第3話
雲一つない晴天のもと瀬尾太一は現場についた。昨晩の事件の影響で迂回路を通る羽目になり到着が遅れてしまった。
情報技術解析課システム対策係に所属する瀬尾の仕事はパレードの、正確には能力者のデータ収集である。
「おそいよ!瀬尾くん!」
「すいません。道が混んでて・・・それにしても派手に暴れたみたいですね。これがウワサのトクタイ?バカなんですかね?」
「そうよ。わかってるじゃない。さっさとデータ収集して戻りましょう。ここで刑事局じゃないの私たちだけだし、なんか居心地悪いのよね。」
先輩の岩崎から促されるままパレードリング跡に向かう。
パレードは昨年完成したシステムで特対の発足と共に実践投入された。能力者が使う【能力】は本当に様々であり、単に戦闘能力が高い【能力】もあれば、まるで漫画のように概念を捻じ曲げる【能力】や周りの環境にまで影響を及ぼす【能力】もある。
そんな力を犯人逮捕のためとはいえ、なんの対策もなしに使い続ければ世論の反発は免れない。そこで生み出されたシステムがパレードだった。
パレードは発動した能力者を中心に半透明の薄い膜状のドームを成型する。このドーム内であれば外部への【能力】の干渉を抑えることができる。
「ここですね。よっと。」
瀬尾は自分のカバンからノート型の電子端末を取り出して電源を入れる。
すると小型のパレードリングが画面内に描き出され、パレード内で何が起きていたのかのログを確認することができる。
「うわー。ホント派手にかましてるわね。最後は結局犯人の吸気だけ一時的に酸素濃度を下げて酸欠で気絶って。そんなことできるなら最初からその技使いなさいよぉ!」
「岩崎さんうるさいです。」
横からのぞき込んで騒ぐ先輩を瀬尾は諫める。この岩崎という女性は明るく優しく、そして裏表のない性格・・・なのだが、パーソナルスペースが異様に近くさらにおしゃべりなので近くに居るとほんとにうるさく感じる。
「問題はそこじゃないですよね、僕ら的には。この巨大な空気弾、ドームの壁との接触時に減衰率60%しかありません。倒壊した建物以外にもドームと近い距離にある建物には影響が出てる可能性があります。要調査ですね。」
「ええー、まじかぁ。ていうか減衰率60%って。緩衝壁ちゃんと機能してなかったのかな?」
「いや起動自体は正常だったみたいです。うーん、なぜかドーム壁内の緩衝液が充分に満たされずに薄くなってるところがあったとしか・・・。」
そう、パレードのシステムはいまだに不完全だ。それゆえに捜査官に申請権を渡しこそすれ、実際に使用させることは想定されていない。あくまで上層部の威厳と世論説得のためにパフォーマンスとして無理やり実践投入したシステム。・・・のはずだったのだが。
特対はシステムをガンガン使う。使いまくる。
こちらとしてはデータ収集が捗るので構わないが、
そういえば同期も1人、あそこに所属していたな。あいつは・・・まあご愁傷様です。
「まあ緩衝液の事はこのデータを技術班に見せて解析結果を待つしかないですね。とりあえずここは終わりましたし、次は建物の調査に行きましょう。特対さんは始末書増えることになると思うけどこればっかりは仕方ないですね。」
思考を切り替えて先輩の方へ目線を移す。
「そうねー。わざわざ派手なやり方するから。身から出た錆ってやつよね!」
未だにパレードのログを見返してばかりで適当な返事を返してくる
「・・・・。ほら行きますよ!」
「えぇー。まだ動くの?」
「じゃあここに一人で残りますか?」
岩崎は瀬尾に促されて、周りを見渡す。
強面の捜査官ばかりでただでさえ居心地が悪いのに、いつの間にか管理局の人間も到着して剣呑な雰囲気を醸し出している。
「行こう!瀬尾くん!ご近所さんに影響がなかったか心配だよ!うん!」
社会人ってやつは経験積むほどバカになるのだろうか?そう思わずにはいられない瀬尾だった。
警視庁刑事部捜査一課 特殊犯罪対策係 通称:特対
都市部の犯罪発生率は過去20年上昇傾向にあり能力者による犯罪も急激に広がっている。
そのため街中に監視カメラが設置され街は24時間監視されている。有力情報の通報には謝礼金まで出すようになったが抑止効果は期待されたほど出ていない。
そのため、新たに打ち出された施策の1つが「対能力者」の組織である。
独立権力とするのではなく、あくまで警視庁内の一部署に収まったのは能力者の過剰な集中を抑えたためである。
しかしそれにより、当初の志を喪い、施策は徐々に骨抜きとなり―――――。
結果、問題児ばかりが残った。
特殊犯罪対策係 係長、
昨夜、駅前でパレードを使用し、大立ち回りの上、犯人を逮捕した勇敢な警察官がいるそうだ。なんとビル1棟を取り壊し処分にするというオマケ付きで。
新聞に踊る痛烈な批判を見ながら”はた迷惑な奴もいるものだ”と笑って終えられれば良かったが、なんとその男は自分の部下だというのだから胃も重たくなる。
「またやっちゃったねぇ。天目くん。」
読んでいた新聞を折りたたみ、視線を上げる。
天目三佳 階級は巡査長 年齢26歳。能力は大気の操作。性格
「天目くん、あのね。市民の皆さんからは苦情の嵐なんだよー?夜中に轟音を立てて建物を吹っ飛ばしてさぁ。電話もホームページの問い合わせフォームも回線がパンパンだってさ。」
「いや、すんません。まさかパレードの緩衝壁を抜けちまうとは思いませんでした。」
「うーん、まあ緩衝壁がうまく働いてくれなかった理由はまだわからないけど、データを取りに解析課の人が現場に向かっているはずだよ。」
「いやー、いやいや。これはオレが強すぎたからでしょー。気を付けます!」
斜め上を眺めながら敬礼をする天目。
その姿に頭痛が止まらなくなる東江だったが、グッと堪えて話を進める。
「・・・ま、僕らが考えたところで仕方ない。それよりもね、今朝また変死体が見つかってねー。今日はこれからそっちの現場、見てきてくれない?」
「まじっすかぁー・・。」
天目は考えた。
(できれば断りたい。昨日の疲れがあるし、まだ朝だし。外出は正直かったるい。始末書もあるし。・・・そうだ!始末書!)
「あ、でも係長、オレ始末書を書かなきゃならないんじゃ・・・?」
「んんー?そんなのあとあとー。まだ被害状況確認が終わっていないし、あとでまとめて書いちゃおうよ。どうせ1枚や2枚じゃすまない事態になりそうだしね。」
「それじゃ、
そう言うと東江は資料右手に、胃薬を左手に席を立ち、奥にある会議室に入っていった。
スモークガラスで中の様子はうかがい知れない。
相変わらず律儀なんだか不真面目なんだか分からん上司だ。
「はぁ、そんじゃいくか。将兵、さっきの話聞こえてただろ?現場いくぞー。」
「えぇーミカさん1人で行ってくださいよー。僕には僕の仕事もあるんすよー?」
「まあそう言うなって。お前が読み取った犯人の行動パターンから片桐が防犯カメラや監視システムを介して犯人を特定、そして追い詰めた犯人をオレが取り押さえて逮捕する。これがオレら3人の必勝パターンだろ?」
天目はその大きな体で身振り手振りを交えながら説得を試みる。
ぶーぶー言いながらも下手な説得に応じてくれた優しい後輩とともにデスクを後にする。
「つーわけで。片桐はバックアップたのむぞ~。」
「了解しました。」
短めのボブカットの女性がうなずく。感情の起伏は少ないが真面目なやつだ。
「よーし!今日もパパっとかたづけちまおうぜー! な?」
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