新規録音 #002
『現在一時五十五分、記憶が一時間限りであるのは間違いない。幸い、この施設には至る所に時計があり、時間の把握には困らない。私はこの一時間、被験者たちを掻い潜り、施設の構造把握に努めようとした。
結論だけ述べると、私の試みは失敗に終わった。
建物は想像以上に複雑な立体的迷路と化しており、全容の把握は困難だ。上下に階層が広がり、建物内の坂道、網の目状に広がる廊下、無数の手術室。確認しただけでも百はこえる被験者が囚われているものと思う。手術室の他に、一定の間隔で倉庫や管理室と思しき部屋が存在する。
倉庫には私では判別不能な薬品が並び、医療器具の予備、清潔なタオル、精製水などが置かれている。事務用品や清掃具、洗剤などが詰められたロッカーも存在した。
手術用のメスを一本、自衛用として持って行くことにする。死体と血痕から、好戦的な被験者もいることが確認されている。他者には十分注意する必要がある。
遭難を防ぐために、すでに通過済みの通路、一度入った部屋に関して印を残すことにした。×印を四角で囲んだものだ。ほかの被験者による追跡を防ぐために、必要最低限の情報しか残さないことにする。
また記憶消去後である一時間を過ぎても、断末魔や争い合う音が聞こえることから、先に説明された私たち被験者の生き残りをかけたゲームは続いているものと推測できる。
私以外の者がどうやって記憶を繋いでいるか分からなかったが、ある部屋に血文字で「最後の一人になるまで出られない」と書かれたメッセージが残されていた。管理室で筆記用具等も確認しており、断片的にではあるが、それぞれが記憶を残す方法を有していると思われる。
このレコーダーも含め、これらの道具は実験のために用意されたもので、私たちが積極的に争い合うよう仕向けているのだろう。記憶に時間制限をつけた理由は今もって謎であるが。
望み薄だが、殺し合うよりも脱出方法を模索すべきだと考える。可能ならば、ほかの生存者の記録媒体を手に入れ、情報を収集するべきだ』
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