第1話 某大魔王「今のは【ルー〇】ではない……」
身体を包んでいた閃光が弱まり、徐々に視界が開けていく。
何も聞こえなかった耳にも、段々と音が入ってきた。
そして、全ての光が、魔法みたいに色付いてーー。
「うおっ……」
目の前に、世界が広がった。
西風が、生い茂った木々を揺らし、その下をジャージ姿の人々が通ってゆく。
彼らが沿って走るのは、今まさに姿を隠そうとしていた夕日をその身に移して輝く大河だったーー。
「……」
......そんな情景描写はもういい。
美しいのはわかったから、取り敢えずひとつ、言わせてくれないか。
そしてこほん、と咳をして。
「なんじゃこりゃぁぁぁぁぁ!」
ヘヴィメタルのヴォーカルのように、叫んだ。
「一体全体何なんだ?
俺氏、ただPCでギャルゲーしてただけなんだけど!
んで、ゲーム終わろうとしたらいきなり光ってこうなったんだけど!
あ! もしかして、新手の拉致か?
ワイ、ヤの付く自由業の人とかに喧嘩売ったっけぇぇぇ?! 」
……でもさっきの情景描写の通り、西?のほうから風は吹いてるし。
右岸を見たら男の人とかが並木道を走ってるし。
おまけに「大河が輝いてる」ってのも満更じゃないし……。
けど、いくら考えたところで、答えは出ない。
「ーーあぁ、もう意味わかんねぇ」
河川敷の草原に寝転がる。
圧倒的な「現実味」が、そこにはあった。
……どうしようもできないほどの。
ーーだから
「あーーーー、はぁっ」
蜜柑色に染まった大空を仰ぐ。
縮れた雲と、遠く靡く白い風が綺麗だ。
そんな風景を見てると、ふと思った。
ーー『今』から逃げるのは、楽しい。
俺が綺麗になれるからだ。
あ、いや、我は美しいとか、そういう意味じゃないよ?
なんかこう、穢れのない、って感じ。
今ならどこにでも行けるし、なんでもできるーーそんな感じ。
……でも、現実は、どこまでも追いかけてくる。
ーー学校に行かなくなっても。
ーー外に出なくなっても。
それで、俺を虐めて、沢山のものを奪ってゆく……
「なんか、変なこと思っちまったよ」
大変なことが起きて、いつの間にかセンチメンタルみたいなこと考えてた。
だから、ちょっとは黄昏ようかな、なんて思って、手を伸ばす。
暫く寝ころんでいたけど、まだまだ風は心地いい。
雲も、悠々と空を遊泳している。
……さて、カ〇ル君初登場時のポーズでもしますか。
そう思って、むくりと起き上がろうとした時。
ーー気づいてしまった。
「ん……? なんか俺の手、美しくなってね?」
右の手のひらを表裏させて、よく観察する。
ほっそりとした白い指に、少し赤みがかった甲。
ーーうん、絶対俺のじゃねぇわ。
俺の指はもっとファットで、色も黄土色だったし。
手の甲も染みがたくさんあって、「震源地マップか」って感じだったし。
「一体、誰の手だ? これは……」
そうやって、身体をプルプルと震えさせているとーー。
「もぅ、やっぱりここにいたっ」
鈴のような声が、聞こえた気がした。
♢♢♢♢♢♢♢
お読みくださりありがとうございます。
次の回では、いよいよヒロインの登場です!
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