第7話 寝取った奴の話と童貞の必然
『え?』
『滝沢も男だし、気長に待ってればその内手を出してくるでしょ。それまで、あたしが雫の相手をしたらいいんじゃない? 無理に誘って滝沢に嫌われてもアホらしいしさ』
表面上はポーカーフェイスだが、腹の中はぐちゃぐちゃだった。ちょ、あたし、なに言っちゃってんの!? でも、言ってしまった。けど、雫が悪いんだよ。あたしの気持ちも知らないで毎日惚気話を聞かせて、あたしだって雫の事好きなんだから!
そうだよ! あんな鈍感男に雫は勿体ない! あたしが寝取って幸せにしてやる!
けれど雫は断った。女同士でも浮気はよくないと。まぁ、そうだろうなと青葉も思った。一応、女同士なら浮気じゃないと抗ってはみたが。どうせ駄目元だったし。……くすん。
で、しばらくしたら雫が泣きついてきた。キングのヤリ部屋に誘っても手を出してくれなかった。もう無理、このままじゃ遊馬君を押し倒しちゃうよ!?
押し倒せばいいじゃんと思うのだが、雫は下ネタ大好きのド淫乱だと知られたら絶対嫌われると思っているらしい。
で、結局二人で寝た。
はじめては雫の部屋だった。
『……しゅごい。青葉ちゃん、テクニシャン……』
見違えるようにツヤツヤになった雫が、くったりして言うのだ。
『……まぁ、一応、雫の為に練習したから』
ワンチャンあるかもと思ってめちゃくちゃ練習していた。
本や動画やブログを読み漁って、自分の身体まで使って研究したのだ。
おかげで雫はスッキリしてくれて、遊馬との関係も前よりもよくなったと喜んでくれた。
青葉は複雑だったが、大好きな雫の為だと思えば嫌ではない。
というか、雫と寝られるのだから喜んでという感じだ。
それからは雫のムラムラが溜まる度にヤリまくった。
『そろそろ溜まって来たんじゃない?』
『………………………………ぅん』
申し訳なさそうに頷く雫を抱くのは最高にいい気分だった。
あたし今、雫の事を寝取ってるんだ!
青葉の中でいけない扉が開いてしまった。
青葉はさらなる研究に励み、テクニックを磨いた。雫がスッキリしなければこの関係は終わってしまう。そう思えば青葉も必死だ。それに、自分のテクで雫を堕とし、本気で寝取ってやろうと思っていた。最低? そんな事は分かっている。でも、好きなんだもん!
青葉は上手くやっていた。雫の罪悪感は、彼氏とする時の練習だと思えばいいじゃんと誤魔化した。実際、男役を演じて動画を見ながら二人で色々研究したりもした。
そういう時は青葉も嫉妬して、一層激しく雫を攻めた。
そうして青葉はこの関係を、性処理の為の浮気から彼氏の為の努力にすり替えていった。雫は偉いよ、あんな鈍感男の為にここまで頑張るんだからさ、なんて言ったりして。
で、先日ついにホテルに誘った。
雫は嫌がった。
『なんで? 雫の為にするのはよくてあたしはだめってズルくない?』
ズルいのは自分だ。そんな事を言われたら、雫は絶対断れない。でも、遊馬とのデートの思い出を楽しそうに語られて、嫉妬してしまったのだ。
あたしもデートしたい! こんなに尽くして頑張ってるんだから、ちょっとぐらいご褒美を貰ってもいいじゃん! そんな気持ちだった。
一つでも多く、遊馬から雫の初めてを奪ってやりたかった。
一つでも多く、雫の中に伏見青葉という存在を刻み付けたかった。
雫は遊馬にぞっこんだ。
遊馬が雫を襲った瞬間、この爛れた関係は終了する。
青葉にとっては、明日終わってもおかしくない儚い関係だった。
その晩雫から電話が来た。
雫は泣いていた。
ホテルに入った所を見られて、遊馬に振られたのだ。
よっしゃあああああ! と思いたかった。
雫がフリーになるのは好都合だ。
失恋につけ込んでどうにか物にしてやる。
内心ではずっと、こうなる事を望んでいた。
それなのに……。
『泣かないでよ。あたしがなんとかしてみるから。雫の惚気話を聞いてさ、滝沢がどんな奴かは知ってるから。事情を話したら、きっと分かってくれるって』
気が付けば真逆の事を言っていた。
大好きな雫の泣いている姿なんて耐えられない。
大好きな雫を傷つけるような事はしたくない。
雫がどれだけ遊馬の事を好きか、嫌と言う程聞かされてきた。
なにより青葉は、本気で雫を好きだった。
「――あ~あ~。儚い夢だったなぁ……」
終わってしまった関係を思い返すと、青葉は泣いた。
そしてフリータイムが終わるまで、泣きながら失恋ソングを歌いまくった。
そして、これでよかったんだと思う事にした。
恋人にはなれなかったけど、親友ではいられたのだから。
「……雫の事泣かせたら、許さないから」
遠くを見上げて、青葉は最後の涙を拭った。
†
「…………ごめん、雫。興奮しすぎて、入れる前に出ちまった……」
「大丈夫、気にしないで! 初めては上手くいかないって言うし!」
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