第10話

蛇男はノリスと名乗った。

ノリスの協力を得た俺たちはまず鹿取を殺した。

遺体は河川敷に捨てた。見つかってほしいと思ったからだ。

身辺調査が進めばダイヤ密輸犯があばかれる可能性も高まる。


次に仙田を殺した。カメラの心配させなければ簡単だった。

急に走り出したときは焦ったが、自分から袋小路に逃げ込んでくれて助かった。

つくづく運の無い女だったな。


問題はそのあとだった。

修が信じられないことを言い出した。

「もうやめよう。」

「やっぱりだめだ。殺しちゃいけないんだよ。それは正広の正義じゃない。」

「俺たちは自首すべきだ。」

「鹿取をお前が殺したときni


「もうお前しゃべんな。」

気が付くと修の喉が半分削れてなくなっていた。

「・・・ッ、ご。:ts」

声にならない声を最後に修は動かなくなった。

俺たちはただ害虫駆除しただけだ。

人なんて一人も殺しちゃいない。

なのになんで・・・。

お前のせいで俺は人殺しだよ、修。


「終わりましたねぇ。」


どこから入ってきたのかノリスが話しかけてきた。

だがもうどうでもよかった。


「ああ、死んだよ。殺しちまった。」

最愛の弟たちはもう居ない。


もう居ないんだ・・・、足元に横たわる修、血だまり、血の匂い。

徐々に現実が見えてきて息が荒くなる。

弟の復讐を、計画を達成するためにこの手で弟を殺してしまった。


自分は兄貴失格だ。


「このまま自首されるんですか?」

ノリスの言葉に首を横に振る。


俺はダメなやつだ。ダメ兄貴だけど、それでも決めたことはやり通す。それが2人への供養になる。

そう思った。

手元にあるボイスレコーダーの音源を複製したUSBを、種々のメディアへ送りつける。

特定を防ぐため、複数地域のポストから投函する予定だ。

音声データだけをファイルにして送信しても今どきの会社では電子証明が付いてないファイルは閲覧前に自動で削除されてしまう。記者の個人アドレスなんて知らないし、正広の遺品にもそれらしいものは入っていなかった。

アナログな手法だが、これなら確実に手元に届けることが出来る。

不安はある。匿名で送るのでどの程度相手にしてくれるかは分からない。


だが聞いてさえくれれば・・・警察官が事故の隠蔽を指示したとなればかなりセンセーショナルなことになる。

それと会話の内容から裏で何らかの取引をしていたと分かる。

密輸事件にまでたどり着くは分からないが、必ず食いついてくるところがあるはずだ。


複製を終えて、それぞれ宛先の違う封筒に入れて封をする。

これで準備はおしまい。あとは投函するだけだ。


荷物をまとめ、家を出る準備をする。玄関の扉に手をかけたところで振り返り、室内を見渡す。

「すまん。行ってくる。」

キッチンの奥に声をかけて玄関のドアを閉めた。


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