第11話
街中を歩いていて、ふと気が付く。
なんだか視線を感じる。カメラの存在だろうか。それともうしろめたさからそう感じているだけなのだろうか。
ときどき振り向いて周囲を探すが異変はない。
顔を伏せ雑踏に紛れて1つめのポストへ向かう。
「ふぅー・・・。つぎだ。」
1つ投函できたことで緊張が少し和らいだのか、周りの気配が今までよりもさらに強くなったように感じる。ガサガサという異音が混じるようになり、悪寒を感じつつも次の予定したポストに向けて歩き出した。
10個目の封筒をポストに投函したところで声がかかる。
「原田辰巳だな。」
名前を呼ばれたので振り返ると2匹の虫が話しかけてきた。
「■■■―――。」
「気持ち悪いわ。」
とりあえず顔は気持ち悪くて触りたくなかったから体を【破砕】した。
指先で軽く触れるだけで虫の半身は一瞬でグズグズに崩れ落ちた。
もう一人も【破砕】した。
よく見たら街中に虫があふれている。
服を着て歩く虫、車に乗っている虫、ガサガサガサガサどれも気持ち悪い。
近くにいた虫が甲高い悲鳴を上げた。
耳障りなので喉元から崩した。
そのあとはすぐにパトカーに囲まれた。
パトカーからも虫がワラワラと出てきて背筋が凍った。
その中に一人だけ、昨日の大男が居たのに気が付いた。
男が虫をかき分けてこちらに歩いてくる。
慌てて駆け寄る。
「ああ!よかった刑事さん!見てください!!街中害虫だらけで!人が一人も居なくなってまして!!これ 私、もうどうしたら!」
男の歩みが一瞬だけ止まる。
顔を見ると昨日は吊り上がっていた眉がハの字を書いている。
「あんた、原田辰巳・・・だな。」
「ええ、えぇそうです。」
刑事に名前を
「あ、あぁ、そうだ。刑事さんならご存じかもしれませんが・・・実は弟を亡くしましてね。いまだに引きずってるんです。かっこ悪い話でしょ?あれからだいぶ経つんですけどね。今でも思うんですよ。どうして自分が、あの時、正広を守ってやれなかったのかって・・・!」
男は答えない。
「パレードを発動。・・・原田辰巳。お前に拒否権はねぇ。」
〈パレードを承認。捜査官、天目三佳。被疑者、原田辰巳を確認。パレードが発令されました。対象者以外の方はリングの外へ避難してください。〉
話に夢中になっていると液体に囲われていた。まるで水族館の海中ドームに居るような感覚。
「これは・・・?」
「特設リング、説明は以上だ。」
次の瞬間、顔面を思いっきり殴り飛ばされた。
前歯は折れ、首が軋む音を聞きながらゴロゴロと地面を転がる。
反射的に立ち上がるが次の瞬間、見えない壁に顔を叩かれた。
左の頬に激痛が走りよろめく。
男が今度は左の拳を真っすぐ突き出す。
みぞおちに鉄柱でも刺さったかのような衝撃と痛みが走る。
あまりの痛みに立ち上がるどころか呼吸さえうまくできない。
強い。何の力か知らないが、能力の相性も最悪だ。向こうは遠距離攻撃ができるが、こっちは指先で触れることが出来なければ【破砕】ができない。
「終わりだ。原田。」
「いや!終わらない!!おれは!!!」
地面に手を触れアスファルトを【破砕】する。
触れることさえできればあとは連鎖反応のように【破砕】は伝播する。
あっというまにリング内の地面は崩落し始める。
「ムダだ。」
アスファルトは崩れで地下へと落ちた。
しかし自分は浮いている。
正確には見えない床の上に寝そべっている。
「大気は【壊せない】みたいだな、原田。」
男は空に立っている。おそらく俺が落ちなかったのと同じ原理だろう。
呼吸はいまだに戻らない、痛みは
「これで終わりだ。」
男が右手をヒラヒラと振る。
たったそれだけで俺は意識を失った。
パレードが解除され緩衝材が霧散していく。
拘束した原田を引きずり、天目がこちらに戻ってくる。
「原田辰巳、逮捕っすね。」
「おう。」
天目の返答にいつもの勢いはない。
思えばパレードの発動前から少し様子がおかしかった。
「ミカさん、どうかしたっすか?」
「いや、別に。ただ昨日の、お前が言ってたことを考えてみただけだ。」
「・・・・・本当はかわいそうな人だったのかもっすね原田は。」
「かもな。だけどこいつは人を殺した。今日だけで警官2人に民間人1人。」
「連続殺人犯だ。同情の余地はねぇ。」
天目はそういって引きずってきた原田を近くのパトカーに放り投げる。
それは分かっている。
ただ・・・
「なんかやっぱ、割り切れないっすね。」
いまだ意識を取り戻すことのない原田を見下ろす。
手足は拘束されているので目が覚めたところで身動き一つ取ることはできないだろう。
天目との戦闘でアゴとアバラの骨が折れてしまっている原田は最終的に救急車で運ばれていった。
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