芳一は、いつも通り、屋敷で琵琶を演奏した。

最後の琵琶の演奏が終わると、

「芳一殿、約束通り琵琶を演奏して頂き、感謝致す。」

左前から、あの男の太い声が聞こえた。

「いえ、滅相もありません。」

芳一はそう言うと、両手を着き、丁寧にお辞儀をした。


男はスッと立ち上がると、芳一の前へ歩み寄り、刀に手を掛けた。

芳一には、男が目の前に居る事が解った。

そして、刀で、自分を斬ろうとしていることも。

「お待ちください。」

その時、沙羅が芳一のすぐ隣へ進み出て座ると、両手を着いて言った。

「父上、どうか、芳一さんのお命だけは、お助け下さい。」

男は、ジッと沙羅を見ると、

「それは出来ぬ。

我らの事を知っている以上、この者を生かして返すことは出来ぬのだ。

沙羅、それは、お前も判っているはず。」

悲しそうな顔で言った。

「はい。

しかし、わたくしがこうして父上の、皆様の元に戻って来られたのも、芳一さんのおかげです。

どうか、どうか、お願いします。」

沙羅は両手を着き、頭を下げたまま、涙を流しながら言った。


「もう、これ以上、酷いことはしないでおこう。」

突然、奥に座って居る者が言った。

その声は、まだ幼い男の子の声だった。

「ぼくたちは、今まで、多くの辛い事、悲しい事を見て来た。

だから、もう、これ以上は止めようよ。

それに、芳一が琵琶を奏でてくれたから、ぼくもここへ戻って来られたんだしね。」

「はっ。」

男の子がそう言うと、男は横に下がり頭を下げた。


「しかし、この者が、我らとの約束を違え、我らの事を和尚に話した事は許せません。

その報いは、受けて貰う。」

男はそう言うと、芳一をジッと見た。

「はい、その覚悟はできています。」

芳一は前を向いたまま、静かに言った。


「耳は、痛みますか?」

寺への帰り道、沙羅は心配そうに芳一の顔を見ながら聞いた。

「はい。

沙羅さんのお父さんに、両方とも斬られましたから。」

芳一はそう言いながらも、笑顔を見せていた。

耳を切られても、それ程多くの出血は無かった。

それは沙羅が、傷口を押さえていたからだった。


「それでは芳一さん、これでお別れです。

本当に、ありがとうございました。」

寺の門に着くと、沙羅はそう言って、丁寧にお辞儀をした。

「いいえ、こちらこそ、ありがとうございました。

これからは、沙羅さんと皆さんの為に、毎日、お祈りさせて頂きます。」

「ありがとう。。。」

そう言うと、沙羅はギュっと芳一の手を握った。


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見えないから 「耳なし芳一」二次創作 木津根小 @foxcat73082

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