第23話 セフレのお誘い
「ぐひ、ぐひひひ、いいですねぇ。実に良いです! 年頃の男の子が嫌そうな顔でスカートを捲ってパンツを見せてくれる! 夢のようです! ぐふふふふ!」
カシャシャシャシャシャシャシャシャ。
足元に寝転がった変態もとい紅葉が次の話で即ざまぁされるインスタント悪役みたいな下卑た笑みを浮かべなら厳つい一眼カメラのシャッターを切りまくる。
遊馬は言葉通り、嫌そうな顔でミニスカートの端をめくってパンツを見せていた。
なぜ?
三十分に渡る熾烈な交渉の結果である。
既に倫理観がバグり始めている遊馬である。
相手は美人で女性でエロ漫画家で陰キャで友達の姉だ。
相棒を見せるだけで三万も貰えるなら……。
正直、迷う気持ちはかなりあった。
だが待てと、普段ないがしろにされがちな倫理観は言う。
バイトとは言え、そんな事をするのは浮気になるんじゃないだろうか?
これは中々難しい問題である。
青葉との関係を認めたせいで、浮気の定義もガバガバになる。
あれがいいならこれくらいは……と、そんな気持ちになるのは当然だろう。
一方で、なんにしたって雫を悲しませるような事はしたくないという気持ちもあった。
もし雫が遊馬に内緒で友達の兄のエロ漫画家に資料だろうと裸の画像を撮られるバイトなんかしたらと想像したら……。
今自分は、そういう事をしようとしているのだ。
でもお金は欲しい。
それに、遊馬は都合のいい男だった。
雫に嫌な思いをさせるのは嫌だが、自分が嫌な思いをするのはある程度ならオッケーだ。
というか、別に美人に相棒を見られるなんて嫌な事じゃない。
むしろご褒美感がある。
そんな事でお金を貰ったら悪いくらいだ。
ともあれ、その辺の事情を踏まえてきっちり紅葉と話し合い、見つけた妥協点がコスプレ撮影会だった。
裸はNGだが、服の上からなら問題ない。
だが、それだけでお金を貰うわけにはいかないので、指定の衣装で指定されたポーズを取って撮影される。
それだってモデルでもないその辺の男子高校生がお金を貰うには好条件過ぎるが、紅葉は喜んで条件を飲んでくれた。
遊馬(自分)、雫、紅葉の三人に気を使った最大公約数的な落としどころだろう。
と、思ったのだが。
遊馬は甘かった。
相手は変態寝取りレズ女の姉で、売れっ子のエロ漫画家なのだ。
脳髄までエロい事が詰まったドスケベ変態ピンク星人である。
てっきり遊馬はスーツとか和服とか運動着とか人気のアニメキャラとか、とにかく男の格好のコスプレをするもんだと思っていた。
エロ漫画の資料なら、そういう画像も必要になるだろう。
全然違った。
紅葉のお望みは女装だった。
普段自分で着たり青葉に着せている資料用の衣装が山ほどあるらしい。
それを次々着させられ、恥ずかしい恰好を撮られている。
そりゃ嫌な顔にもなる。
スカートを捲るぐらいならまだ優しい。
女豹のポーズ、アヘ顔ダブルピース、チンぐり返し、親指を噛みながらM字開脚、Y字バランスまでやらされた。
衣装だって今着ている女物の制服の他にも、真っ赤なブルマ、メイド服、園児服なんかを着せられた。
スク水と裸エプロンは断った。
都合よく男用のサイズがあるわけもない。
どれもこれもピッチピチのキッツキツだ。
紅葉的にはそれがいいらしい。
恥ずかしがる遊馬を見て完全に犯罪者の顔で鼻息を荒げていた。
一応、紅葉は良い人だ。
こまめに疲れてないか聞いてくれるし、嫌なら遠慮しないで断っていいんだからねハァハァと色々気を使ってくれる。
その辺を考慮しても普通にキモイ。
美人だが、マジでキモイ。
心がそう感じてしまうのだから仕方ない。
頭では良い人だと思っているので嫌いになったりはしないが、キモイと思う事は止められそうにない。
それなのに、遊馬の相棒はバチボコに硬くなっていた。
どうやらバグっているのは倫理観だけではないらしい。
日々雫に責められて、遊馬の身体は性的に敏感になっていた。
紅葉にねっとりと嫌らしい目で視姦され、恥ずかしい恰好でカシャカシャ写真を撮られまくり、どういうわけか興奮してしまった。
そんなはずない! 俺は変態じゃない!
いくら心の中で唱えても身体は正直だ。
パンツだけは自前の物を死守しているが、スカートにトランクスは心もとない。
自慢の性剣は切なそうに起立して、トランクスの生地を突き破ろうとグリグリ頭を押し付けている。
触ってもいないのに、なんだか達してしまいそうだ。
「……あの、ちょっと休憩させてもらえますか……」
腰のあたりをもじもじしながら遊馬は言った。
借り物の衣装を汚したら一大事だ。
それ以前に、友達の姉の前で粗相なんかしたらヤバすぎる。
友達の姉の前で女装してガチガチになっている時点で十分ヤバいが、それくらいは今更だ。
むしろ、お金を稼ぐならこれくらい大変な目に合わないとダメだろうなと日本人の悪い所が出てしまっている。
「おしっこですか!?」
「違います」
紅葉がばっと飛び起き、目をキラキラさせながら聞いてくる。
「は、恥ずかしながらなくてもいいですよ!? せ、せ、生理現象ですし! おほ、おほぉ、お、男の子は硬くなってるとおしっこ出来ないって聞きますし、お、お、お、お姉さんで良ければ喜んでお手伝いを――」
ピピーッ!
遊馬はホイッスルを吹き、黄色いカードを高く掲げた。
「イエローカードです」
「はわっ!? ご、ごめんなさい……。わ、私とした事がつい、興奮して……」
紅葉の暴走を注意する為事前に渡されていた。
なんでも青葉が考えたルールらしい。
という事は紅葉は、青葉相手にも興奮しているのだろうか。
あの妹にしてこの姉ありという感じである。
「いえ、落ち着いて貰えれば大丈夫ですので」
色々ヤバいと思いつつ、雇い主だし、根は悪い人ではなさそうだし、遊馬もそれなりに丁寧に接している。
「青葉ちゃんが言ってた通り、遊馬君は優しいんですね……。はぅん。お姉ちゃん、好きになっちゃいそうです」
「いえ、俺には彼女がいますので」
「セフレでも全然おっけーです! むしろ処女を貰っていただけると!?」
「いえ、本当、そういうのは間に合ってますんで」
キッパリ断ると、遊馬は笛を吹いてレッドカードを掲げた。
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