第8話 HELP
「……なぁ伏見。放課後ちょっと話せないか?」
「え、なに?」
暫く経った後だった。
遊馬が話しかけると、青葉は驚いた様子だった。
遊馬にとって、青葉は彼女の友達でしかない。
あんな事があった後だし、今まで以上に話しかけにくい相手である。
けれど遊馬は、どうしても青葉と話す必要があった。
「……その、なんだ。雫の事でちょっと相談したい事があるんだが」
「……もしかして、上手くいってない?」
見透かされて、遊馬の心臓がキュッとなった。
「……まぁ、そんな感じだ」
「どうしたの?」
「……ここじゃ言えない。奢るから、キングに来てくれないか?」
「……いいけど」
そういうわけでキングに向かった。
†
「……恥ずかしい話なんだが、多分俺は、雫を満足させてやれてないんだ」
部屋に入ると、遊馬は恥を忍んで告白した。
「……あー」
青葉の態度は、どこか心当たりがある様子だ。
「なんとなく分かる気がするけど。一応、なにがあったか話してくれる?」
「…………う、むぅ」
遊馬の顔が赤くなった。
「滝沢?」
「いや、その……。セクハラみたいな話になるから、気を悪くしないで欲しいんだが……」
「今更だから。あたしは雫と寝てたんだよ?」
「そ、そうだけど。それはそれだろ。伏見は女子だし……」
遊馬は今も、青葉との関係を測りかねていた。彼女を寝取った間女なのか、二人の関係を救ってくれた恩人なのか。割合で言えば、後者の方が大きい気もする。
「あーもー! 焦ったいな! いいから話しなよ!」
「その、なんだ。多分俺は、早漏みたいなんだ……」
「うわー、聞きたくなかったー」
「す、すまん……。嫌だったら、やっぱりやめよう。女の子に相談するような話じゃなかった」
「いいよ。てかそんな話、あたしにしか出来ないでしょ。滝沢だって、雫の為だと思って言ってきたんでしょ?」
「まぁ、な」
「それで」
「それで?」
「どんな感じに早漏なの」
「そ、そこまで言わないとダメか?」
「アドバイスが欲しいんでしょ? 全部聞かなきゃわかんないじゃん」
「まぁ、そうなんだが」
遊馬の腰がもぞもぞした。
バレないようにさり気なく、目立たないポジションにブツを移動させる。
彼女と寝ていた同級生の美少女とシモの話だ。
シチュエーションに興奮してしまったらしい。
「……ちょっと。なに勃ってんの」
「し、仕方ないだろ!? 生理現象なんだ!?」
「本当、男子って……」
呆れるような青葉の目に、遊馬は死にたくなった。
本当男ってなんでこうなんだろうと自分でも呆れる。
「どんな感じと言うか、すぐに出ちゃうんだよ。雫はあの通り、めちゃくちゃ可愛いだろ? 今までずっとそういうのは我慢してたし、裸を見るだけで興奮してヤバい感じになっちゃうんだ。それでその、雫は入れる前に色々してくれるんだけど、それでもうダメというか……」
思い出すだけで遊馬はギンギンだった。今まで無理に自制してきた反動なのか、あるいは雫に対する愛ゆえか、雫の裸を見ると遊馬は物凄く興奮してしまう。触られたらもっと興奮する。とてもじゃないが、本番まで持たない。
「……練習が仇になったか」
「え?」
「前に言ったじゃん。スッキリするだけじゃなくて、雫は本番に備えて色々練習してたの。てかそれ、雫に言えば済む話じゃない? 気持ち良すぎるからやめてくれって」
「……まぁ、それは一応言ったんだが……」
「だがなに? 男でしょ! はきはき喋る!」
「うぐ……それでも入れたらすぐ出ちゃうんだよ!」
遊馬は叫んだ。
雫とのチョメチョメは最高だった。
最高すぎて、ろくに楽しむ間もなく果ててしまう。
「我慢できないの?」
「それが出来たらこんな相談はしてない! 言っても分からないと思うが、男は一度そうなったら後戻り出来ないんだ」
「おしっこみたいな?」
「そっちの方がよっぽど我慢できる! とにかく、雫は気にしないって言ってくれるけど、多分怒ってる。終わったらすぐ帰らされるし……」
「あー。それ多分、欲求不満で一人でチョメチョメしたいだけだと思う。滝沢も男なら分かるでしょ? 生殺しにされて我慢できないんだよ」
「な、なるほど……」
それを聞いて遊馬は少しだけ安心した。
「それでその、こんな事を言えた義理じゃないとは思うんだが、伏見に助けてもらえないかと……」
「助けるって……」
不意に青葉が真っ赤になった。
「ちょ、勘弁してよ!? あたしはあんたのチョメチョメの練習相手になんかならないから! 雫としたのは特別! ビッチじゃないから! 勘違いしないで!」
「ち、違う!? 俺だってそんな事を頼むつもりじゃない!」
遊馬は雫一筋だ。そんな事は、髪の毛程も考えはしない。
「俺はその、どうやって伏見が雫を満足させてたのかを教えて欲しいんだ。というか、付いてないのにどうやってやってたんだ?」
悪気はないのだが、遊馬の目が青葉の下腹部に向いた。
「ちょっと。変な所ジロジロ見ないでよ」
「す、すまん」
彼女と寝た相手という事で距離感がバグってしまっているようだ。
気をつけないと。
「それで、どうなんだ? その、嫌でなければ、教えて欲しいんだが……」
「あのさぁ。友達の彼氏って言ってもそんなに仲良くない男子にそんな事を聞かれて、嫌じゃないわけないでしょ?」
ジト目で睨まれ、遊馬は俯いた。
まったくもってその通りである。
だとしてもだ。
「雫を満足させる為に、俺はどうしてもその方法を知りたいんだ! 迷惑なのは分かってる! お礼なら出来る限りの事はする! 頼む伏見! 俺に力を貸してくれ!」
深々と頭を下げる。
これで駄目なら土下座も辞さない。
雫の為なら、便器だって舐める覚悟だ。
……いや、それは流石に遠慮したいが。
でも、それくらい遊馬はマジなのだった。
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