第12話 隙あらば寝取りたい
雫の肩がびくりと震えた。
恐る恐る上げた顔は、つついたら泣き出しそうだ。
雫の唇がなにかを言いかけて、ぐっとそれを飲み込む。
歯を食いしばり、固く目を閉じてなにかに耐えると、雫ははぁはぁと息を荒げた。
「気持ちは嬉しいけど……だめだよ。そんな事したら、今度こそ浮気になっちゃうもん」
どうやら青葉の思っていた以上に雫は溜まっていたらしい。
考えてみれば当然だ。青葉がそうであるように、雫もこの関係が終わってムラついているのだ。これまで散々青葉に甘やかされたせいで、性欲オバケがモンスターに成長したかもしれない。
そこに今更児戯のような愛撫をされても、前菜にもならない。
余計に飢えるだけだろう。
渇望していた彼氏とのちょめちょめが不発に終わったというのも無関係ではない。雫は遊馬と繋がる事を本当に楽しみにしていた。その為に色んなテクや体位を練習していたのだ。それが入れる前に弾けてしまうのだから、口惜しいなんてレベルではない。拷問だ。
雫の事を思えば、正気を保っているのが不思議なくらいである。
間女の下心はもちろんあるが、親友として青葉は普通に心配になってきた。
「いや、マジで大丈夫? 体質なんだしさ、またおかしな事になる前に、滝沢に相談した方がいいんじゃない?」
「……無理だよ。あんなに必死に頑張ってくれてるのに、満足できないから女の子とちょめちょめしていいなんて、そんな最低な事、言えないよ……」
ぽろぽろと、雫の目から涙が零れた。
ここまで来ると笑えない問題だ。
雫は本気で遊馬を愛している。
遊馬だって多分同じくらい愛している。
二人の話を色々聞いて、青葉はそう思った。
だから遊馬は雫が浮気をしても責めず、自らに非があるとして身を引こうとした。
雫も素直に浮気を認め、遊馬の前から消えようとしたのだ。
雫の身体に巣食う性欲という魔物さえなければ、きっと最高のカップルになっていただろうに。
そう思うと、青葉は同情した。
なにより青葉は雫が好きだった。
こんな風に苦しむ姿は見たくない。
どうにかして、今すぐにでも救ってあげたい。
そんな焦りが青葉を狂わせた。
「……あたしがしたいの。それじゃあ、だめ?」
雫の顏が歪んだ。優しい雫だ。そう言われれば悩むだろう。一方的に頼って、一方的に終わらせて。そんな勝手な事をしていいのかと。
ぽろぽろ泣きながら、雫の唇が答えを探して震えている。
ダメなんだと青葉は悟った。
言葉にしなくても、目を見れば分かった。
ごめんなさい。ごめんなさい。本当にごめんなさい。
床に額を擦って詫びるような目で泣くのである。
なんで?
拒絶されて、青葉の中で嫉妬の炎が燃え上がった。
あんな早漏男の為に、そこまで苦しむ必要ある? あたしなら、いつでも雫を満足させられるのに! あたしだってこんなに雫の事が好きなのに! どうして受け入れてくれないの!?
「好きなの」
気が付けば、青葉は秘めた想いを口にしていた。
え? そんな風に、雫の目が呆けた。
そして、言葉の意味を理解して恐れるように目を見開いた。
でも、青葉はもう止まれなかった。
「当たり前じゃん。好きでもない子と、あんな事出来るわけないでしょ?」
飛び出す言葉は刺々しかった。
そんなつもりはないのに。
そんな事はしたくないのに。
何故か青葉は雫を責めていた。
「……ごめんなさい。青葉ちゃん、私……そんなつもりじゃなくて……」
怯えた顔で雫が許しを乞うた。
終わったなと青葉は思った。
全部終わりだ。
なんでこうなっちゃったんだろう。
ただ好きなだけなのに。
どうして?
「ごめん」
謝ると、青葉は逃げ出した。
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