第5話 ヤレ
「それに、浮気かどうか決めるのは遊馬君だよ! ていうか、実際に私は青葉ちゃんとチョメチョメしちゃったわけだし、あれは浮気だよ! 遊馬君に愛して貰う価値なんか一ミリもないド淫乱クソビッチなの!? う、う、うぇええええええん」
「はいはい、それはもういいから」
「ふぁん!?」
服の上から乳首を摘ままれ、雫が泣き止んだ。
「それこそさ、大事なのは滝沢の気持ちじゃない? この話を聞いて雫を許せないって言うんなら仕方ないし。それでもいいって言うんなら仲直りすればいいじゃん。滝沢もそう思うでしょ?」
「お、おう……」
話を振られて遊馬も頷く。
あれが浮気だったかどうか、そんな事はもはやどうでもいい。それよりも遊馬は、この三年間ずっと雫を苦しめていた事が心苦しかった。
約三年も付き合っておいて、雫の性欲に一ミリも気付かなかったのだ。それでも雫は遊馬を見捨てずに、どうにか荒ぶる性欲を解消しようとして、やむを得ず青葉を頼ったのだろう。
というか、青葉の口ぶりを見るに、彼女から誘ったようでもある。ムラムラモードの辛さは遊馬もわかる……と言っていいのかは分からないが、女の子だってきっと辛いのだろう。そんな時に日頃相談しているかっこいい系の美少女に誘われたら……。
自分が逆の立場なら、絶対に浮気をしないと言い切れるだろうか?
これが男なら生理的な嫌悪感も湧くだろうが、相手が美少女の青葉ならそうでもない。大体、女同士のチョメチョメなんか謎過ぎて想像も出来ない。だから浮気という感覚はまるでなかった。
「雫! 浮気の事は気にしないでくれ! というか、多分それは浮気じゃない。雫は浮気だって思うかもしれないけど、俺はそうは思わない。っていうか、やっぱり悪いのは俺の方だよ! だからその、今度からは雫の気持ちに応えるようにするから、もう一度俺を彼氏にしてくれないか!」
雫の肩を両手で掴み、真っすぐ見つめて遊馬は言った。
許すなんて上から目線で言える立場ではない。むしろこちらが謝る側だ。そして、出来たらまた彼氏にして欲しいと懇願する側である。少なくとも遊馬はそう思った。
「遊馬君……」
そんな遊馬を前にして、雫はうっとり涙ぐんだ。
そして胸に飛び込んだ。
「私こそ、こんな性欲オバケでレズチョメチョメに走っちゃうような恥ずかしい女でよかったら、もう一度遊馬君の彼女にして下さい......」
「恥ずかしくなんかないさ。俺だって雫と同じくらいエッチな性欲オバケなんだ。それを聞いて、むしろホッとしらくらいだ。……その、俺だって雫とそういう事しかったから」
恥ずかしそうに顔を赤らめ、雫がこくりと頷く。
そして二人は見つめ合った。
青葉が見ていなかったら、迷わずファーストキスを捧げている場面だ。
なんて思っていると。
「キース、キース、キース、キース」
手を叩きながら青葉が囃し立ててきた。
いやいや、そんな事されたら余計に出来ないから。
そう思う遊馬とは対照的に、雫は求めるように目を閉じて、軽く顎を上げた。
え!? と思う遊馬に向けて、青葉が口パクで「行け! 男を見せろ!」とぐるぐる腕を回してくる。
ええい、ままよ! こうなったらやるしかない。
ここで引いたらそれこそ雫を傷つけることになる。
覚悟を決めて、遊馬は行った。
「――!?」
「――……っ」
「!?!?!?!?!?!?」
「…………っ、…………」
雫のキスは長かった。三年の間に溜まった鬱憤を晴らすかのように熱烈だ。
口内を愛撫するような大人のキスに、危うく遊馬は腰が砕けて果てそうになった。
「――ぷはぁ! ずっとこうしたかったの! 遊馬君、大好き!」
魂まで吸い尽くすような長い口づけが終わると、ツヤツヤになった雫がぎゅっと遊馬を抱きしめた。
「ま、待ってくれ雫! い、今はまずい!?」
「気にしないで。むしろ嬉しいの。こんなにコチコチになってくれて……」
遊馬の愛を確かめるように、膝の間に肉付きのいい太ももが入ってくる。
遊馬は腰が引けた。暴発しそうになったのだ。
「こ、ここじゃマズいだろ!?」
「じゃあ、私の家はどうかな? 丁度今、親が留守なの」
雫の目は完全にハートマークになっていた。
雫の父親は出張が多い。母親は旅行好きで留守にしがちだ。
今日もそういう日なのだろう。
「い、今からか?」
流石の遊馬も怖気づいた。
期待に応えると言ったが、あまりにも早すぎる。
「……だめかな」
戸惑う遊馬に、雫は泣きそうな顔になった。
もじもじと股を擦り合わせているのは、トイレを我慢しているわけではないのだろう。
雫の肩越しに、青葉が左手で作った輪っかに右手の人差し指を出し入れしている。
口パクを読むまでもなく「ヤレ」と言ってるのが分かった。
ゴクリと生唾を飲み込むと、遊馬は言った。
「ダメジャナイデス」
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