第6話 同棲生活、しよ?

 アパートの階段を上がり、203号室のドアを開ける。

 部屋に入った俺たちは、同棲生活について話し合うことにした。


 靴下を脱いで裸足になった安城が畳の上に正座して、真剣な面持ちで言った。


「まずは大事な話から……セックスは週に何回しようか?」

「いきなりそんなシモの話をされるなんてびっくりだ」

「とっても大事なことだから先に決めておきたかったの。私は毎日最低でも三回はしようかなって思ってるんだけど」


 どうかなと首を傾げる安城に、俺は頭を抱える仕草で応答した。

 

「期待しているところ悪いんだが、いくら性欲旺盛な男子高校生でも毎日三回は辛いと思うんだ……」

「それでも私を愛してくれているのなら三回ぐらいは問題ないよね?」


 どうなのと聞いてくる安城の勢いに押される。

 色彩の薄い大きな瞳でじっと見つめられて視線を逸らしてしまう。

 俺が安城の太もも辺りで視線をさまよわせていると、突然スカートが捲りあげられた。


「明也くんが何回できるか……今から試してみよっか?」


 そう囁き、股間を覆う純白のショーツを見せつけてくる安城。

 程々にむちっとした柔らかそうな太ももの先にある楽園に俺の意識は釘付けになる。正座したまま脚を開くという若干無理やりな体勢をしてくれているためにショーツが股の形に沿って食い込み、魅惑のシワを作り上げていた。


「うっ……」

「ふふ、反応しちゃったね」


 安城が俺の股間を見てくすくすと笑う。

 みっともなくズボンを押し上げる息子をなんとか鎮ませ、安城の肩に手を置いた。


「そう焦らないでくれ。今日は体育の授業があって疲れただろう? セックスなんてこれからいつでもできるんだ。ひとまずは休息しつつ今後について話し合おうじゃないか」

「うーん……なんだかはぐらかされてるような気がする……もしかして明也くんは私とセックスしたくないの……?」

「ち、違うんだ、雛乃の体力を気遣ってだな! さっきは三回なんて無理だと言ったけど、雛乃相手なら何回だってヤれちゃう気がするから!」


 なんという言い訳をしてるんだ。

 後で自分が苦しくなる類の言い訳をする俺をジトっとした目で見る安城。そして正座から体育座りになった彼女は拗ねたように顔を膝に埋めた。


「やっぱり私は魅力ないんだね……それもそっか……こんなブスとセックスなんて普通はしたくないよね……もっと魅力的にならないと……明也くんが求めてくれるような女にならなきゃ……」


 低い声でぶつぶつ呟き続ける安城さん。

 やだ怖い……ヤンデレ怖い……。

 これはもう俺が一肌脱ぐしかないのだろうか。文字通り服を脱いでヤるしかないのだろうか。


 俺は童貞である。イケメンでモテるのに彼女を作ったことがなく性的な経験が皆無。それを地味に気にしているので安城を満足させられるか不安で怖かった。とても情けない話だが、セックスにビビっているのだ。


「なんてね。冗談だよ」


 ぱっと顔を上げた安城は微笑む。


「明也くんは私がブスでも愛してくれる優しい人だから、きっと本当に私の体力を気にしてくれてるんだよね」

「そ、そうっすよ?」

「ふふ、ありがとう。もっと体力をつけて、明也くんと夜から朝まで愛し合えるように頑張るね?」

「が、頑張ってください……はは……」


 俺の体力のほうが持つか心配だった。

 立ち上がった安城は、襖を開いて振り返る。


「生活用品を取りに、いったん私の家に戻るね」

「そういや家の人と話し合わなくていいのか? 勝手に彼氏と同棲するのもまずいだろ?」

「大丈夫。家には私しかいないから」

「雛乃も俺と同じく一人暮らしだったのか」

「うん。じゃあ、行ってくるね」


 部屋を出ていく安城を見送った。

 張り詰めた空気から開放された俺は、仰向けになって大きく息を漏らす。


「これからどうなるんだろう……」


 初めての彼女。初めての同棲生活。

 高校二年生になってからというものの初めての経験続きで胃もたれしそうだ。


 これからも初体験は続くんだろうな……性的な意味でも。

 とりあえずコンドームを買い溜めておいたほうがいいかもしれない。

 安城は俺よりも絶倫っぽいから、あるだけあっても腐らないだろうし……。


 俺は部屋の隅に置いてあったPCを操作し、通販サイトでコンドームを注文するのであった。

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