第22話 進たちのフランス旅
「おい! 季佳!! このクッキーめちゃくちゃうめぇぞ?! 食ってみな! 飛ぶぞ!!」
そう進が言うと、ドリンクを注文していた季佳がズカズカとこちらへ歩んでくる。
「ここオシャンティなお店なんで大声で呼ぶのやめてください」
両手を机にたたきつけ、顔を急激に進の顔に近づける。
その距離といえど、お互いの鼻が触れ合ってしまうかもしれないほどだった。
「ちょっ?! 近すぎるだろ?! 離れろ」
「あっ、すいません。でも大声はやめてください。他の人こっち見てますから」
進が辺りを見渡すと、お客のほとんどがこちらを不愉快だなと言わんばかりの瞳で睨みつけていた。
『おー......ソーリー。ソーリー』
『さっきから騒がしい兄ちゃんだぜ! なんで俺もいるのかって? そりゃぁ、あんたといればどこまでも羽ばたける気がしてな! けど、迷惑だってんならいつでも言ってくれ。俺はすぐさま立ち去るぜ!!』
バニッシュが親指を立ててそう言う。
「はぁ......はい、これ先輩が言ってたミルクティーです。買ってきたんだからお金返してください」
「(たった300円でケチるとか......人間じゃねえな)」
「なんか言いました?? もしかして300円でも返せっていうのか、みたいなこと言いました??」
「そんなことよりさ、これからどうすんの? お金はあいつらから巻き上げた電子マネーがたんまりあるからいいとして......そうだ! 季佳、おまえ日本に帰れ」
進は突然季佳にそう告げる。
「は......?」
「ほらっ、これやるから日本に帰りたまえ」
進はさっきまで眺めていた電子マネーが入ってる端末を机に置く。
「いや......急にそんなこと言われても、第一! パスポートとか必要ですからどっちにしろ無理ですよ!」
「そうか......ならしばらくここで滞在してるってことか?」
「はい!! 帰るならせめて観光してからがいいです! それまでは絶対に帰れません!」
「へー、じゃあちょっとだけ観光しようか。今から」
「いいですね!! どこ行きます?!」
「んー......パリとか?」
「パリ!! 先輩わかってるぅー!!」
それから進と季佳はバニッシュと別れて、パリへ出発した。
「おぉー!! 着いたー!!」
地下鉄を利用してパリへ着いた進と季佳。
駅のホームから出たときには太陽がまぶしくて思わず目を瞑ってしまった。
「すっごー!!」
季佳は、改札から駆け足で外に出て景色を見て第一声がこれだった。
パリの景色は高層ビルに囲まれつつも、どこか緩い雰囲気がある心地良いまちだ。
季佳がテンションぶち上げでどんどん走っていくので進も追いかける。
「季佳お前速くね?! 追いつけねえよ!」
「すいません、ちょっと興奮しちゃって......」
「まあいいけどさぁ、で? どうしようか......」
進が下を向いて悩んでいると季佳がのぞき込んでこう言ってきた。
「今日は先輩がデートをリードしてくださいね!」
なんだそれ、可愛いじゃん。
「じゃ、じゃあ行こっか......」
進はイケてるような顔をし、吐息多めの息をして、季佳の手を握って歩み始める。
「ひょぇぇ?! 何するんですか?! 馬鹿ですか!!」
進が季佳の手を握った瞬間、季佳は驚いて手を急いで振り払った。
「あれ、俺の手ベタベタしてた?」
「いやぁ、デートって言ってもお出かけですから! 普通に遊びましょう!」
紛らわしい言葉だな。デートって。
「まずはー......あそこの塔行こう」
進が指さした方向には一際目立つ塔があった。
「いいですね! 行きましょう!」
20分くらい歩いて、塔の入り口に到着した。
『ようこそ!! ここはフランスの街を見渡せる【ナビ塔】です! ぜひ見学していってくださいねー!』
受付の人に軽く挨拶されて、雰囲気でお辞儀をする。
「ここって自由に見学できる場所なんですね!! すごぉー!」
「ここからどうやって上に上るんだ?」
「ほら! あそこにエレベーターがありますよ!」
「ほんとだ、あれ乗るか」
エレベーターの扉の前に行くと、1000と金色の文字が書かれているのが見える。
「これってまさか......料金とかじゃないよな?」
進が指をさして呟く。
「お金渋るんですねぇ......」
季佳が失望した顔でこっちを見てきた。
「......」
〇●〇●〇●〇●〇●〇●
「わー! すごー!! 全部ガラス張りで町の風景が見えます!!」
「すっげー! この国半端ねえな、この光景を見るとなおさら昨日の出来事が信じられねえぜ」
昨日の出来事とはバニッシュに連れられたところでの出来事である。
「あっ! あっちにもなんか見えるー!」
季佳はあちこち歩き回って景色を堪能していた。
進もここ、パリの風景をすこし見た。
日本が外国に勝ってるのはマスターの生産量だけであり、他の分野においては至って平均なのである。
「やっぱ旅行に行くなら海外だな......」
「先輩!! あそこ見てください!」
季佳は進の腕を引っ張り、下の方を指さす。
そこには何台かの黒いリムジンと一つの真っ白いリムジンが並んでおり、そこから数十人のボディーガードとお偉いさん方が出てきた。
「このタワーになん用事でもあるのか?」
「わかんないですけどちょっと怖いですね......もう景色は十分見ましたし次行きましょ!」
「そうするかぁ」
〇●〇●〇●〇●〇●〇●
『寄ってらっしゃい見てらっしゃい! ここは超人気の美術家! ローラン・ベネッチのお店だよー!! いろんな種類の作品が展示されてるから是非入ってってー!』
「先輩、あえあんぇおぅえぅあぁ?」
「いいんじゃない?」
進がそう返すと季佳は驚いた表情をした。
「どうした?」
「いやいや!! 私今ソフトクリーム食べながら言ってたのになんで聞き取れたんですか?!」
「そ、そんなのー......季佳のことならなんでもわかるからだよ」
「へーそうなんですねー。あそこの店早く入りましょ」
なんで急に真顔になるんだい? 季佳。
「ここに飾られてる絵画たちって誰が描いたのかどこにも書かれてませんね。値段だけ......」
「画家たちなんて今時よくやってるよなー、絵がうまいだけじゃ売れないんだもんな。恐ろしい世界だぜ全く......」
「なに言ってんすか先輩。もう見飽きたので次行きましょ」
だからなんで真顔なんだい? 季佳。
そのあとも街を探索したり、いろいろやってたら日が暮れそうになっていた。
「はぁー! 今日は楽しかったぁー! いっぱい遊びましたね!」
「ああ、ちょっと歩きすぎたかもな......」
公園の階段にぐったりと座り込む進。
「確かにちょっと疲れましたね、ここで少し休みましょうと言いたいところですが、一ついいですか先輩」
「ん?」
「私の気のせいだったらいいんですけど街を歩いてるときにたまーに通りかかる美人なお姉さんの方見て鼻息荒くしてよだれ垂らしてるのが見えたんですけど......。私の見間違いですよね?」
「お前ぇー、頭が遂におかしくなったのかぁー。よし病院に連れて行ってあげよう」
「そんなわけねえだろぉ!! このクソ猿がぁぁぁ!!!!!!!!」
季佳の渾身のアッパーが進の腹にめり込む。
「ブフォ!!」
「けっ! 鉄拳制裁......」
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