第4話 告白
「……本当は私、ものすごくエッチな女の子なの」
気が済むまで抱き合って泣いた後、落ち着いた雫がおもむろに告白した。
「……え? でも雫は、下ネタが苦手で、そういうのは全然耐性がないんじゃ……」
映画のちょっとしたラブシーンだって恥ずかしがって目を背けるような初心な子だ。友達にエッチな話で冷やかされても、真っ赤になって「やだもー!」っと否定していたくらいだ。
だから遊馬も、必死に下心を抑えて紳士を気取ってきたのだ。
困惑する遊馬に、雫はふるふると力なく首を振る。
「ずっと猫を被ってたの。昔から見た目のせいで清楚だって誤解される事が多くて、遊馬君もそういうの嫌いみたいだったから……。淫乱だって思われたくなくて……」
「……なんてこった」
遊馬は愕然とした。
今まで雫の為だと思ってしてきた事が、実は全部裏目に出ていたのだ。
「……じゃあ、もしかして、高校に入ってから倦怠期っぽかったのは……」
耳まで真っ赤になった雫が頷く。
「欲求不満だったの……。私、人よりちょっと性欲が強いみたいで。遊馬君と一緒にいると、ものすごくムラムラしちゃって。でも、今更そんな事言えなくて、どうにか遊馬君に襲って貰おうとアピールしてたんだけど……」
それを聞いて、今度は遊馬が真っ赤になった。
思い返せば、心当たりはザクザク出てきた。
二人っきりになると、やたらと身体をくっつけて来たり。
家に呼ばれたと思ったら、いっつも親御さんが旅行に出かけていたり。
電車に乗ったら、プリプリのお尻を股間に押し付けてくる事もあった。
その度に遊馬は、清楚な雫がそんな事をするわけがない! 全部ただの偶然だ! スケベな♂フィルターが都合よく勘違いしているに過ぎない! と必死に自制を働かせていた。
とんでもない。
全部その気の故意だったのだ。
「ごめん雫!? 本当にごめん!?」
遊馬は再び土下座した。
だって雫は、必死に遊馬を求めてくれていたのだ。それなのに、クソバカ鈍感男の自分は雫のアピールを全部無視してしまった。嫌われたって当然だ。
「謝らないで!? 元はと言えば私が本当の事を言えなかったのが悪いんだよ!」
「それは仕方ないじゃん。清楚キャラの雫がさ、実は私小学生の頃から毎日欠かさずチョメるくらいの性欲オバケなので抱いて下さいなんて言えないでしょ」
「青葉ちゃん!? しーっ!?」
涙目になった雫がすごい顔で人差し指を立てる。
遊馬は衝撃で固まってしまった。
小学生の頃から毎日チョメってた? マジで? 俺よりすごいんだが……。
「ほら!? 遊馬君だって引いてるよ!? だから言いたくなかったの!? 絶対嫌われた! もうおしまいだよ!?」
「てかさ。二人でホテル入った所見られた時点でおしまいじゃん。だったらもう全部話すしかなくない?」
「そうだけど……」
「だ、大丈夫。引いてない。ちょっと驚いただけだから」
「……本当に?」
「本当だって。オナ――ごほん。チョメチョメなら、俺もいつもしてるから」
「……毎日だよ?」
「俺もそうさ。勿論雫の事を想像してな」
本当はそこまで多くないし、別のオカズを使う事もある。
だが、それを言うのは野暮だろう。
遊馬の答えに、雫も表情を明るくした。
「私も毎日遊馬君でしてるの! はぁ~、よかった。遊馬君はそういうの、しないんだと思ってたから……」
「なわけないじゃん。高二の男子だよ? 毎日猿みたいにシコってるって言ったでしょうが」
「青葉ちゃん!?」
「伏見!?」
直球すぎる言葉に二人がぎょっとする。
青葉はなにを今更といった顏で肩をすくめた。
「とにかく、そういう事。で、あたしは一年の頃から滝沢の事で雫に相談されてたの。それで雫がムラムラしすぎておかしくなりそう、このままじゃ遊馬君に嫌われちゃうよ! とか言うから、抱いてあげたってわけ」
「抱いてあげたって……。お前、女だろ?」
「男に見える? って、見えたから勘違いしたんだっけ。悪かったね、貧乳で」
「なにも言ってないだろ!?」
睨まれて、遊馬は情けない声を出した。
まぁ、実際青葉は貧乳だった。身体もスポーティーな痩せ型で、ちょっと誤魔化せば中性的な美少年で通りそうだ。街で見た時はラフなジーパン姿だったし、帽子を被っていたので先入観で勘違いしたのだろう。
「てか、なんで紛らわしい恰好してたんだよ!? そのせいで誤解したんだぞ!?」
「はぁ? 当たり前じゃん。女同士でラブホに入る所なんか彼氏じゃなくてもバレたらマズいでしょ。だから変装してたの。あと、言っとくけど雫は滝沢の話ばっかりしてたから。いつかあんたとチョメる時に備えて、ついでに色々練習するんだって。だからあれは浮気って言うより、あたしを使ってチョメってただけ。言わばあたしは人間バイ――」
「青葉ちゃん!? そこまで言わなくていいから!?」
しぃー! っと必死に雫が訴える。
生々しすぎる話に、遊馬の遊馬はギンギンだった。
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