第2話 悪魔の囁き
「……お姉さんのお話、納得出来ます。俺も、その……それなりに努力はしてるんですが、大して成績も上がりませんし、多分このままだと、適当な大学にしか進学出来ないと思ってます。そしてそうなれば当然、就職先にも恵まれないでしょう。よくいっても中流の生活。それに……顔がいい訳でもないし、得意なものも持ってない俺なんか、結婚も出来ないと思ってます」
「全部叶いますよ」
お姉さんが、確信のこもった眼差しを向けた。
「……一応、聞かせてもらえますか」
「はい、勿論です」
そう言って、お姉さんは喫茶店のマスターに目配せをした。
「結果を出すには、必ず代償が必要です。代償とはさっきも言った通り時間、すなわち命です」
「……」
「私、悪魔というものをやらせていただいてます」
「……」
お姉さんの口から、とんでもない言葉が出て来た。
たくさんのハテナマークが頭に浮かび、俺は固まってしまった。
「大丈夫ですか?」
「…………え、は、はい、大丈夫です……すいませんが、もう一度言ってもらえますか」
「はい、ではもう一度。私、悪魔です」
「すいません、帰らせてもらいます」
そう言った俺の手を、自称悪魔のお姉さんが握ってきた。
その温もり、やわらかな感触に俺は負けた。
そ、そうだな、もう少しだけなら、聞いてあげてもいいかな。
俺の手を握ってくれた初めての女性。そんな人の訴えを無下にする程、俺は非道ではない。
例えお姉さんがいかれた宗教の信者でも、ここは寛大な心で耳を傾けてあげよう、そう思った。
「……悪魔なんですか」
「ええ、悪魔です」
そう言ってにっこりと微笑む。この微笑みは、確かに悪魔的だ。
「悪魔ということは、やっぱり代償は魂ですよね」
「はい、そうなります。ですが今、あなたが思ってるような大袈裟な物ではありません。よくありますよね。願いを叶える代わりに、魂を差し出せと」
「そうですね。俺もよく、そういう
「でもそれって、言ってみれば一度限りの大勝負じゃないですか。憎いあいつに復讐したい、その為に命を支払う、とか」
「そうですね。正に命を賭けた願い、ですよね」
「でもそんな大勝負をする人なんて、そうそういないんです。特に現代においては」
「そうなんですか」
「でも、人は常に願望を持っている。自分の力量に合わないものであっても、願いぐらいいいじゃないか、そう思いながら生きている」
「……」
「そんな願いを叶える為に、私たちは新しいサービスを始めたのです」
「新しい……サービス?」
「はい。それがこの『魂の分割払い』なんです」
「分割払い……」
話がおかしな方向に向かってる。と言うか、何だこの設定は。お姉さん、本当に大丈夫?
そんなことを思いながらも、お姉さんの発したその言葉は、確実に俺の心をつかんでいた。
「例えば……そうですね、今の学力では絶対に無理な大学に合格したい。その為に悪魔を召喚して契約する。あなたには出来ますか?」
「いやいや無理です、無理に決まってます。仮に願いが叶っても、命を取られたら何にもならないじゃないですか」
「そうなりますよね。だからこその分割払いなんです」
そう言ってお姉さんが俺の左手の前を指差した。そこに指を出してみろと言ってるようだ。
俺は少し躊躇しながら、人差し指を向けた。
すると突然、その場所にモニターが現れた。
「な……なんですか、これは」
「実際に触ってみた方が分かりやすいと思いましたので、あなたの魂にリンクさせてもらいました。あなた専用のタブレット。大丈夫、あなた以外の人には見えませんので」
「俺専用のタブレット……」
「はい。今は試験的に見ていただくだけですので、詳しいサービスはお見せ出来ませんが。試しにそこに、『1万円を手に入れる』と入れてみてください」
お姉さんに言われるがままに、俺は文字を入れた。
突然目の前に現れたタブレット。この現象だけを取ってみても、このお姉さんが普通の人間ではない確証を得た気がした。
「どうですか?」
「は、はい……1日と出ました」
「それが代償になります」
そう言ってにっこりと笑う。
「1日って……俺の寿命の1日と引き換えに、1万円が手に入るということですか?」
「その通りです。理解が早くて助かります」
「……」
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