第13話 季佳の印
「あのー、先輩。カージェってなんもないですね。めっちゃ退屈なんですけど」
「確かに。なんにもないよなー。ここ数日歩き回ってるけどなんもない」
あるのは水源と食料、魔物に森林といったありきたりなものばかりだ。
「もと居たとこには遺跡とかあったのに! もっとワクワクするような体験があると思ったのにー!!」
「わーめくなー! ほれ! 肉でも食って元気出せ」
「はぁ......まったく何言いだすかと思えばそれかよ....これだか脳筋魔法男は....肉差し出されて喜ぶ女がどこにインだよ!あぁ?!」
荒れてますねー......怖すぎておしっこチビっちゃったよ~。
「そういえば先輩、2か月で地球に帰れるって言われたんですよね。私たちって」
唐突に話を切り出してきた季佳。
「うん、そうだな」
「そうですよねー。だから私、カージェに着いた時から日数を数えてたんですよ」
「へー、今日で何日目になるの?」
「54日目です」
「54日目?!?! もうすぐじゃねえか!」
「はい! そうなんです! なので最後に思い出を作りましょう! 私たちがいた痕跡を残してやるんです!! どうですか?!」
季佳は目をキラキラさせ、その顔を見ると断るにも断れない状況になっている。
季佳には色々世話になった......最後ぐらい我が儘聞いてもいいか......。
「そうしよう! 何を残そうかぁ!!」
「おっ! 先輩乗り気ですね! じゃあやりますか!」
「「おおぉぉぉー--ー!!!!」」
二人は張り切ってこの無人の惑星カージェに訪れた印を残そうとした。
「先輩! こんなのなんてどうですか!」
季佳は自信に満ちた顔でこちらにそれを見せてくる。
そこには地面に30センチほどの長さの直線が書かれている。
「こんなの風で消えるぞ。ホントにランキング3位か....?」
「失礼な! じゃあ先輩は何位なんですか!? カージェに着いた時からずっと私のこと虐めてきたんですから、さぞ上の方なんでしょうね!! さーさー! どうぞ言ってください!」
「言わねーよ! 絶対に!」
「なーんーでー!! 言ってくださいよー!」
顔をすりすり当て体をうねる様にして懇願する季佳。
「まあいっかー!先輩より順位が高いこと分かったし!成長すればいつか先輩を超えられます!それで問題は何を残すかなんですよねー....」
「地面に魔法でも撃って跡付けちゃえばいんじゃない?」
「なんすかそれ?私にそんな威力あると思いますか」
「え....この前撃ったやつとか、いいんじゃないの?」
「あれ使った後、私魔力切れで力はいらないんですよ。なので却下です!」
「じゃあナスカの地上絵でも描く?」
「何それ?!?!面白そう!」
食いついた食いついた。
「ナスカの地上絵はわかるかな?あれみたいに馬鹿でかい大きさの絵を描くんだよ。俺が上から見下ろしてその視力を季佳に共有する。で、季佳がそれを見ながらバランスを取り描いていくんです」
「やりましょう!二日で仕上げます!!私は走って後をつけて描くので先輩は色を付けてください!」
「うーん....彼女、ナスカの地上絵の話してるとき一点見つめてよだれ垂らしてたけど大丈夫かな?」
とりあえず、空飛んで視界を共有してー、色なんて付けれるわけがないのでつけない。
「おーい! 見えてるかー!」
進は走っている季佳へ声を掛ける。
「はーい! バッチリ見えてまーす!!」
「じゃあ、あとは頑張れ!!」
「はいー!」
ドドドドドドドドドドドォォォォー--!!!!!!
季佳が走ると地震のような
俺はずっと空に浮かんでいるのも疲れるので、寝座れる椅子と日差しを防ぐパラソルを用意し、そこでくつろぎながら季佳の走りを見ながら、ライムジュースを飲む。
どこから仕入れたかは言わない......。
「うまっ!なんじゃこりゃ?!」
あまりの美味さに驚く進。
「さーて、これからのことについて考えようかー......」
多分だが、あと6日したら救助が来る......。が、それはあくまで名目。肩書は『救助』だが、本当の目的は俺たちの排除だろう....。大体遅刻だけでこんな惑星に連れ来られるわけねえだろ。
ふと季佳の方を見ると、もう地上絵の半分完成させてる。
「おいおいまじか......まだ3分もたってないぞ。化け物か....」
あいつの身体能力は明らかに人間業じゃない。あの学校が身体能力に重点を置いてたら彼女の右に出るものはいないだろうな。
さきほどの話に戻るがおそらく腕利きの暗殺者か特殊部隊か何かが送り込まれてくるだろうな。
「きつっ!!無理やん!」
そしてなぜ俺たちをこの惑星に送りこんだのかが肝心なんだよなー。
「わっかんねー!! むしゃくしゃしてきたぁー!! ポテチ食べちゃお!」
「先輩!完成しましたよ!」
「はあ?はやー」
「名付けて! 私たちの証!!」
「いいな! そしてお前めっちゃ絵得意なんだな。うまい」
「うまいですか? ですよね? いやー、うまいよなー!!」
「なんだこいつ」
「っていうか! 上からライムジュースの匂いするんですけど! 私も飲みたいです!」
「俺の飲みかけだけどいいの?」
「えぇ....まぁいいですよ....」
めちゃくちゃ嫌そう....。
「クラウドアップ」
ホワァァー-ン
上から投げて渡すのは可哀想なので季佳を空の上まで運ぶ。
「おぉー-!!」
「今床作るから、まだ雲から降りんなよー」といったころにはもう雲から飛び降りているさまである。
そして俺の上に体育座りする。
「うお?! 季佳さんよー....人の話は最後まで聞けやぁ!!」
「んー-! ライムジュースうまぁ!!あっ、先輩間接キスで興奮しちゃいました?」
まるで言おうと思っていたが忘れてしまって後から付け足したような言い草だな。
「もうそれ全部上げるよ」
「いいんですか! ありがとうございます!」
「どういたしまして、ゴリラさん(ボソッ)」
「誰がゴリラじゃぁ!!! お前を絞ってジュースにしてやろうか!!」
うひょぉぉーー、怖い顔。
「そういえば先輩!! 地球に帰ったら何します? 私はねー、彼氏とデートするんです!!」
「え?! 季佳って彼氏いたのか?!」
「いるに決まってるでしょー! こんなに可愛いのにー!! 逆にいないと思いました? もしかして狙ってました?」
「いや、彼氏がいるのに知らない男の上に座ってるってまずいだろ。しかも中二で彼氏とか......ませてんなぁー」
「それは別です! 先輩の居心地がいいから仕方なくです!! あとなんか今言いました?」
「いや何も? いやー、季佳の彼氏かー! 見てみたいな! 帰ったら会いにいくか! その男の子と」
「嫌ですよ、絶対に! それより先輩は何するんですか?」
「んーーー....とりあえずは妹たちの世話かな? あいつら俺がいないとなんもできないからなー!! あと可愛いから癒しにもなるという一石二鳥だ」
「いいなー! 妹! 私も欲しかったー! 私お兄ちゃんしかいなくてさみしいんですよね。最近は学園の高等部に進学してAクラスになってから構ってくれなくなったんですよ!」
「へー、ざまあ」
「真顔で言うのやめてもらっていいですか」
〇●〇●〇●〇●〇●〇●
季佳と雑談をしていたらすっかり日が暮れてしまった。
「あと5日かー!なんか長いようで短かったですね!ここでの生活」
「そうだな、いち早く地球の日本に帰りたい」
「ですねー!じゃあおやすみなさい!」
「ん、おやすみ」
季佳はすぐに眠りについた。今日めちゃくちゃ走ったから余程疲れていたんだろう。
「こっちも準備を進めていった方がよさそうだな......」
進はボロボロの地図を取り出し、そうつぶやいた。
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