第19話

坂を上った先にある病院。


 ……その横の老人ホームを訪ねることは、わりと容易でした。


入り口でアルコール消毒をして自動ドアの前に立てば、扉が開きます。




昔、母とよく老人ホームの祖父に会いに来たなとそんなことを思い出しました。


ハーフアップの姿の母を思い出すと、なにか、よくわからない感覚にとらわれます。




 入ろう、とぼくらが足を踏み出したときに目の前を担架が通りすぎました。入り口からも見える、奥の部屋の『霊安室』が、開いたままになっています。





「あの人、裏社会の映画に出てた俳優さんだったからね……」




知らないおばあさんが、話をしていました。


「葬儀は写らんだろなぁ……」




 玄関からすぐのロビーでは、細い身体のおじいさんが呟きます。


芸能人は死後に、再現映像や、当時のドラマを流しますが、彼の存在は死後、放映出来ないのだと。


「なるほど、そういうこともあるんだ」




ぼくが呟くと、絵鈴唯も言います。




「テレビ界は、そういうのをタブーにしてるみたいだからな」




「そういうの?」




「暴力、宗教、携帯ネタはNGなんだとさ。


僕たちの誘拐事件も深く扱わない理由は、たぶんこれなんだよな」




あれは、事件にはなった。でも、正しい犯人映像は、ほとんど出回らなかったそうです。


解決、めでたし、めでたし。


それが世間の印象。




「未だに変なやつに狙われるのにな」




「卒業後、空白期間の理由も書けないぞ」




「ほんとそれ一番困るんだけど……」




隠蔽は、つまり、進路に重く影を残すわけなのでぼくや絵鈴唯も、悩むところです。


 絵鈴唯はだいたい入院していたし、ぼくもそれなりにはしたことがあるので、病気、と書いたりしていますが。




これでごまかすのもわりと大変です。


一年中病院にいるわけでもないし、かといって真実もかけない。




「まともな会社が病気ですぐダウンするやつなんか雇わないからな……」




やり過ごすたびに、やり過ごしきれなくなる過去。


狙われたり連れ去られたりした後の方が、保証なんかない。




 今までなにをしてたのかを言えないぼくらは、牢屋に居たとか、売春だとか、整形だとか(これが一番謎)


噂を沢山流され、さらに近所の人によく嫌がらせを受けたり、ゴミをまかれたりしています。





論文などに使われることもありました。


 それを事実と認めるまで逃がさない、と。


近所の人からたまに付きまとわれていたときもあるし。


絵鈴唯は絵鈴唯で、見た目もあって、盗撮や盗聴が増えただけな感じ。




事件で犯人が警戒、どころか、やらかしが増えてどうするのか。






「隠蔽だけされたから、


アニメの主人公みたいだね。平凡な日常に、一歩あるけば不審者が居る」


絵鈴唯は、今では、よくそうやって呑気に笑います。


 ぼくもとりあえず学費にとバイトをしては辞めていますが今はまだこどもだから助かってるだけという現状で、空白は空白。




口を開けば落とされるだけ。




縛られた手足が楽になっただけ。




空白は空白。


決して戻りはしない。





 病気、を書き続けるのは苦しくて、怖くて。


けれど過去はなくならないし、頻繁に休む相手を大事にする場所もない。被害者として映りたくはないけど事件自体も隠蔽され……どうせ死ぬなら誘拐の被害者を集めて一斉に提訴した方が、まだ未来が明るいかもしれない。







病気を書き続けるのも、もう疲れた。








大きな机があるロビーにはお年寄りが数人居て、テレビを見たりお菓子を食べたり、談笑していました。




なんとなく病院の待合室を思い出します。


どれが【東後、跡川、馬尾、椰子田、西野】さんだろう?


今日来てない人も居るかもしれませんが。





「唄をわすれた




かなりやはー♪」




知らないおばあさんが、部屋に踏み出そうとしたまま固まっていたぼくの服の裾を掴み、急に歌い出します。


他のひともそれに合わせて手を叩きます。




「え。な、なに?」




 かごめかごめのように囲まれたまま、暫く、その歌われるのを聞いていました。




「さくらちゃんも、歌うのよ。さくらちゃん」




やがて、おばあさんはにこにこしながらぼくを見ています。




「え、えっと」


ぼくはその童謡をよく知らなかったので口を開閉しながら固まっていました。


それと、さくらちゃんではありません。


山に棄てるかどうするかという歌声を聞きながらあわあわしていると、背中になにかが……




「ほら、これ。訪問者はつけるらしいからもらってきたぞ」




絵鈴唯が、後ろから、ぼくの首にカードの入った紐みたいなのをぶらさげます。




「あ、ありがと」


_________


2018.12.2819:28




と――――




「ねえちゃん」


 おじいさんが、絵鈴唯に話しかけてきました。




「名前、なんて読むんだ?俺は学校に行ってないから」




「……は?」




絵鈴唯がぼそりと呟きます。ぼくはとりあえず絵鈴唯の腕を引きました。


「一旦、落ち着こう。ぼくらの目的は」




「椰子田ってやつを探している。じいさんは、知らないかな」




「俺はアル中の、アルだ。有太って名でな」




おじいさんの返答。


絵鈴唯の拳がぶるぶる震えていたので、とりあえず外に引っ張っていきました。


――ずっと見ていたシイナちゃんが、私がかわりに、と言います。




「ごめん、宜しく……」




 ぼくは、昨日からずっと申し訳なくて、手を合わせながら謝りました。


「……っ」




 絵鈴唯が顔を少し赤くして何か睨むようだったので、やはり連れ出してよかったと思いました。


「絵鈴唯、アル中のアルさんは、その名前が皮肉でつけられたってことも。ぼくたちの誘拐のことも」


ぼくが何か言おうとしたのを遮り、絵鈴唯は言います。




「……。悪い」




「いや、間に合ったさ」




「死ねばいいのに」




「いや、何しに来たんだ、落ち着いて」




すー、はー、としばらく深呼吸すると、絵鈴唯はようやく少し落ち着きを取り戻したようでした。




「……いや、やっぱり、まだだめだ」




 絵鈴唯は、なかに入ろうとして、またイライラするのかドアを掴むのをやめました。




「ああああああああああああ! 気持ち悪い、汚い手で触るな、吐き気がする!」




「絵鈴唯」




ぼくは、絵鈴唯の手をとって少し奥の、病院と反対側の駐車場まで行きます。




「アルさんはアルさんだよ。絵鈴唯でもぼくでもない。誰でもない」







「ぼくは今の、絵鈴唯が好きだよ。


今までで一番。


他人に好意なんか持つやつが一番悪いに決まってる。


感情なんかわかるわけないのに、身勝手過ぎる。


そんなもので他人を判断してるのが、許せない。


公私混同を、他人に押し付けて、最低だ。


その責任を取れなんて、死ぬほうがマシなことだ。二度と他人を好きになるなって言いたいくらい」


「……瑞?」




「好き……」




カードを首に下げられたこと、好きというワード、それから。




――ふと、思い出した。


婚約首輪……


じゃないけど、ぼくが模型にあげた海の魔除けのお守りだ。


「真ん中についてた石だけ消えちゃってた海のお守りの石、やっと帰ってきたみたい」


それで……


そうだ。




「――石がなくなってた日におじいさんと会ったことならあるかも」




「というと?」





「絵鈴唯のお見舞いにも少し出掛けたから、あの辺を、互いに通ってたかもしれないってこと。




――あのお守り、リボンがつけられないからって、ぼくが模型のためにキーホルダーから作ったものなんだけど」




「知ってる」




「肝心の、つけるときに、石だけ無くして」




「しばらく悄気てたな」




 今の絵鈴唯はさきほどまでと違い、楽しそうでした。


ふと気づくと、そばにシイナちゃんが立っています。




「で。あれをあげたの、絵鈴唯でしょう?」




ぼくは、シイナちゃんに、聞きました。




「はい。お守りだって」




彼女は頷き、絵鈴唯は不満げです。




「見てもないのにー」




「ペンダントに直したものをまた組み替えて、ストラップに戻す暇人だぞ。しかも金具もカニカンじゃなくて、通すやつだし継ぎ目ないんだけど!」




ぼくが訴えると、絵鈴唯はなーるほど、という感じになりました。




「ああそれはハンダごてで溶かして、付けたよ?


乾かすの大変なんだからね」




……。


やっぱりこいつだ。




ぼくらを呼びに来たシイナちゃんと中に戻ると沢山のおじいさんたちに『こんにちは』と挨拶されつつ中に向かいました。




「こ、こんにちは……」




「若い子が来るの久しぶりだな」




知らないおじいさんが言います。




「なんだその声は!」




 強面のおじいさんからいきなり怒鳴られて、えっとなっている間に、彼は続けます。




「若いのは挨拶もできんのか!」




馬尾さん、馬尾さん、と誰かが口々に宥めていました。





「ごめんなさいねぇ。ほら、これ、食べる? 値下げで沢山買ったからって家族からもらったマシュマロ」




 か細い声のおばあさんが、ぼくに近づいてきて皿に入ったそれを向けます。




「あ……いえ、甘いのはあまり好きじゃなくて」




ぼくが断ると、そこの子は?


と、今度は絵鈴唯とシイナちゃんに向けています。


がしゃん、と奥の方から音がしました。


職員が慌ててそちらに向かいます。


「谷さん、大丈夫ですか?」


「あーあ。折角直してもらったのにぃ」




なにかが割れたようで、そんなやりとりを続けていました。






「せっかく直したのにね、今日で台無しなのよ。うふふー、どう思う?」




「谷さん……物は、いつか壊れます」




職員とのやりとりが続いています。


ぼくたちは、ぼんやりしていました。




「椰子田さんは、もうじき帰るらしいので、お話しして待たせてもらうことにしたんです」




シイナちゃんがいいます。




「何度も直すと直せなくなるのよ?」




「捨てるしかないですね」


おばあさんと、職員の会話……なんだかむなしい気分になります。


馬尾さんが、ぼくらを指差しました。




「お前、あれだろ! さくらちゃんの親殺しだ!」




 ぼくは立ち止まっていました。


いまのところ、人を殺めたことは、ありません。周りが、馬尾さん、馬尾さんと口々に宥めていますが、彼の罵声は続いていました。




「さくらちゃんの父親が死んだんだ。さくらちゃんは作家なもんだから、こんな髪のやつだって書いてる」




ぼくは、何を言えばいいかわからなくて、ただ馬尾さんを見ていました。周りが何か言っていますが、あまり頭に入ってきません。




(そうか。さくらちゃんって……)





 絵鈴唯がやけに静かな声で言います。




「千津本さんが亡くなったのは彼のせいじゃない。彼は、犯罪集団から逃れてきた、それだけです」




 その道中でも人が死んだので、ぼくは沢山嫌われて居ました。


 犯罪集団の罠は、まず味方同士を裏切らせて殺させるため、相互からその親戚や家族から騙していくし、それで洗脳がとけない人もいて、尚更に激しく嫌われている。




 ぼくは『あの日』恨まれるまではくずざくらの大元が、まさか作家の『櫻さん』の父親だなんて知らなかった。


……けれど、ぼくたちがやってきたことは、めぐりめぐって、彼女の父親を殺したことになります。




「さくらちゃんは、ここにちゃんと、書いているんだよ! こんな髪で、こんな格好のやつが……っ」


 馬尾さんが、なにやらもっていたハードカバーの本を向けてきます。





ぼくは、ただでさえ厄介なものを抱える身体。だから沢山絡まれることは、それだけ危険性があります。


それこそ捕まったりするようなことになったら、逃げ場がない。


 ただでさえ狙われているのだから、目立てばそれだけ目をつけられる。だからそんな風な理由を与える機会なんて……




『悪いこと』なんて考えるだけで恐ろしいというのに。




「俺ぁ知ってるぞ。


こいつは、売春で稼いでる。見た目はこんなだが、とんだ――――」





パン!





大きな音が響きました。


 目の前の馬尾さんの頬には、もみじのような跡がついていて……隣に居た絵鈴唯は無表情で、平手をゆっくり下ろしています。





「……絵鈴唯」




その『皮肉でつけられた名前』をぼくは呼びました。


隣に居る彼は無表情のままだけれど、なぜか怒っているようです。




「絵鈴唯」




 じっと馬尾さんをにらみつけて黙っている絵鈴唯の肩を抱きながら、ぼくは言います。




「すみ、ません」




馬尾さんは顔を真っ赤にしてわなわなと震え出しました。




「絵鈴唯、椰子田さんに会えなくなっちゃうよ」





「こいつが……」




 絵鈴唯の震えた声を、久々に聞いたような気がします。




「こいつが」




「よくあることだ。それよりも、今はおとなしくしていよう」




人に愛されることに比べれば、なんて、慣れきったことでしょう。


シイナちゃんに想われていた時間より、ずっと、楽な気がする。




早く、空がぼくを迎えに来てくれたらいいのに。


お預かりセンターのセキュリティは、甘いんだろうか。




そんなことばかり、考えている。




「確かにぼくは人殺しです。櫻さんが殺したと思っているなら。


ぼくが父親を殺したんです。


櫻さんが、ぼくを題材に本を描くくらいです。


これでいいですか」




 どうでもいい。興味がない。


皮膚をいくら切りつけても、血が出ても、ぼくはどうでもいい。


重苦しい愛より、ずっといい。




 模型は、愛を持たない。持つかもしれない。


冷たくて、動かなくてもあたたかいんだ。


会話がなくても、優しいんだ。


早く帰って、抱き締めたいな。




 好きな人は生きてなくて、生きていようと寝ているところにしか興奮できなくて死体は、一歩まちがえば、本当に、部屋に飾るかもしれないくらいだ。




壁に凭れてそんなことを思います。




タカおじさんが 死ねばいい。ぼくに触れないでくれればそれで楽になるのだ。


他の断罪なんか、ほんとは二の次。




 何をしたって、それだけしか頭に無いような気がする。




「歌を忘れたカナリヤは……」




 またおばあさんたちが拍子をとって歌い出します。気をまぎらわせようとしてくれているのでしょう。




馬尾さんは人殺しを一瞥して、ふん、と鼻を鳴らして「そうやって媚びようとしたってお前の黒い部分はわかっているんだ。コネでうまく生きさせてもらっているようだが、いつかは破綻するよ。あまり年寄りを舐めるなよ」と言いましたが、周りがあまりに馬尾さん馬尾さん、と止めるので、しぶしぶ黙っていました。


「椰子田さん、まだかなぁ……」




シイナちゃんがぽつりと呟くと、横から声がかかります。




「俺ぁ、吉田だが?」




皮膚が少し垂れて目が窪みぎみのおじいさんが、横からシイナちゃんに声をかけます。





「あんちゃんたちも、チャラチャラしよるけど、バンドマンか? 俺も昔はよく、ロックフェスティバルなんかに行ったよ……懐かしい」




行ってません。


 しかし『この見た目』、チャラチャラするための自己主張に見えてるのか。それはそれでなんだか面白くて吹き出しそうになります。


少なくとも、父親殺しよりはマシな肩書きでしょう。




「バンドマンはしてないですね」


絵鈴唯がさっきよりは落ち着いた、とわかる声で言います。




「そうか、おっと、ごめんよ……」




通路になっている奥の方から、職員の人がなにか呼びました。吉田さんに言ったようです。


 向かおうとした彼のポケットから、四角いICレコーダーのようなものが転がり、回転しながら床を滑っていきます。




「あー、音楽聞いてるの。演歌とか、ロックなやつね」




と呟きながらそれを拾い、よろよろと奥に向かっていきます。








 ぼくは絵鈴唯をちらりとみます。




――録られたか?




絵鈴唯もぼくを見ました。


――そうかもしれない。しかし聞いてない以上は。




 シイナちゃんは、なにかをなんとなく察したらしくてちらりとぼくたちを見て、なにも言いませんでした。




「いつどこで人殺しになるかわかったもんじゃないな……」




まだ警察が来ませんが。馬尾さんが櫻さんとどう関係するかは知りませんが、ただ人は知らない間に人を殺しています。


だからこそ櫻さんは、ぼくの殺人を許せない。




 そしてあちこちの人が、この街では、街を有名にした『さくらちゃん』を歓迎していますから、こういったこもあるのかもしれない。


ぼくらはこんな風な疑いに慣れていました。





( ……にしても万一録音したとしても、どうするんだろ)











いまだにぼくは捕まらない。


櫻さんがぼくになんて言おうと。


それが正しいなら警察の怠慢です。




そして櫻さんは、きっとこれからも作品に利用し続けるでしょう……


『父親殺し』のぼくに、晴れることのない恨みを抱いて。

 椰子田さんはなかなか現れなくて、ぼくたちは暇を持て余したまま居ました。

外だったら、絵鈴唯が狸の首をちぎるのを見ててもよかったのですが。

ここには狸はいないしモグラもいなくて、退屈でした。

シイナちゃんは何か思うところがあるのか、しきりに東の方を見て居ました。















「モデルのくせに!」




――ふとそんな声で我に返りました。




「お前は、所詮作家たちのモデルにされ続けるんだよ!」


にんまり笑う馬尾さん。




「……はあ」




 ぼくは何を言えばいいかもわからず、ただぼんやりしていました。


いつの間にかカナリヤは止んでいて、みんな思い思いにお菓子を食べて話したりしています。


好奇心と、嫌な感情を含む目。




モデルうんぬんよりかは


「もう、自発的なネタ、ないの?」


という感じでしょうか。みんな似たり寄ったりなら、賞なんか世界から要らないじゃないかという気がします。


まあ、タイトルだけ貸す場合もありそうですが。


「……。……」




 世界平和を願うと、いつもそれは戦争しか生まない。


それが人類。


また知らないおばあさんが、やってきて言います。




「ああ、あんた、もしかして 穂始上さんの……!」


ぼくがなんて答えたか、細かくは忘れたけれど。





「ええ。左翼に無理矢理腕を引っ張られ、右翼に潰されようとした、あの母です」




右も左もなく、中立説を一番大事にしていた母を、ときどき今も思い出します。


 『記憶にある』母は、自宅で大きく地図を広げていました。


彼女が書いたます目のところどころには数字が並ぶ。父さんが横に居たらしいですが。


ぼくはよく知りません。死んだ、くらいしか。






 彼らは『難解な事件』を取り扱ってあちこちに行っていて、その地図も事件のひとつでした。


ただの地図のように見えて、1だったら、1の回り8方向どこかに1つ。3だったらその周り8方向の3つに、爆弾が隠されるパズルになっています。




たよりになるのは、感覚ごとにならんだ1や3の数字。それをヒントに爆弾のかくし場所を割り出す。


その数字同士が示す範囲が、互いに重なっている場所は、爆弾が確実にある。


そこから的確に手分けして印が書き込まれていく。数分で彼らの作業は終わっていました。


地図に示された数字。


ます目。爆弾の在処。






(母さんたちの話は、別に存在しているので、またいつか番外編でもする機会があれば。)




――私の組織に入るにゃまだちょっとかかりすぎかな?


――入らないから




――にしし。天才探偵団でもやろっかなー? 美少年と美少女を愛でる系の!




――あなたは、一体何と戦おうとしてるんですか……知りませんよ?っていうか天才どこ行ったんだよ




――頭のよさと顔立ちは似てくるからな! 俺みたいに。






賑やかな会話。部屋の片隅で見た、ぼんやりした、幼い頃の記憶。




僕に残されたビデオテープ。




おじさんに捕まる前の――――





 肩を小さく叩かれてハッとすると、絵鈴唯が居ました。




「起きてる?」




「ああ、うん……椰子田さんは」




「椰子田さんはまーだー。西野さんは病院から帰ってきてたよ。部屋に行こう」




なんとなく、絵鈴唯の手に手を伸ばしました。


彼は特に何か言うでもなく握り返していて、シイナちゃんも何か思案するような目のまま、ぼくらに続きます。

「憐れみたまえ……か」

廊下を歩きながら絵鈴唯はくすくす笑います。

「日本語変換して喜ぶ変態からは、えろいって言われるしな」

「たぶんそれしか頭に無いんだよ。魚とかさ、すぐに子孫を残せるようにだけ特化したりするし」


なんだか、今の少子化社会も魚に近づいているかもしれません。


「魚の場合は、相手がいないから同じ種族ならいいや、みたいな深刻さがあるよ」

「人間はひとつひとつの行為に、やたらと感情やらロマンやらで、めんどくさいよね」







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