第34話 二日目の昼

「遊馬く~ん。屋上で一緒にお昼たべよ~?」


 昼休みになると、教室の入口から雫が顔を覗かせた。


 珍しい事だった。


 普段なら、雫は二人に気を使って、昼食に誘う時はラインで呼び出すようにしている。


 このタイミングでわざわざ顔を出したのには、なにか魂胆があるのだろう。


 恐らく、青葉の嫉妬心を煽ってムラつかせる為だ。


 実際青葉は羨ましそうに遊馬を睨んでいる。


 一方で、これが罠である事も分かっているのだろう。


 これから一対一で雫と昼休みを共にする遊馬に同情するような気配もあった。


 遊馬だって罠である事は分かっていたが、断るわけにはいかない。


 ムラつく目に遭わされる事は分かっていたが、それはそれとして彼女と一緒にお昼を食べたいのだ。


 何も知らない友人の冷やかしを適当にあしらうと、青葉に向かって軽く肩をすくめ、遊馬は弁当を持って立ち上がった。


「ダイエットの調子はどうだ?」

「良い感じ。一食抜いただけでお腹ペコペコ。いつもよりご飯がすごく美味しそうに見えるよ」


 ニコニコ笑顔で雫が言う。


 けれど目の奥は性欲でギラついていた。


 許可さえあれば、今すぐ物陰に連れ込まれてブチ犯されそうだ。


 想像して遊馬はエッチな身震いをした。


 相棒が反応しそうになり、深呼吸をして落ち着ける。


 廊下を歩いている最中に起立したら洒落にならない。


「俺もそうだ。たった一食でも随分違うもんだな」


 苦笑いで遊馬は言う。


 ムラムラは困るが、禁欲プレイ自体は面白い試みだと感じていた。


 禁欲を始めてまだ二日目だ。


 それなのに、出来ないと思うだけで妙に興奮する。


 感覚も鋭敏になって、雫を愛する心の感度も増している気がした。


 いつだってエロ可愛い雫だが、今日は特にそう感じる。


 それこそダイエット中に食べ物が気になるように、普段よりも雫の事が気になった。


 いつでも手の届く当たり前の存在を見直して、愛おしさを再認識しているような心地だ。


 隣を歩くだけでも、ぼんやり感じる雫の体温が心地よい。


 ふとした時に感じる雫の体臭の香しい事。


「なんだか付き合いたての頃に戻ったみたいで新鮮だな」


 ある意味あの頃は毎日が禁欲プレイだった。


 相棒が勃たないように、手を繋ぐ事だって避けていたくらいだ。


「私も同じ事思ったよ? お腹が空くのは大変だけど、ちょっとした事でもドキドキして楽しいね」

「だな」


 無邪気な笑みに遊馬も笑い返す。


 爛れた三角関係に足を踏み入れ、雫を満足させる為に必死になって相棒を扱き、変態道を邁進していたが、時にはこうして立ち止まるのもいいかもしれない。


 エッチな事なんかしなくても、むしろ出来ないからこそ、こんなにも心が高ぶるのだ。


 これは中々面白い発見である。


 そういう意味では青葉に感謝だ。


 青葉はいつも、遊馬に愛の発見を与えてくれる。


 なんて思っていたら、雫の胸が腕に触れた。


 なんだろうと思って距離を取ると、その分だけ近づいてくる。


「近いんだが」

「わざとだよ」


 ニコニコしながら言ってくる。


 どうやら雫の誘惑が始まったらしい。


「勘弁してくれ……」

「プレイなんでしょ? だったら楽しまなきゃ。辛いのは私も一緒だし。遊馬君も誘惑していいんだよ?」


 周りの目を気にしつつ、絶妙な音量で言ってくる。


 聞こえるか聞こえない、そんなギリギリを楽しんでいるのだろう。


「望む所だと言いたいが、雫に勝てる気がしないな」

「二対一でしょ?」

「今は一対一だ」

「私だって負けたくないもん」


 悪戯っぽく雫が笑う。


 雫にとってはゲームみたいなものなのだろう。


 あるいは、そもそもプレイとはそういう物なのかもしれない。


 勝ち負けを問わず、大事なのは楽しむ事なのだろう。


 そういうスタンスだから、雫のチョメチョメは心地よく上手いのかもしれない。


 なんて冷静に考えられたのは最初だけだ。


 屋上に近づくにつれ廊下を歩く生徒の姿は少なくなる。


 そうなると、雫は人目を盗んで遊馬のお尻を撫でたり、制服の上から胸を突いたりした。


「やめろって」

「遊馬君もやり返したら?」

「してもされても興奮するだろ」


 既に相棒は半勃ちで、弁当袋で隠している状態だ。


「嫌なら避ければいいのに」

「……意地悪言うなよ」


 遊馬も学校で雫に攻められるのは嫌ではない。


 背徳的で物凄く甘美だ。


 恥ずかしそうに呟く遊馬を、雫はうっとりと蕩けた顔で見つめる。


「もう! そんな可愛い顔で私を誘惑して! 遊馬君にも責任があると思います!」

「そんな顔してないだろ」

「してるよ。イジメてくださいって顔に書いてあるもん」

「だとしたら、雫が書いたんだ」

「遊馬君が私に書かせたのかもしれないよ?」

「そんな事ない」

「本当に? 私は遊馬君がして欲しそうな事をしてるだけなんだけどなぁ?」


 その通りだと思ったので、遊馬は黙秘権を行使した。


 なんだか悔しくて、むくれた顔でそっぽを向く。


「拗ねた顔も可愛いね」

「うるさい」

「あ、ひどいんだ」


 冗談めかして言うと、雫は屋上に上がる階段を何段か先に進んだ。


「急ぐと危ないぞ――」


 ベッドの上以外ではどんくさい所のある雫だ。


 心配になって呼び掛けると、前を向いたまま雫が思いきりスカートの後ろをまくり上げた。


「じゃじゃ~ん」


 真っ白いお尻と共に、この前のデートで買ったエッチな下着が露になった。

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