第38話 四日目の昼

 漢遊馬、一生の不覚である。


 こんな事、本当なら秘密にして墓まで持って行きたい。


 でも、遊馬は正直な男なのでちゃんと二人に報告した。


『え~! 遊馬君、高校生にもなっておパンツの中にお漏らししちゃったんだ? 恥ずかしいんだ~』

『ダッサ。しかも夢精とか。早漏よりもヤバいでしょ』

『し、仕方ないだろ! 夢の中で雫に襲われたんだ! 俺は必死に抵抗したんだ! 不可抗力だ!』


 流石に最後に青葉に変わった事だけは言えなかった。


 アレは多分、遊馬の良心か、青葉に対する罪悪感の表れだったのだろう。


 なんにしろ、そんな事を言って二人に青葉に気があるなんて誤解されたくない。


 遊馬は雫一筋だ。


 大きいお尻と大きなおっぱいとちょっとぷよっとしたお腹が大好きで、尻の小さな貧乳のスレンダーボディなんかまったく趣味ではない。


 本当だ! くそ、変な夢を見たせいでこっちまで意識してしまう! アレは夢だ! 夢なんだ! 


 遊馬は自分の無意識とやらを呪った。


 なんて夢を見せてくれたんだ!


 おかげで胸の中は自己嫌悪でいっぱいだ。


『んふ~。それは嬉しいけど。でも、失敗は失敗なので。遊馬君マイナス一ポイントです』

『なにやらせよっかな~。一週間雫と接近禁止とか?』

『おい! それは卑怯だぞ!』

『そうだよ青葉ちゃん。お願いは最長でも一日までにしよ』

『一日なら別のがいいな。女装させて連れ回すとか?』

『いいね! 三人で女の子デート! 遊馬君に可愛い服着せてお洒落なカフェに入って女子トークしたりして! じゃあ私はそこに、リモコンローターを追加して』

『お前らに情けの心はないのか!?』

『でも遊馬君、ちょっと期待しなかった?』

『……してない。俺はそこまで変態じゃない……』

『嘘ばっか。たった三日も耐えれないとか、完全に変態じゃん。性欲モンスター二号じゃん』

『不公平だ! 男は疲れると疲れマラになって勝手に相棒が興奮しちまうんだ! それに二人は物理的に汁が溜まったりしないだろ!?』

『あ~! それは差別だと思います! 女子だって生理前後はムラムラするんだからね!』

『そうだよ! あたしだってあの後エッチな夢見たし! でも滝沢みたいにお漏らししなかったし?』

『お前が漏らしたらただのおねしょだろうが!』

『似たようなもんでしょ』

『全っっっっ然! 違う!』

『ちなみに青葉ちゃんは私のお家でイキ疲れて眠っちゃっておねしょした事があります』

『雫!? なんで言っちゃうの!?』

『ごめんなさい。イジメたくなっちゃって……』

『やーいやーい! おねしょ女! そっちの方が恥ずかしいだろ!』

『っさい! 雫の前で気が緩んでただけだし! 普段はそんな事絶対しないし! もう頭きた! 超恥ずかしい罰ゲームにしてやる!』

『ふん! そんな事言って伏見ももう限界だろ? 休み中に根を上げてチョメるに決まってる』

『そんな事ないし! あたしは平気だし!』

『あーあー。遊馬君はスッキリ出てきていいな~』

『冗談じゃない! 三日も溜めてたんだ! たった一回、しかもあんな中途半端な夢精でスッキリするわけないだろ!? むしろ半端に出して余計にムラムラしてるんだ!』

『つまり、ダブルアップのチャンスがあると?』

『ねぇ雫。手を組まない? 二人で滝沢誘惑して何回か夢精させるの。そしたらその分、あたし等がスッキリしてもセーフって事になるでしょ?』

『おい伏見! 卑怯だぞ!』

『勝負事に卑怯はただの負け惜しみだから。プレイなんでしょ? 頭使わなきゃ』

『面白いけどダメでーす』

『なんで!?』

『当然でしょ? 私は青葉ちゃんにもお願いしたい事がいっぱいあるんだから。それに、遊馬君ばっかりイジメたら可哀想だよ』

『ちぃ……。交渉失敗か』

『俺のヘイトを稼いだだけだったな。こうなったら、どんな手を使ってでもお前の足を引っ張ってやる』

『はぁ? 滝沢に何が出来んの? 言っとくけど、あんたのエッチな自撮りなんかじゃあたしは興奮しないから』

『ならこれはどうだ』


 遊馬が送ったのは雫が相棒をおしゃぶりしている画像だ。


『遊馬君!? それはダメでしょ!?』

『どうして? 雫だってエッチな画像送りまくってるだろ?』

『そ、そうだけど……。うぅ、こんなの、興奮しちゃうじゃん!?』

『あたしはへん態じゃないあら平気だい』

『嘘つけ。動揺して誤字りまくてるだろ。もはやこの中じゃお前が一番の変態ドMだって事は分かってるんだからな! 寝取り女の癖に俺と雫がイチャイチャしてると興奮する超ド級の変態だ!』

『う、うるさい! 性癖なんだから仕方ないじゃん! あたしだってこんな性癖望んでなかったし!?』

『と言いつつ私と遊馬君のエッチな画像をばっちり保存するいけない青葉ちゃんなのでした』

『あーもームラムラする! あたしは抜けるから! 休みの間はもう携帯も見ないから!』

『私もムラムラが限界なのでジム行ってきま~す』


 会話が途絶えて遊馬は考え込んだ。


 最悪雫の罰ゲームを受けるのは仕方ない。


 恥ずかしいけれど、なんだかんだ嫌ではない。


 新たな扉が開いて人生がピンク色に彩られるだけだ。


 でも、青葉の罰ゲームを受けるのは嫌だ。


 本彼として、遊馬は青葉をライバル視している。


 絶対に青葉だけには負けたくない。


 その為には、どんな卑怯な手を使ってでも青葉をムラつかせなければいけない。


 とりあえず雫と撮ったエッチな画像を追加で投下する。


 二人だけの神聖な行為を青葉に見せるのは少し癪だが、見せつけてやっていると思えば優越感も湧く。


 携帯は見ないとか言っておいて、キッチリ既読がついていた。


『オカズだぞ。ありがたく思え』

『くたばれ』


 この通りの即レスだ。


 でも、これだけで青葉が欲望に負けるかは不安だった。


 むしろ意地になって余計に禁欲に励むかもしれない。


 もっと直接的な方法で青葉をムラつかせられないだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る