう服は薄いTシャツとショートパンツ。ブラを付けていないのか、白いTシャツを押し上げている膨らみの頂点に丸く小さな突起が浮き上がっていた。
バスタオルで髪を拭く安城が色っぽくて、思わず見入ってしまう。女子の風呂上がりの姿というのは、なんともそそるもので……いかんいかん、俺も早く風呂に入って寝なければ。
安城が入った後の風呂に浸かる。
なんとなくバスルーム全体に甘い香りが漂っている気がした。
さっきまで安城が浸かっていた湯に俺も浸かっていると考えたら、胸の内がざわついてくる。嫌なざわつきではなく、異性のことを気にする男の昂ぶりにも似たものだ。
「ダメだ……のぼせる」
熱くなってきた身体を冷ますために湯から上がった俺は、しばらく風呂椅子に座って全身を映す鏡と向き合っていた。
風呂を終えて、就寝の時間になる。
「布団は一つしかないんだが……」
「一緒に寝ればいいよね?」
「ですよねー」
俺たちは恋人だ。よって、一緒の布団で寝るのは別におかしなことじゃない。でも安城のことだから密着してくるんだろうな……俺の股間は耐えられるだろうか。
「よし……寝るか」
「そうだね」
頷いた安城は――Tシャツを捲りあげて脱ぎ捨てた。
「なああっ!?」
「どうしたの、明也くん?」
上半身裸になった安城が首を傾げる。
その仕草だけで、さらけ出された二つのおっぱいがぷるんと揺れた。
女の子の生おっぱい。男には存在しない曲線で膨らんだ乳房の先には、ぷっくりした桃色の蕾がある。
上半身を屈めておっぱいをたゆんたゆんと揺らしながらパンツまで脱ごうとする安城を止めた。
「どうして脱ぐんだ!?」
「私、寝る時は裸じゃないと寝れなくて……」
「そ、そうなのか」
「うん……よいしょっと」
下着まで脱いでしまった安城は布団に潜り込んだ。
毛布を捲って半分空いたスペースをぽんぽんと叩いた安城が、
「さあ、一緒に寝よう? 明日も学校があるから、早いうちに寝ておかないとね」
ぶっちゃけ寝るどころじゃないんだが。
なにせ、すぐそばに全裸の女子がいるのだ。見るだけでも滑らかで柔らかいと分かる真っ白な素肌を晒した絶世の美少女が。
おっぱいもお尻も股間も何もかもを隠さずに横になる彼女がいて彼氏は冷静になれるだろうか? いや、そんなことは不可能だ!
「ぐっ……分かった。寝るか」
「初めて一緒に寝るから、ドキドキするね……」
安城は自分が裸になっていることを気にする様子はない。
寝る時には裸でいるのが当たり前なのだろう。
なるべく安城のほうを見ないように努め、布団に入る。
毛布は温かく、安城の体温が伝わってくるようだった。
彼女が身じろぎするたびに、肌が当たらないかドキドキする。
布団全体に女の甘い香りが漂っており、媚薬みたいに俺の脳を侵していた。
「ん……すうすう……」
安城が安らかな寝息を立て始める。
もう寝てしまったのか。
密着してはないものの、手を伸ばせば触れられる距離に彼女がいる。
「これはヤバいな……」
彼女持ち男子だけに味わえる甘美な体験に心が踊らないかと言えば嘘になる。しかし、ここで安城に陥落してしまえばヤンデレパワーで束縛される可能性がある。
快適なヒモライフを手に入れるためには決して彼女のエロい身体に溺れることなく、むしろ俺が溺れさせないといけないのだ。
「寝るか……」
穏やかに眠る彼女と少し距離を取り、背を向けて目を閉じた。
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