第10話 あ~めっちゃムラムラする

 あ~めっちゃムラムラする。


 あれからしばらく経ち。


 素知らぬ顔で四時間目の授業を受けながら、青葉は内心苛立っていた。

 ここまでムラムラする事は今までなかった。


 雫と違い、青葉は性欲オバケではない。女性誌のアンケートを見る限り、平均的な女子よりは性欲が強いようだが、それでもちょっぴりという程度だ。


 どうやら雫とチョメチョメしたせいで、性欲オバケが伝染したらしい。


 大体今までは、雫が溜まる度にお互いの家でチョメチョメしまくっていた。

 それが急になくなったのだ。そりゃムラムラもする。


 気付かない内に、青葉の身体は完全に雫の虜になっていたらしい。

 思い出すのは、雫と過ごした二人だけの内緒の時間だ。


 肉付きのいい柔らかな身体、特大の胸の間に顔を埋めた時の満たされる感覚、そこに秘められた蒸れた女の香り、誰も知らない淫らな鳴き声、涎にまみれた蕩け顔、ぷっくり膨れた桃色の突起と、それを舌で転がす楽しみ、泉のように湧きだす蜜の味、全てが終わった後の幸せそうな雫の顏と、その後に待つデザートのような甘い時間。


 あ~ムラムラする。


 めっちゃ抱きたい! もう一回したい! ふわふわの雫を抱きしめて思いきりチョメチョメして獣みたいに乱れさせてその後一緒にお昼寝したりゲームしてまた雫がムラついてきて第二ラウンドにもつれこみたい!


 ……でも出来ない。

 ……雫との関係は終わってしまった。

 ……その事に不満はない……と言ったら嘘になるが。


 雫の事を思えば、これでよかったのだ。


 だから青葉は必死に雫を忘れようとした。幸い二人は底なしのお人好しで、間女の青葉を責める事はなかった。むしろ何故か恩人みたいに接してくれる。


 本当なら、二人の間に割り込んだ変態寝取り女として糾弾されても文句は言えない立場なのに。


 ……まぁ、そうは言っても、自分の行動が二人の仲を救った自覚はある。あのまま雫が欲求不満を溜め込んでいたら、なんらかの危機を迎えていただろう。


 それはともかく、問題は雫の事をそう簡単に忘れられそうにないという事だ。

 

 青葉の身体は完全に雫の事を覚えてしまって、抱きたい抱きたいと疼く。仕方なく一人で慰めるのだが、考えるのは雫の事ばかりだ。


 関係を持っていた頃は、されるばかりじゃ悪いからと、雫も青葉を慰めてくれた。雫はMだが、攻めに回っても強い。


 むしろ人一倍気持ちいい事に敏感だからか、相手を悦ばせるのが上手いのである。青葉自信、雫に攻められると別人のように乱れてしまう。雫の中に自分を刻むつもりが、逆にこちらが刻まれてしまった。


 それでも距離を置けば、いつかは時間が生々しい獣の衝動を甘酸っぱい思い出に変えてくれると思っていた。


 心と身体を蝕むじくじくとした疼きは、間女に下された天罰だと思い我慢するしかない。


 そう思おうとした矢先にやってきたのが遊馬だ。


 なるほど。確かに雫は超絶美少女だ。女の青葉が興奮するのだから、男の遊馬なら余計にそうだろう。雫はサービス精神旺盛だし、二人で磨いたテクもある。


 堅物の童貞野郎が瞬殺されるのも仕方がない。


 雫が前戯を封印してもそれは同じだ。スイッチの入った雫の姿はとにかくエロい。普段の清楚さからは想像も出来ないすごい顔と声と雰囲気を出す。甘い体臭は濃くなってフェロモンがムンムンだ。こう言ってはなんだが、全身から雌豚オーラが溢れている。


 雫には、相手を興奮させる魔性の才能があるのだ。


 だから、遊馬の早漏は仕方ない。改善するには時間がかかるだろう。青葉としても、贖罪をしたい気持ちはある。雫を欲求不満にさせない為には引継ぎが必要だ。そう思って色々指導しているのだが。


 ……ムラつく。もう、めっちゃムラつく。

 ムラムラでイライラする。


 雫がそうなると聞いた時はそんなわけないじゃん! っと思ったのだが。

 なるほど、これはつらい。

 めっちゃつらい。ものすごくつらい。


 しかもこれは、精神的な部分もあるのだ。

 いくら自分で慰めても、根っこの部分が満たされない。

 ただ気持ちよくなりたいわけではない。雫を愛し、愛されたいのだ。


 遊馬に引継ぎを行っていると、嫌でも雫の事を思い出す。


 大体相手は現在進行形で雫とチョメチョメしている早漏彼氏。向こうも雰囲気で興奮していて、雫との行為を事細かに語りながら切なそうにバスターソードをおっ勃ったてている。


 別に青葉は変態ではない。

 いや、こんな事になっては説得力はないが。


 ともかく、お互いに雰囲気で興奮しているだけだという事は分かっている。青葉にとっても遊馬は親友の彼氏である。チョメチョメしたいなんて砂粒程も思わない。


 ただ、それはそれとしてめっちゃムラつく。

 もう、生殺しの拷問みたいなものだ。


 青葉と出会うまで、雫もきっとこんな気持ちだったのだろう。

 可哀想に。そりゃ間女の誘惑にも屈する。


 あー、もー本当しんどい。あたしも彼氏作ろうかな。

 そんな事を考えてみるが、全然そんな気は起きない。


 雫の味を知ってしまったせいで、男に抱かれる事に違和感を覚えてしまう。

 ……ヤバい。あたし、マジでレズになっちゃったかも。


 不安になりつつ、じゃあ彼女を作るかと考え直す。

 自分のキャラなら、そっちの子にもモテそうだし。


 昼休みになり、ネットのお悩み掲示板でその手の質問でも漁ってみようかと思っていたら、雫からメッセージが届いた。


『やっほー。一緒にお昼食べない?』

『食べる』


 思考を待たず、青葉の指が返事を送った。

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