第6話 寝取った奴の話
「……はぁ。あたしなにやってんだろ」
バカップルが去った後、カラオケに残った青葉はぽつりと呟いた。
黙っていれば雫と関係を続けられたのに、馬鹿な事をしたなと思う。
ドタバタで遊馬はつっこんで来なかったが、青葉は雫が好きなのだった。
入学したての頃、青葉は見た目通りのツンとした性格で、友達作りのスタートダッシュにしくじった。なんか怖そうな人だと思われて孤立したのだ。
青葉は焦った。小中も同じミスを犯して友達が出来なかった。
今度こそ上手くやろうと思ったのに、いざその場になると声が出ない。
話しかけてさえ貰えれば楽しく会話を転がす自信はあった。その為に必死にウケそうな話題を仕入れたのだ。ユーチューブのコント動画でお笑いだって勉強した。話しかけてさえ貰えれば……。
焦れば焦る程青葉の挙動は不審になり、周りは青葉を避けるようになった。
もう駄目だ。高校もボッチなんだ。
休み時間の度に寝たふりをして過ごす惨めな生活を繰り返すんだ。
そんな風に絶望していた時、声をかけてくれたのが後ろの席の雫だった。
『伏見さん。よかったら一緒にお昼食べない?』
『はぁ? ……なんで?』
ちょっと待って今のナシ!? 青葉は焦った。油断している所に話しかけられてなんか怖い感じになってしまった。キョドっていただけで、全然そんなつもりはなかったのだ。
折角のチャンスもこれで台無しだろう。ただでさえ怖そうだと思われているのに、今ので本当に怖い人になってしまった。あぁ! 神様! お願いします! 時間を戻して!
仏頂面でそんな事を思っていると、雫はニコニコしながら言うのである。
『なんだか寂しそうだったから。迷惑かな?』
ズキューン! 青葉が恋に落ちた瞬間だった。
いや、その時は自覚していなったが、今思い返せばあの時がそうだったのだろう。
別に青葉は女の子が好きだったわけじゃない。
恋愛経験はないが、普通に男の子が好きだと思っていた。
ともあれ青葉は雫と友達になり、可愛くて人懐っこい雫のお陰で友達も沢山できた。
でも、一番の友達は雫だった。親友と言ってもいい。口の堅い青葉を雫も信用してくれたのか、内緒の話をしてくれる事も多かった。
『ねぇ。青葉ちゃんってチョメチョメしてる?』
『……まぁ、人並みには』
『どれくらい?』
『ん~週一くらいかな』
いや雫なに聞いてんの!? そんであたしはなんで普通に答えてんの!? 内心では大騒ぎだが、青葉の特技はポーカーフェイスだ。
それに、友達が出来た後の青葉はなんか怖い人から、さばさばしててかっこいい大人っぽい子という評価に変わっていた。
本当はそうじゃないのだが、コミュ障と思われるよりはマシなので猫を被っている。それに、雫の前では格好つけたい気持ちもある。
『……やっぱりそんなもんなんだ』
落ち込む雫を見て青葉は焦った。
女性誌で読んだアンケートでは週一でも多い方なのだが、それは言わない事にした。
『雫はどうなの』
『…………』
さり気なく探りを入れると、雫は顔を真っ赤にしてパーとチョキを出した。
……え? 週七!? 嘘でしょ!?
こんなチョメチョメのチョの字も知らなそうな顔して!?
青葉は仰天したが、顏には出さなかった。ともかく、雫は人よりかなり性欲が強い子で、その事を気にしているらしい。いつも助けてもらってばかりだから、恩返しのチャンスだと思った。
『あー。実はちょっとサバ読んだかも。本当は週三。四の時もあるかな。なんか高校生になったらやたらとムラムラしちゃって。困っちゃうよね』
『本当? よかった~! 私もそうなの! 元々そういうの強かったんだけど、高校生になったら余計に酷くなっちゃって。実はそのせいで少し困ってて――』
それで遊馬の事を知った。
中学生の頃から付き合っている彼氏で、雫の事をガチガチの清純派だと誤解している。
まぁ、青葉だって誤解していたから仕方ないのだろう。
ともかく雫は遊馬が大好きで、一緒に居るとムラムラして仕方がない。高校生になったら流石に遊馬も手を出してくるだろうと期待していたのに、立派なブツをバキバキにしながらクソ真面目な事を言って誤魔化すのである。
高校生になったら大好きな遊馬とヤリまくれると思っていた雫はショックを受けたらしい。でも、悪いのは淫乱な自分だ。ムラムラのせいで時々不機嫌になってしまう雫を遊馬は必死に気遣い優しくしてくれる。そんな彼の優しさが苦しくて、余計に雫は落ち込んでしまう。完全に負の連鎖に陥っていて、このままでは嫌われてしまうと焦っているらしい。
なんだよ惚気かよ。青葉はムカついた。その頃には雫に対する恋心を自覚しつつあった。まぁ、女だから無理だろうけど。
ともあれ、親友なので相談に乗った。色々アドバイスをして、襲わせたりアピールさせた。その度に、雫はだめだったとしょんぼりする。青葉は段々イライラしてきた。こんな可愛い子に迫られて襲わないとかインポかよ!? 女のあたしだって雫を見てるとムラムラしてくるのに!
そこで悪魔が囁いた。
『……じゃあ、あたしとする?』
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