第3話 謝罪

「ごめんなさい!? 許してくれとは言いません! 卑しい雌豚だって罵って下さい! 気が済むまで殴って唾を吐いて最低のクソ女だって言い触らしてください!」


 詳しい事情は雫が話す。

 そう言われて、キングの一室にやってきた。


 そしたら雫が格安カラオケ店の汚れた床にべったり額を押し付けて待っていた。


「……ちょ、土下座なんかするなよ!?」


 遊馬は慌てて起こそうとするが、雫は意地でも顔を上げようとしない。


「私なんかに優しくしないで下さい! 私は遊馬君を裏切った薄汚い雌豚なんです! ドリンクでベタベタになった床がお似合いのクソビッチなんです!」

「雫……」


 遊馬は困った。事情は分からないが、雫は引く程反省している。大体、相手が青葉ではあれが本当に浮気だったのかもわからない。そうでなくても、今も未練たらたらの可愛い雫に土下座なんかして欲しくない。普通に汚いし不衛生だ。


「……それじゃあ雫と寝たあたしも薄汚い雌豚って事になるけど、一緒に土下座した方がいい?」

「青葉ちゃん!? そ、それは違うでしょ!?」


 溜息をつく青葉に雫は焦った。


 寝た!? それってつまり、そういう事なのか!? お、女同士で!? どうやるんだよ!? 二人とも付いてないだろ!? いや、どちらも確認したわけではないが、ついてないに決まっている! これはなんの冗談なんだ!?


 混乱しつつも、遊馬は雫の目の前で同じようにベタベタの床に額を押し付けた。


「遊馬君!? やめて下さい!? そんな事したら汚いです!? 病気になっちゃいます!?」


 慌てて飛び起きた雫が遊馬を起こそうとする。


「こうでもしなきゃ起きてくれないだろ。それに、よくわかんないけど、きっと俺にも責任があるんだ。じゃなきゃ、雫が浮気なんかするわけない」


 平謝りの雫を見て、遊馬はそう思った。

 きっとこれには、止むに止まれぬ事情があるのだ。


「ごめん雫! 俺の方こそ謝らせてくれ! 理由は分からないけど、雫に浮気をさせた責任は俺にもあるんだ。本当にごめん。俺、だめな彼氏だったよな……」

「遊馬君……。そんな事ないです! 遊馬君は、遊馬君は悪くないです! 悪いのは、全部私なんです、うぁああああああああああん」


 遊馬に抱きつくと、雫は子供みたいに泣きだした。


「いや俺だ。俺が悪かったんだ。ごめん雫、本当にごめん。俺、俺、くっ……」


 柔らかな雫の身体を力強く抱き返して、遊馬も堪えきれずに泣き出した。


 終わってしまった恋なのに、身体はどうしようもなく雫の事を求めていた。


 もう二度と触れる事がないと思っていた身体だ。

 そして、こんな風にしっかり抱き合うのは初めての雫の身体だ。


 あぁ、なんて柔らかくて暖かいのだろう。

 抱き合うだけで、遊馬はこの上なく幸せで満ち足りた気持ちになれた。


 バラバラになった心が形を取り戻し、胸に空いた大穴が埋まっていくようだ。


 ロマンチックな音楽が流れ、青葉のハスキーボイスが切ないラブソングを歌った。


 え、なんで?


 振り返る二人に対して、青葉は言った。


「歌ってるから、気が済んだら教えて」



―—————————————————


爛れてないラブコメも書いてます。


夏休み初日に知らないギャルと付き合う事になった話


https://kakuyomu.jp/works/16817139557173868264

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る