第21話 寝取った奴の秘密
『遊馬君。今度の日曜日普通におデートしませんか?』
†
「――ところで伏見。すぐに金になる割のいいバイトを知らないか?」
「なに急に」
恒例となったキングでのチョメチョメ講習が終わった後の事だ。
「雫にデートに誘われたんだ。オーケーしたんだが、よく考えたらアダルトグッズの買いすぎで金がない」
「バカでしょ」
「面目ない」
その通りだと遊馬も思った。
「急すぎだし。今度にして貰ったら?」
「でもデートはしたいんだ」
雫は見たい映画があると言っていた。シン・スペシャルマンという特撮映画で、色々話題になっている。遊馬も興味があった。雫は映画好きで、見終わった後に楽しそうに感想や解釈を語る姿が遊馬は好きなのだった。
この前も私だって普通のデートもしたいと言っていたし。
チョメチョメ以外の要望にも応えるのが彼氏の務めだろう。
映画が終わったらぶらぶらショッピングをして、外食して、もしかしたら初めてのホテルという流れにもなるかもしれない。
想像するだけでワクワクする。
初めてのホテルは青葉に先を越されてしまったし、追いつきたい気持ちもある。
その他諸々の理由で、遊馬もめちゃくちゃデートしたかった。
「……じゃあ、雫に出してもらえば?」
青葉の顔が面倒臭そうになってきた。
「俺はヒモじゃない。そんなの格好悪いだろ」
「彼女を寝取ろうとした間女に金欠の相談してる時点でめちゃくちゃ格好悪いと思うけど」
「なかなか鋭い正論だな」
神妙に頷くと遊馬は言った。
「それだけ頼りにしているという事だ」
青葉には赤裸々な性の悩みを聞いてもらっている。こんな相手は他にはいない。辛口な時もあるが、なんだかんだ真面目に答えてくれる。間女ではあるが、遊馬は結構青葉を信頼していた。友達と言ってもいい。
青葉もまんざらでもなさそうに少し照れたような顔をする。
「もぅ……。本当どうかしてるんじゃない……」
そういいつつ、こほんと咳ばらいをして姿勢を正す。
「てか、アダルトグッズは雫の為に買ったんだし、半分出して貰えば? てか、雫は出すって言わなかったの?」
「全額出すと言われたが断った」
「なんで! あぁ、言わなくていいから。どうせしょうもない見栄を張ったんでしょ」
「その通りだが、彼女にアダルトグッズ代を払わせるのもなんか嫌じゃないか?」
「……まぁ、そうかもだけど。短期のバイトねぇ……。てか滝沢、そもそもバイト経験あるの?」
「ない」
「胸を張るなっての」
青葉につま先で蹴られる。
「……一応聞くけど、どんなバイトがいいとかある?」
「楽で割がよくてうるさい人間関係とかなくてチントレになると最高だな」
「……AVの竿役でもやったら?」
「なるほど! その手があったか! 流石伏見だ!」
立ち上がろうとする遊馬を青葉が慌てて引き留める。
「うそ! 冗談だってば!?」
「俺もだ」
真顔で座りなおす遊馬を見て、青葉はブルブルと拳を震わせた。
「あんたねぇ……」
「ちょっとしたお茶目だ。そう怒るな」
「こっちは真面目に聞いてやってるんだけど?」
「聞かれたから理想を答えただけだ。日曜までに金が入るなら死体洗いでもなんでもやる」
「そんなバイトの伝手なんかないっての!? もう、あたしの事なんだと思ってるの!?」
「友達が多くて顔の広い世話焼きで頼りになる凄腕の間女だが?」
「……最後の一言で台無し。まぁ、本当の事だけど……」
「一々凹むな。面倒くさい」
「へ、凹んでないし! それに、頼ってくれるのは嬉しいけど、急すぎるから! 長期ならともかく、そう都合よく短期のバイトなんて……ぁっ」
「心当たりがあるのか? 流石伏見だ! 心の友よ!」
明らかにそういう反応だったのだが、青葉は誤魔化した。
「ち、違うって! 今のはそういうんじゃないから! 忘れて!」
「そう言われると余計に気になる。この際多少変なバイトでも気にしない。俺とお前の仲だ。ちょっとやそっとのヘンは今更だろ」
「そうだけど……うぅぅ……」
なにやら恥ずかしそうに呻くと、上目づかいで聞いてくる。
「絶対誰にも言わないって約束できる?」
「雫への愛に誓って」
左胸に拳を当てて遊馬は言った。
真剣だったのだが、青葉は白けた様子で「クッサ」と顔をしかめた。
ともあれ、それで納得してくれたらしい。
「……じゃあ言うけど。本当にこれ、秘密だからね。滝沢を信じて話すんだからね! 誰にも言っちゃだめだからね!」
「わかったって! しつこいぞ!」
二人しかいない部屋を警戒するように見渡すと、青葉は唇が触れそうなくらい遊馬の耳に顔を近づけた。
「……あたしのお姉ちゃん、エロ漫画家なの」
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