第4話
犯罪発生件数は年々増加している。その対策は様々施されてきた。
その中でも特徴的なのは監視カメラの数だろう。
街中の信号や街灯の上はもちろん大通りから路地裏までいたるところに設置されている。
その性能も凄まじく、1台で最大300人の顔と服装・歩き方など86個の特徴を識別している。家から一歩でも外に出れば、そこはもう死角のない超監視社会である。本来であれば・・・。
「はぁ、はぁ・・・・ふー。」
「おわりましたねぇ。」
金髪の男が尋ねる。銀のスーツに蛇のような顔。どれほど優しく微笑んでも決して善人には見えないだろう。
「ああ。終わった。死んだよ。殺しちまった。」
「そうですか。でもこれで目的達成ですね。河合さん。」
河合と呼ばれた男はいまだに肩で息をしている。
鼻は高く、ホリの深い顔。黒い短髪をワックスで逆立てている。
右目の下に泣きホクロがあり、その精悍な出で立ちから、彼を見た誰もが“情に厚く正道を重んじる人柄”を想像する。
そんな男が血だまりの中に立っている。
「はぁ・・・はぁ・・・。」
初めて殺した。しかも【能力】を使って。
自慢の能力。弟がいつも褒めてくれていた能力だった。それを犯罪に使った。
虫の一匹も殺せなかったこの自分がだ。
確かにあった達成感に罪悪感が混じり始める。
「さあさあ。次の行動に移しましょう。それともこのまま警察に?」
蛇顔の男がニタニタしたまま尋ねる。
「警察には・・いかない。」
そうだ。自首なんてしたら意味がない。
「計画通りに進める。2人でそう決めた。」
男の声には決意が宿っていた。
「そうですね2人で決めたんでしたね。」
蛇顔の男がうなずく。
「外に捨てたらすぐにバレちゃいますね。」
「ああ。だからこのまま地下に隠す。家の中を通って。」
「家の中?この家、地下があるような豪邸には見えませんけど?」
「とぼけんな。だから俺の【能力】を使う。この【破砕】の力を。」
そう呟いて男は自分の右手をみつめる。
3秒ほどして気持ちを切り替えキッチンへ行き、床下収納の扉を開ける。
広いスペースではあるが、人間一人を押し込めるほどのスペースはない。
(慎重に少しずつ・・・)
男は底面に触れ能力を発動する。出力を間違えると床が崩れるだけでなく水道管や地下の電話線なども【破砕】しかねない。そうなれば死体を隠すどころではなくなる。
丁寧に、細心の注意を払いながら能力を使用する。
ゆっくりと丁寧に開けた穴の深さは1m20cmほどになった。
破砕した後の削り屑を掘り出し、底板を敷く。
そのうえで四方にも板を隙間なく詰め、死体をそこに入れる。
「おや?死体を【破砕】しちゃわないんですか?そっちのほうが楽だと思いますけど??」
(そこまで非道なことはできん。)
命を奪っておいて言える立場ではないが、体まで砕いてしまうことには抵抗があった。
命を奪った後悔と長時間能力を使用したことで精神が摩耗している今、蛇の男との会話はかなり面倒だった。心の中でのみ返事をして再び作業に没頭する。
死体を入れたあと、先ほどの削り屑を砂利の代わりに水とセメントで簡易的なモルタルを作り流し込む。
作業が終わるころには夜半に差し掛かっていた。
蛇の男はいつのまにか居なくなっていた。
「・・・・こんなもんか。」
最後に新しい底板を嵌めて床下収納をもとに戻しておいた。
これで誰にも見つかることはない。
これから死体の上で生活をすることになる。
いつまで続けられるか分からない。
すべて計画通りに終わった。それでも不安がある。いずれ捜査の手が回ってくるかもしれない。
これから毎日、不安を抱えて生きることになる。その覚悟はしていた。
そうだ、弟が死んだあの日から覚悟は決まっている。
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