第18話 寝取った奴とおそろっち
「らっしゃーせー」
ギャルっぽい店員の声が気だるげに響く。
青葉に案内されたのは
小ぢんまりとした雑居ビルの一階には、コンビニ感覚でアダルトグッズが並んでいる。
二階はエロ本やDVDなんかが置いてあり、そちらは十八禁の暖簾がかかっていた。
一階は未成年でも利用出来るのだが、遊馬はいけない所にやって来たような疚しさを感じていた。
「……てか伏見は、なんでこんな店知ってるんだ?」
「雫を満足させる為に決まってるじゃん。ついてないなりにあたしだって雫を満足させる為に色々頑張ってるの」
青葉もどこか気まずそうだ。
クラスメイトの男子とアダルトショップに来てるのだから当然だろう。
「それより買い物。さっさと済ませちゃおう」
「お、おう」
言われて店内を眺めるが、恥ずかしくて遊馬はなかなか直視できなかった。
雫に合わせてそういうのを避けている内に、自分も初心になっていたらしい。
大体、謎の液体やらヘンテコな形の棒やらを見ても、遊馬としてはなにがなんやらと言った感じである。流石にコンドームくらいは知っているが、双頭ディルドとか無線ローターなんて言われても意味不明だ。
「……伏見はなにがおすすめなんだ?」
「はぁ!? お、おすすめとかないし!?」
真っ赤になって青葉が言う。
「伏見も使ってるんだろ?」
「そ、そんなの言えるわけないでしょ!?」
「いや、雫とする時の話なんだが」
「…………キュゥ」
喉の奥で唸ると、青葉はますます赤くなった。
「ま、紛らわしい言い方しないでよ!?」
肩にパンチされた。
どうやら青葉も個人的に使っているらしい。
別に知りたくなかったが。
「もう、余計な恥かいたじゃん!?」
ブツブツ言いながら、青葉はバイブコーナーで足を止めた。
「……とりあえず、この辺じゃない?」
むっすりしながら言ってくる。
「なにに使う道具なんだ?」
「ナニに使う道具に決まってるでしょ!?」
「怒るなよ。わからないんだから仕方ないだろ!」
「それでも男!?」
そんな事を言われても困る。
遊馬は最近まで童貞だったのだ。
相棒を扱うのは左手一本。
道具なんか必要ない。
「うぅ……だから、バイブだって。バイブレーター! マッサージ器みたいにブルブルするから、あそこに当てたり中に入れたりすんの!」
「……あぁ! 相棒の代わりか! だからこんな形なんだな!」
ヘンテコな形が多いので気付かなかったが、中にはそのまま相棒を模した物もある。
「……で、どれがいいんだ? ――いてっ! 叩くなよ!」
「ちょっとは自分で考えてよ! あたしだって恥ずかしいんだから!?」
「雫と寝てるのに?」
「それとこれとは話が別じゃん!?」
「まぁ、そうだが」
普段クールぶっている青葉が慌てる様は面白い。
嫉妬心もあるし、ちょっと意地悪をしたくなる遊馬だった。
「だめだ。形を見てもなにが違うのかさっぱり分からん」
「説明書いてるでしょ!? 防水とか、ピストンとか、スイングとか!?」
「防水って、中に入れたらどれも濡れるんじゃないか?」
「水洗いしたりお風呂でも使えるって事!? もう、全部説明しないといけないわけ!?」
「そうしてくれるとありがたい」
「勘弁してよ!?」
頭を抱えると、青葉はおもむろに棚の商品を掴んで遊馬に押し付けた。
「これでいいでしょ! 前に雫とする時に使った奴!」
パステルピンクのバイブは相棒とは似ても似つかない。頭の大きなのっぺらぼうが両手を合わせてお祈りをしているような妙な形をしている。
「こっちの小さい突起は何のためにあるんだ?」
「んーーーー!」
じれったそうに呻ると、青葉は真っ赤になって遊馬の耳に囁いた。
「あぁ。クリ――」
「言うなってば!?」
肩パンされた。
普段のチョメチョメアドバイスの時は結構サバサバしているのに、変な奴だ。
「小さくないか? 俺のはもっと大きいぞ」
「んーーーー!」
肩パンの連打だ。
「滝沢のはデカすぎ! そのサイズに合わせたらネタみたいなバイブしかないから!? 大体、チョメチョメはサイズじゃないの!」
「でも、雫はお腹いっぱいになる感じがして嬉しいって……」
「そんなの義理で言ってるに決まってるでしょ!? そんなデカいの普通は痛いだけだって!?」
「マジかよ……」
かなりショックだった。
不甲斐ない遊馬にとって、相棒の大きさは唯一のよりどころだった。
「いや、雫は特別だからわかんないけど……。大体、道具とそれじゃ目的が微妙に違うし、大きさとか長さは問題じゃないの! 愛撫の授業でも教えたでしょ? 気持ちいいのは奥より手前だって」
「た、確かに……」
そう考えると、大きさや長さはそこまで必要ないのかもしれない。
「わかったらこれでいい?」
うんざりした顔で青葉に言われ、遊馬は答えた。
「伏見と同じ奴はいやだ」
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