第18話 真泉先輩の本気

「死ね!!!!」



「うっ!」


 思わず顔を手で隠し、せめてもの防御をとる。


 

 ジリジリと迫ってくる熱い温度、それには成す術もなく圧倒的だった。





 そんな時、突然熱さが消えて目を開けてみる。そこには先ほどまでの太陽もどきは無くなってた。



「なーにやってんのー? もうちょっと頑張れたよー、美雷ちゃん」



後ろから聞き覚えのある声がした。聞くと安心できる力強い声。




そう、真泉先輩の声だ。





「せん....ぱい....」



  後ろを振り返り、上の方を見ると太陽で陰になってる先輩の姿が見えた。


「あー!! 酷いねー! 腕がぁ....これは今すぐ病院に連れてかないとまずいねー!!」


「先輩!! 後ろ!!」


 白スーツ二人が魔法を構え、背後から真泉を狙う。


「知ってる。『セイクリッドクロス』」


 突如、奴らの腹から光る十字架が出てきて、上半身と下半身がバラバラになった。


 体がバラバラになった彼らは即死し、先輩は警察に連絡している。



 私は一瞬すぎて何が起こったか全くわからなかった。先輩が助けに来てくれて、奴らが先輩を攻撃しようとしたら体がバラバラになって死んだ....。



「ははは....」



こんなの笑うしかないじゃん......。先輩はマスターを速攻で仕留めれる。しかも一歩も動かずに。なんで?いったいどこでそんな力を....?



「はいー!! あとちょっとで救急車が来るから安心してねー」


先輩は携帯をポケットにしまって、しゃがみこむ。


私は全身が痛くてずっと地面に寝ている。こちらの姿勢に合わせてくれているのだろう。


「それにしてもすごいねー!! あの魔法だけであいつらとやりあうなんてー。私感心しちゃったよー。さっすが私の愛弟子だよー!!」


そう言って思いっきり抱きしめてくる先輩。


「痛い......」


「えっ?....あぁー! ごめーん!!」


「いえ、助けていただいてありがとうございます」


「いやー、危なかったよー!! だってスペースステーションだよ?! ワシントン部のカスだったから良かったけど、もっと上の奴らだったら歯が立たないからねー」


頭をポリポリ搔きながら言う先輩。



しばらくして、警察と救急車がやってきた。


私はすぐに運ばれて、病院にて診察を受けることになった。しばらくは安静にしてるように言われ、1週間は入院だそうだ。


先輩は警察に事情聴取されたが、なかなか信じてもらえず学園の教師を呼んでやっと解決したらしい。


「それにしても、なんでスペースステーション社が私を狙うの? 意味が分からない」


スペースステーション社と言ったら世界有数のカージェ対策組織の超大企業であり、こんな学生を殺すようなことをする会社ではないはず。


「よくわかんないけど、もっと強くならないと....何があっても解決できるように」



〇●〇●〇●〇●〇●〇●



「美雷ーー!!! お見舞いきたよー!!」


病室の扉をドンドン叩きながらそう叫ぶ今井。


「ちょっと待ってて、今開けるから」


伊藤はベッドから降りてでドアを開ける。



ドアが開くと今井が勢いよく飛び出して、それと同時に伊藤に抱き着く。


「ちょっ?! 何やってんの?」


「心配したよー!!」


私から顔は見えないが、肩に涙が染みてる感覚がするのでおそらく泣いてくれているのだろう。


「ありがと。私は見ての通り元気だよ」


「うん!! 元気そうで何よりだよ! はいこれ!!」


今井は大きな包みに入った何かを渡してきた。


「なにこれ?」


「お土産だよ! 中身はお菓子です! 高かったんだよー? それー」


「ありがと、食べておく」


「うん!!」



「あのー....一応私たちもいますよー....?」


「こんにちはー、災難でしたね伊藤さん」


ドアの端から顔だけ出して声を掛けてくる加藤と向井。


「みんな来てたんだね」


「まあ、一応ですけどね!」


「私は伊藤さんが事件に巻き込まれたって聞いてびっくりしたので来ちゃいました」


「そうだよ!! 美雷事件に巻き込まれたんでしょ?! ニュースにも写ってたよ!!」


「えっ?! ニュース?!」


「そうだよ!!」


「ばばーんと写ってましたよ」


「あれはどういった事件なのでしょうか?」


「確かニュースだとねー、『マスター級通り魔出現?! 植八町しょくはちまちの復興に力を入れる』とかだね」


「そんなことが....おっそろしやぁ」


「そういえば美雷は明日のテスト出れるの? もしかしてしばらく病院生活....?」


聞きづらそうに言う今井。


「うん、まだしばらくは安静にしとけって医者に言われたからね」


「そうですか....それは残念です。せっかくランキング更新のチャンスだったのに....」


「まあ? 私は? ランキング2位の? 世界から注目されている? 女ですけどね?」


「....へーーーー」


「うん......」


「...........」


「どうしてくれますか? この空気」


 笑顔で私に聞いてくる向井。


「自分で作ったんだろ!! 後処理までしっかりやれや!!」


あまりに無責任なので大声でツッコんでしまった。


「まぁ?! そんな大きな声も出せるんですね!! すごいです!!」


「あんたねー......まあいいや!! あんまり長居しすぎると迷惑だからそろそろ帰るよー!!」


今井さんが場を収拾して、とっさに二人を連れて病室から出ていく。


「はぁ......まったく....馬鹿な奴ら......」


 心は呆れていたが、顔はなぜかニヤけていた。




外の方を見ると、すっかり日が暮れていた。公園から帰る小学生たちの無邪気な声が丁度聞こえてくる。5時を示す時計台の鐘が町中に鳴り響く。



誰もいない静かな部屋で、



「受けたかったな......」



伊藤は空いた窓にそうつぶやくのだった。

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