第9話 行方不明の少年少女
「お兄ちゃん、いつになったら帰ってくるの....」
進がカージェへ旅立った後、そんなことは知らない明里は夜がきても玄関の前で座って進を待ち続けていた。
「明里ー。兄さんだって高校生なんだよ?朝帰りだってありえるかもしれないし」
明里がジッと玄関の前で待ってると、後ろから歯磨きをしながら由良が話しかけてきた。
「お兄ちゃんはそういうんじゃないから」
「でももう寝ようよ。絶対明日の夜にはいるでしょ。もう12時だよ?」
確かにもうそんな時間か...。どうせバカ兄なんだから何があってもすぐ帰ってくるよね....。
「うん、そうする。お休み由良」
「お休みー」
明里は由良の言うことを聞いて部屋へと行った。
「兄さん....あのメール、本気だったの?」
体育座りで顔を膝に埋めて、か細い声を上げる由良。
ガチャッ
「おー?そんなところでどうしたんだ?由良」
「お父さん」
半泣き顔の由良の顔を見て、戸惑う父。
「とりあえず話をしようか」
父はすぐさまリビングに行き、由良をソファーに座らせる。
「とりあえず何があったのか教えてくれないかい?由良」
「兄さんがっ....帰って....来ないの!しかも....私にっ....連絡くれたのに...それを無視して....友達と遊んでた!.....」
なるほど....進が帰ってきていないか、連絡通り、送り込まれたようだな。カージェに。
「心配いらないさ。俺が探しだすから、由良は大人しくお兄ちゃんの帰りを待ってな」
「ほんとに...?兄さん帰ってくるの....?」
今まで一緒に生活してきてこんな顔は3回も見たことがないぞ....。でもごめんな。今の俺じゃ進を取り返せないんだ。せめてあと2年!2年あれば対抗できるんだが!圧倒的に俺の力不足だ....!
「ああ、お兄ちゃんは必ず帰ってくる。それまでは安心していな」
「うんっ!」
なんて華やかな笑顔なんだ!これを毎日拝めたらいいのに。
そういえばママの方は大丈夫か....?
そう、父が一番心配しているのは妹たちではなく、進の母である石川華だ。
彼女のことは父がよく知っている。とてもよく....。
由良を落ち着かせているとそのまま眠ってしまったので、部屋に運んでいく。
まったく、早く帰ってきてくれよ進......。妹たちが悲しんでるぞ。
由良を部屋に運んだ次は華の部屋に入る。
「た、ただいまー。華ー-、生きてますかー?」
部屋の扉を開けると、電気はついておらず、しかし奥に人が膝立ちしてるのがかすかに見える。
おそらく華だろう。
「.......お帰り.....」
「うん.....進のこと、聞いたよ」
「.....そう」
「あいつ、カージェに送り込まれたんだよ。今年の生贄として」
「い、いけ......にえ....?」
「そうだ。生贄だ」
「言ってる意味がよくわかんないよ、どういう意味なの?!」
明らかに動揺してるな。いったん落ち着かせた方がいいかもな。
「落ち着け、華」
「落ち着いてられるわけないでしょ?!息子がいなくなったのよ?!それも生きて帰れるかどうかもわからない『南東部』に!!」
南東部だと?!あの上司!ふざけた真似しやがって!!
「誰からそれを?」
「進の担任からよ」
「そうか......」
「で、さっきの生贄って何?お願いだから教えて」
「.....わかった」
父は姿勢を整え、顔を真剣にする。
「カージェが地球にぶつかった日、地球とくっ付いてる部分から急に大量の生物が地球へと侵入してきたんだ。その生物は人間の2倍近くの体格で、『魔法』という御伽噺でしか見たことのない現実離れしたものを放ってきた。しかし、人間側も必死の抵抗で兵器や銃などを使い、その生物たちと戦争を始めた」
「その戦争は5年続き、人類も謎の生物たちも疲れ切っていた。しかしそんなときに、生物の長だと言い張る男が戦場に現れた。その男は、圧倒的な魔法で人類側を一気に窮地に追い込んだ。しかし戦闘員が戦場から一人たりともいなくなると、その男はこう言い残し、帰っていった。 『1年に一回、誰でもいいから2人、自分のところに差し出せ』と」
「ここまでが一部の人間が知ってる昔の情報だよ。これでわかったかな。生贄の意味」
父は話し終わって華の方に視線を向けると、号泣している様子の華。
それを見た父はとっさに華を強く抱きしめた。
ギュー--ッ
「大丈夫。大丈夫だから。大丈夫.....!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁー-----!!!!!!!」
華の泣き声は、静かな夜の住宅街の中に響き渡っていた。
〇●〇●〇●〇●〇●〇●
「えー、今日.......は...石川が欠席....だな」
朝のホームルームで久本から気力が感じられないので、生徒たちは少々困惑している。
「先生!どうかしましたか!」
生徒に聞かれて数秒後にハッとしたように目を開く久本。
「すまん。少し寝不足でな」
「大丈夫っすかー-?!」
「大丈夫だ。今日も魔法実践を中心に授業を組んでいる。気を抜くなよ?」
いつものように最後に生徒たちに活を入れて教室を後にする。
どうしたんだろ。前の席の人、このままじゃ出席日数足りずに留年しちゃうんじゃ...。久本も様子おかしかったし、なんか不吉だなー。
「伊藤さん!訓練室、一緒に行こうよ」
佐々木が伊藤を誘う。後ろには今井さんの姿もなく、いつもくっついている残り2人の姿もなかった。
完全に私のこと、堕とそうとしてるじゃん......。
ポッケのゴム見えてるっての。
「ごめん、そういうのは....まだいいかな」
そう言い残して私は今井さんのところへと駆け足で行く。
「今井さん、早く行こ」
「うん!あの3人は?」
「いいよ。あいつら私たちの体が目当てっぽかったし」
「えぇぇー--?!?!最っ低ー-!!!死ねば?」
今井は急に眼の色を変え、ごみを見る目で佐々木たちを見下す。
今井さんってそういうのできるんだね....。すごい。私もあの男にやってみようかな。
私が廊下を歩いていると、別クラスの人たちからすごい数の視線を浴びせられる。
「ねえ今井さん、私たちめちゃくちゃ見られてない?」
「そりゃあ、みんなの憧れの機械を壊しちゃったんだから!今となっては学園一の人気マドンナよ!」
余計なことしやがってー!
気まずいので早く訓練室にいこうとすると、知らない女子に話しかけられた。
「あの!伊藤美雷さんですか?!私!あの噂を聞いて!ずっと憧れてたので!握手とかしてもらえないですか!!」
そう言って手を差し出してくる他クラスの女子。
「ゴメンねー!今から私たち第一魔法訓練室に行かないといけないんだー!じゃまたねー!」
そう言ってなんとかあの場から抜け出し、訓練室にたどり着けた。
「今井さんありがと。訓練室に行くのも一苦労だよ」
「ねー!もう一人エリートがいるんだからそっちも見てないと失礼だよ!!」
もしかしてもう一人のエリートって自分のことを言ってるのかな?
「少し、お邪魔してもいいですか?」
美雷の背後から声をかけてきた謎のクラスメイト。その子からは人とは思えない寒気が伝わってきた。
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