第2話 思いがけない真実
一年も二年も、遊馬は雫と別のクラスだった。
昨日まではそれが嫌だったのに、今は心底ありがたい。
雫と別れて、遊馬は完全に抜け殻になっていた。
授業なんか耳に入らない。正直サボりたかったくらいだ。
気が付けば放課後になっていて、遊馬はふらふらと帰り支度を始めた。
「滝沢。ちょっと顏かして」
「……ぇ」
なんで。
たった三文字が億劫だった。
話しかけてきたのはクラスメイトの
さばさばしたクール系の美女子だが、見た目に反して面倒見がいいのでクラスでの人気は高い。
とは言え、青葉と話すのは今日が初めてだった。
クラス替えが終わって間もないし、彼女持ちの遊馬が進んで女子と話す事はない。
「大事な話があるから、この後一緒にキングに来て」
キングというのは学校の近くにあるローカルな激安カラオケ店だ。
遊馬も以前、雫を誘って行った事がある。
遊馬の通う窓川高校の生徒の間では、二階の一番奥の部屋はヤリ部屋に使われているなんて破廉恥な噂が広まっている。真偽は不明だが、それを知らない雫にその部屋をリクエストされ焦ったのを覚えている。
恥ずかしがり屋の雫だから、他の利用者に覗かれない部屋がよかったのだろう。噂でもそんな部屋を使うのは嫌だったが、下ネタが苦手の雫にそんな事は話せない。
だからその時は仕方なく奥の部屋を使った。カラオケ好きなのか、はしゃいだ雫が身体をくっつけてきたが、無邪気に楽しんでいる可愛い彼女に発情したら彼氏失格だと自制した。
こんな事を言うのは失礼だが、雫は可愛いだけでなく、エロい身体の持ち主だった。むちむちプリンのナイスバディだ。男なら誰だって憧れる。だからこそ、遊馬は極力そういう目で見ないようにしていた。
大事な彼女に、身体目当てで付き合っていると思われたくなかった。
今となっては、全て無駄な努力だったが。
思い出したら、遊馬は憂鬱になってきた。
「……今度にしてくれ。今日は気分が悪いんだ」
「雫と別れたんでしょ」
いきなり言われて心臓がキュッとした。
「……なんで知ってんだよ」
「雫から聞いた。一年の頃同じクラスで友達だから」
「……くそったれ」
遊馬はますます気分が悪くなった。
普通言うか? 遊馬は雫の為を思って、黙っていようと思っていたのに。
「雫が浮気したと思ってるんでしょ」
ひと目を気にすると、青葉が顔を近づけて囁いた。
「……あいつになにを言われたのか知らないが、余計なお世話だ。ほっといてくれ」
雫に弁護を頼まれたのだろう。
正直、心が揺れる。遊馬は未練たらたらだ。
浮気された今ですら、復縁したい気持ちがある。
けれど、あの時の楽しそうな雫の顔を思い出すと無理だ。
どこの誰かは知らないが、あいつと一緒にいる方が雫は幸せなのだ。
なら、もう自分の出る幕はない。
浮気と言っても、その予兆はあったのだ。
長い倦怠期の間に、雫は必死にSOSを発していたに違いない。
それに気付けず、雫の愛を冷ましてしまった責任は自分にもある。
本当に雫の事が好きだったからこそ、遊馬はそんな風に自分を責めていた。
「待ってよ。雫はあんたの事が好きなんだよ。お願いだから話を聞いて」
帰ろうとする遊馬の前に青葉が立ち塞がる。
「……どいてくれ。頼むから」
「あれ、あたしなの」
そう言うと、青葉は鞄から取り出した帽子を目深に被った。
「……おいおい、嘘だろ……」
雫を寝取った謎のイケメンの姿がそこにはあった。
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