そして、また

そしてまた眠れない夜に

昔入り浸ってた真夜中に久しぶりに来て

無愛想なマスターにテキーラを1杯

しんとした店内で独りごちる


「僕は相変わらずですよ」

聞かれたわけでも無く話し始める

マスターからの返事は無い

此処はいつもそんな感じだった


「僕にはもう何も無いんですよ」

「僕の意図に反して今日も誰かを傷つけて」

「そうしていつも自己嫌悪」

昔と同じ事を言って情けなくなる


そんな僕に彼は何も語らない

同情も慰めも何も無い

僕の他に誰かが来る訳でも無い

僕の情けない独り言だけがそこにある


もう自分の生い立ちの所為にするのは勘弁だ

けど変えられない僕自身の言い訳に成り下がって

今日も誰かを傷つけてく

別に傷つけようとしてなくたって


「結局こんな僕だから」

つい諦めを口にしたくなるけど

それをしたところで過去は変えられない

変えられるはずの未来すら変えられなくなる


誰にも言えない愚痴を喋るだけ喋って

代金だけを置いて店を出る

白けた空に溜息を一つ

「今日も死ねなかったな」と諦めが積み重なる


僕の「死にたい」「消えたい」感情は

誰かの「構ってちゃんだ」と失笑で掃き片される

本気で死にてえ夜も消えたいと思ってた

けど思った事無い人には分からない感情だ


そしてどうしようも無くなった時ここに来る

もう誰にも言えない感情を吐き出すため

別に同情も慰めも要らない

だからこの場所がちょうど良かった


「さて明日も仕事だ」と

10万キロをとうに超えた軽に乗って

「もう二度と来てやるか」と

もう何十回と唱えた決心と走り出す


今日も傷心高速道路には誰もいない

制限速度を越す速度で走っていく

相変わらず冷たいもんだな、と笑ってしまった

そんな朝方SAが、なんだかんだ僕は好きだ

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