第11話 3年Dクラス

「どうやら着いたみたいね、3階に」


 エレベーターのガラスの向こう側に微かに見えるのは、誰もいない無機質なフロア。


「先生、ここで本当にあってるんですか?」


 どう考えても違うので私は聞いた。


「こっちよ。私から離れないでね?」


 教師はそう忠告し、私の前を先導するように歩き始める。


 言われた通りについていくと、私たちと同じような教室にたどり着いた。


「えっ.....急に現れた...」


「今は....カージェの生態系の復習かー。私もやったなー」


 ドアをのぞき込んで何をしてるのか確認するその教師。


「うん、入ってよさそう。少し入ろうか」


 少し恥ずかしいけどこれも強くなるためだから......



ガラガラガラー-!!!!


 

 案の定、私は教室に入ってすぐに3年生全員に見られた。



恥ずーっ!!!!



「おい!!どこ見てんだ!!!前見ろ!!!!!!!!!!!」


 三年生たちが私の方を向いた途端、前に立って授業をしていた教師が大声で注意した。

 その大声は耳がキーンとなるほど大きく、教室に響き渡った。


 多くの生徒がその教師に対して恐怖をいだいており、注意されるとすぐに前を向き震える体を必死にこらえるようにしている。


 

 私あんなのが担任になったらその日から学校行かないな絶対....。



「わかってんのか!!自分たちの立場!!!Dクラスだぞ!!!!ここの学園のゴミだ!!そんなお前らを教育してる身にもなれ!!!!次集中してないやつが見えたら全員校庭30周な。じゃあ続ける」


 生徒たちに不満をぶつけた後、またさっきの態度に戻りモニターを使って授業を進めていく。


「あれってパワハラじゃ.....」


隣で何気ない顔で見ている教師に聞くと、とんでもない答えが返ってきた。


「確かにそうですね.....でも彼らはあの先生が言ってた通りゴミですから仕方ないのでは....?」


 私はそれを聞いたとき何を言ってるのかよくわからなかった。さらに教師の顔を見ると、先ほどの職員室のときにいた教師の笑顔とは打って変わってゴミを見るように軽蔑の目を向けている教師。


 一体何が起こってるのだろう.....。


〇●〇●〇●〇●〇●〇●


8時間目の授業が終わり、3年生たちは終礼をしている。


「今日もよく頑張った!!!だが気を抜くな!!!明日も過酷な授業が続くんだ!!それに備えるために規則正しい生活を送れ!!!以上!!!これにて解散とする!!!」


今の時刻は7時ちょうど。


授業が終わると、3年の生徒たちは私の隣にいる教師に集まってきた。


「先生ー-!!今日も怖かったよー--!!!!」

「もうヤダよ!!あの權藤先生!!怖すぎるよ!!」

「早く戻ってきてよー!!」



は.....?意味が分からない。なんであの教師が神様みたいな扱いを受けているの?さっきあんな目をしてあんな発言をしていたのに....。



「もうー、大丈夫?みんなは反論するということを覚えておいた方がいいわよー!あんなパワハラ上司なんかに負けずに頑張れ!!」


「はい!!!」

「先生のおかげで元気出たー!」

「はやく寮に戻ろうぜ!」


そっか、2年生から卒業まではずっと寮での生活になるんだ。



 私が一生懸命頭の中を整理してると、一人の3年生が話しかけてきた。


「君1年生?見学に来たのかな?」


「あっ、はい。伊藤美雷です」


 突然だったためぎこちない返しになった。


「そんなに緊張しなくてもいいよー。私、真泉筈木。よろしくね」


「よろしくお願いします」


 見るからにわかるこの人の駄々漏れた魔力。桁違いの魔力....。

これが3年生の一番下のクラス....。今の私じゃここでもついていけない。


「それで?今日はなんでここに来たのかな?1年生が来るなんて滅多にないからね」


「それは....強くなりたいんです」


「へっ?」


 こいつ頭おかしいのかと思われても仕方ない。だけど私にはやらなきゃいけないことがある。


「そっか....強くなりたいんだ。じゃあ私が特訓でもしてあげよっか?って言ってもそこまで堅苦しいものじゃないよ?ちょっとした遊び程度のやつ」


「いや、本気なのでやってくれるのはありがたいんですけど遊びならいいです」


「えぇー....どうしたもんかねー......」


 真泉先輩はチラチラと隣にいる教師の方に視線を移したりしている。そしてそれを何度か繰り返すと、ため息を吐いて、こういった。


「君が本気なら私も本気で鍛えてあげるよ」と。


「よろしくお願いします」


覚悟はできてる。強くなるためならなんだってする。そして、一流のマスターになってカージェに行く....!


「あははっ!じゃあ早速訓練室行こっか」


「えっ?!今からですか?!」


「そーだよ。本気なんでしょ?」


どうしよ...親に連絡取ってない....。


 そんな心配をする私を見た教師は気を利かせてくれた。


「親御さんには私から電話しておきますから行ってきてください」


 掛けてる眼鏡をクイッと動かし、ドヤ顔でこちらを見てくる。



「流石せんせー!やーさしー!じゃあもう予定はないね!そろそろ行くよー」


「はいっ!!」


 私はそのまま真泉先輩についていった。



〇●〇●〇●〇●〇●〇●



 まだ入学して一か月もたってなかったので、まったく道が分からなかった。


「はいついたー!ここだよー」


 真泉先輩が足を止め、目の前にある大きい倉庫に指をさした。


 そこには『Dクラス専用倉庫1』と書かれている。


「すごい.....」


「すごいー?でしょっ!」


 ニコッと笑顔になる真泉先輩。



ガチャッ!!!


 倉庫のカギを開け、中へと入っていく。 倉庫の中はいろんなもので溢れかえってる。


 はっきり言って汚い。こんなところで強くなれるのだろうか...。


「じゃああそこにある機械でひたすら練習しといてー。分かんないところあったら機械のヘルプに入力すれば何でも答えてくれるからー」


 そう言ってモノに囲まれてるベッドに寝転び寝始める真泉先輩。


「適当すぎでしょ....」


 そんな先輩に呆れつつも、言われた通りに向こうにある機械をやってみることにした。



「えぇーっと....この電源ボタンで起動するのかな....」


 試しにポチっとボタンを押してみると、モニターが点滅し始めた。しばらく待っていると、そのモニターからアンドロイドの声が聞こえてきた。


『こんにちは!私は第15型マネージャーのハニベと申します。早速ですがお名前や個人情報などを登録してください』


 そういうと、モニターが切り替わり、タップすると文字が打てるようになった。


「伊藤美雷...高1....東京都2番区域....電話番号は家のでいいか......」


 自分の個人情報を打ち込んでいると、真泉先輩が声を掛けてきた。


「住所は冥創高等学園ね。あと君は3年の特訓をしに来てるんだから高3でしょー?」


 真泉先輩が人差し指をこちらに向け眉を少しひそめて言う。


「すいません。間違えました」


 さっき言われた通りに打ち込み直し、確認ボタンを押す。


 するとさっきの画面に戻り、また声が聞こえるようになった。


『美雷さんですね!かしこまりました!それではこの中から特訓したいプログラムを選んでください!』



【魔階級測定】【魔力砲弾圧迫量】【魔力精密的中】【新魔法技術解放】【高魔力育成訓練】【カージェ情報確認部】【etc.】


「なにこれ?」


どれが何をさしてるのかが全然分かんない.....。とりあえず選んでみよう。


そう思い、私は【魔力砲弾圧迫量】を選択した。


『かしこまりました!【魔力砲弾圧迫量】ですね!では早速画面に今回のセットメニューを移したのでそれを実行してください!制限時間は20分!それでは始め!』


えぇ?!そんな急に?!

 

急いで画面に表示されてるメニューを見る。


なんとそこには目を見張るようなことが書かれていた。



[魔力玉100発×50回][走り込み5キロ][魔力維持10分]



魔力維持とは魔力を一定の量保ちながら魔力を放出する訓練である。


 あまりの無謀なメニューに圧巻され、立ち止まっていた。


「早くしないと時間きれちゃうよー?ほら!行った行った!」


 そんな私の様子を見て真泉先輩は早くいけと急かしてくる。



.....仕方ない....行くか!


私は決心し、走り出した。


これからがこの地球最強のマスター、伊藤美雷の成長なのである。

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