第12話 カージェの恐ろしさ
「先輩、そろそろどこか行きませんか? このままターザンみたいな暮らしを続けるわけにもいきませんよ」
季佳が呆れた表情でこちらを見てくる。そんな目で見られても何も失うものはないぞ。なんせここは俺たち以外誰もいない惑星なんだから。
とはいえ、そろそろ地球に帰りたいな。もうここにきてから2週間だが、ただ襲ってくるモンスターたちを食べてるだけなんだよ。おいしくないし....。
「せんぱーい! 聞いてます? ちょっとせんぱーいー!!」
季佳は先輩という単語を言いまくりながら顔をニュッと近づけてくる。
こいつの精神も限界が来てるようだ....この惑星の探索もしたいけど帰りたい。だが帰れない!!なので迎えが来るまで待つ。
「はいはい、これでも食べて落ち着きな」
「えっ? 何ですか? これ」
「さっきのモンスターの肉」
べちゃぁぁぁと季佳の手に乗せる。
「生じゃないですか!! 汚っ!!」
「ボン」
ボワァッ!!!
「うわぁ!! 何ですか?!」
肉が燃え、良い焼き色がついた。
「先輩......もっと私を大切に扱いましょう。でないと後ろからグサッ!!! ってなるかもですよ?」
「はいよー。そろそろ行こうか」
「行くってどこにですか?」
「決まってんだろ」
「まさか....!」
「そう!カージェ探索ぅぅ!!!」
「ヨッシャおらああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
えぇーー....喜んでくれるのはうれしいけど、そんなに喜ぶべきことかな.......?
「先輩! ではさっそく準備をしましょう! そしたらすぐに出発ですっ!!」
「準備って何も持って行かなくていいんじゃないの?」
「はぁ~......取り合えず準備するのであっち行っててください」
ぽいっと拠点から放り出された進。
「あいつら俺がいなくてもしっかりやっていけてるのか心配だなー。まあ俺家でなんもしてないけど」
準備って何を準備するんだ?でも確かに準備は旅の醍醐味でもあるな....。よしっ
何か思いついた様子で進は拠点の奥にある森に入っていった。
「先輩、準備終わりましたよって........あれ?」
さっきまでいたはずの先輩がいない! なんで?! どうしよう!?
「一旦深呼吸しよう。......スーハースーハー」
よし落ち着いたー。よく考えろ涼。おそらく先輩も準備をしているんだろう。そして先輩のことだからあそこの明らかにやばそうな雰囲気の森に入って何かを取ってこようとしている.....かな。
「じゃあここで待ってればいっか!」
安心した季佳は焚火を見ながら座ってジッと待っていた。
そして案の定5分もしないうちに先輩は帰ってきた。しかも森の方から。
「ごめん、ちょっと旅の準備してた!」
へぇー........それのどこが旅の準備なのか聞かせてほしいな...。
先輩は後ろに大量のモンスターの死体を引きずっている。私から見える限り5匹の大型モンスターはいる。
前から思ってたんだけど....この人って何者....?カージェって熟練のマスターたちでも生きて帰れるかわからないところなのに、先輩といるおかげで生きていけてる....。
「それでなにをするつもりですか?」
「よくぞ聞いてくれた!俺はなー、こいつらの皮で大きなバッグを作ろうと考えててだな!」
「大きなバッグを作ろうと考えててだな???? 舐めてんのか?! この脳筋男ぉ!!」
「きゃあああぁー-!! 殴らないデー!」
「先輩! 森の奥は何があるか分からないから入らないんじゃなかったんですか!! なんで一人で勝手に行くんですか!」
季佳はそう叫んで自分の方にやってくる。
ゴォォー-ン!!
「痛っ?!」
季佳は自分の後頭部めがけて思い切りの拳を振ってきた。
「反省してください!」
季佳の頬はぷくりと膨らんでおり、怒ってる様子だった。
「ごめんなさい。もうしないから許してもらえませんか」
「じゃあ!私のそばから離れないでくださいね!」
「はい....ごめんなさい」
「わかればいいんです!じゃあその荷物を置いて!早く行きましょう!!」
季佳が進む方を指さし目を向けると、そこには無数のドでかいハエたちが鋭い針をこちらに向けて向かってきてるのが見えた。
「きゃああああぁぁぁぁー----!!!!!」
ハエたちを見た季佳は顔を真っ青にして叫びだした。
「逃げるぞ!季佳!」
俺は季佳呼びかけ、急いで逃げようとしたが、ハエがそうはさせてくれなかった。
ブゥゥーーーン
進たちが逃げようとしたとき、ハエたちは急加速して圧倒的なスピードで進たちを囲った。
「先輩......どうしましょう!! やばいですよ!」
「お゛え゛え゛え゛え゛え゛ぇぇぇー--!!!」
「先輩?!?! 何やってるんですか?! こんな時に!! しっかりしてくださいよ!」
気持ち悪すぎる.....こいつら見た目最悪でしょ....これは戦えないわ....。
「あとは頼んだ.....おえ゛え゛え゛え゛え゛え゛ぇぇぇー-!!」
進はそう言い残して、地べたに這いつくばった。
「ちょっとぉぉー--!!! 私ひとりじゃ無理ですよ!!」
「そんなこと....言われても....」
季佳はまだ中2なので学校で戦闘魔法は教わっていない。せいぜい独学の低階魔法ぐらいしか使えないだろう。
どうしたもんか....。あっ! でも! カージェに来て結構立ったし! 俺の魔法も覚えてるかもしれないな!! それを使えば倒せる!!
「おい.....季佳....俺の使ってた...魔法を....使え...」
「何!! 今集中してるから話しかけないで!!」
「.....ごめんなさい...」
自分は周りが気持ち悪すぎて季佳だけを見ている。すると季佳は手に魔力を流し込み、何か魔法を打つ準備をしている。
「おい....お前何して............」
「先輩!ごめんなさいっ!! エレクトロニックボムッ!!」
ドゴオオオォォォォー---!!!!!!!!
季佳がそう唱えた瞬間に半径100メートル近くに及ぶ大爆発が起こった。
襲撃してきたあの虫の化け物たちだけでなく、進たちが今まで拠点としていた森林までも爆風で消し炭になっていた。
「.....やるやん....」
季佳....お前そんなに強かったのか...。
「ふぅ....あっ!先輩、大丈夫ですか?!」
季佳は心配した様子で進に声を掛ける。
「危なかったー!! あと少しであの化け物たちと同じく消し炭になってたよー! どうも!」
「は??? なーに終わらせようとしてんですか?? 私を一人で戦わせておいて謝罪の一言もないんですか??? どういう神経してんのかなー??? 今の心配の声掛けで謝るのが筋ってもんだろ??」
季佳は見下すような目でこちらを見てくる。そう、ごみを見る目だ。
俺は人間だが、彼女には俺がゴミに見えてるらしい。とりあえず謝っておこう。
「ごめんなさい!!」
進は季佳の目の前でジャンプし、着地と同時に顔を地面につけ、優雅なDO・GE・ZAを披露する。
「あー、またそれですか? もう見飽きたんですよー、その土下座ー。何回も見てると信用性に欠けますねー」
「あっ、後ろからなんか走ってきてるぞ」
進は季佳の方を指さし、そう言う。
「あっ、ホントだ。私もう魔力ないので動けません。先輩、私を担いで逃げてください。じゃないと死んじゃいます...」
そう言う季佳の目はすでに光が差し込んでいない。真っ黒すぎて目を疑うほど黒い。
「おいおい! 希望を捨てるなー! よいしょー-っ!」
ガバッと季佳を抱え上げて逃げる用意をする。
「うぁあぇ?! あはっ! ちょっ! そこくすぐった! あははっ!!」
「うるせー! 黙りなさーい!!」
「早く逃げて! すぐそこまで来てますよ!!」
目の前を見ると、またもや無数の闘牛みたいな奴らが全速力でやってくる。
「わかった! しっかりつかまれよ!」
「はい!」
ギュッと皮膚まで掴まれ、非常に痛い。しかしそんなことはもう考えていられない。すぐそこまで奴らが来てるのだから。
ドシュッ!!!!
進は全身に魔法をかけ、高速移動を可能にした。
それから牛と鬼ごっこが始まった。走っても走っても終わらない。本当の鬼ごっこだな...。
ダッダッダッダ!!
「先輩、あいつらずっと追ってきますよ。魔法打ってやっつけてくださいよ」
「はぁ?! お前が逃げろって言ったのに!」
「うるさいです!! 逃げても追ってくるから殺すしかないじゃないですか!!」
「わかったよー、もーめんどくさい!!」
ズシャァァァー-!!
進は足を捻り、猛スピードの走りを止めた。
「季佳!よく見てろよ! これが魔法の真骨頂だー-! エレクトロニックスナイパー!!」
ビュゥゥーーーーン!!!!!!
「モ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ー--!!!!」
進の指から出た魔法は凄まじい速度で一直線に進んでいき、通るものすべてを破壊しつくしている。
「やっば......」
無残すぎる光景に季佳は思わずつぶやく。
進の魔法が発動すると、1秒にも満たずに魔物は全滅した。
「この調子でカージェ探索していくぞ」
「は、はい!」
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