第21話 採取クエスト
エリザ視点。
あっ、またやってしまった。このままだと遅刻してしまうかも。
昨日、目覚ましのアラームをかけ忘れた私は、駆け足で寮を出た。
「行ってきます」
「あら、いってらっしゃい」
そして――
結構な距離を走ってしまった、もう限界かも、私の息は切れ切れになっていた。
この並木道を通過した先が学園だから、良かったぁ、なんとか間に合ったねと思った矢先――、十字路のところで横から飛び出してきた男性にぶつかってしまう。
「つっ、すまない」
「あたた、ごめんね」
ぶつかってしまった男性をよく見ると、クライブだった。
どうしよう、これはなんと言えばいいのかな。
私が彼の腰の上で馬乗りになった状態で座り込んでいた。私のあそこにズボン越しだけど、クライブのモノが当たってしまって、その感触がたまらなく、たまらなく、わたし、なんていえばいいのかな。
「はぁはぁ、クライブ、あのね~、わたし……」
寮からここまで駆け足で走ってきたから、息が切れて、決してこれは彼を襲ってるわけじゃないんだよ?
「まさか、君はこんな人の多いところで……」
ああ、いけないのに、どうしてだろう、彼を馬乗りにしたこの優越感、この快感のようなものはなに? クライブに恍惚の笑みを浮かべてしまう私がそこにいた。
……クライブに睨まれてしまった。少し冷静になった私はその視線から逃れようと目を反らし、申し訳なさそうに私は立ち上がった。
「前から思っていたが、君は聖女候補なのだろう、こんなことをしていいのか、しかも人が多いこの場所で、君はわかっているのか」
私はクライブに長々と説教されてしまう。ヒロイン様がクライブにこんな事をしても説教なんてしなかったはずなのに、私の場合は、なぜ説教されてしまうんだろう。
そして、私達はともに仲良く遅刻した。
★★★★
「ということがあってね、アリス、クライブに聖女としての心得とやらを休み時間になると、いつも話し始めるんだよ、隣りの席だから、目が合ってしまうのは至極当前だと思わない? またそんな目で君は、やめるんだぁとか、ほんと、酷いよねって、それはそうと、どうしてアリスがここにいるのかな? ここは森の中なんだよ? どうして私の居場所が正確に、あっ、そうだったね」
そうだった。アリスが監禁王子の妹だったのをつい忘れてしまった。どこまでもキミを追って監禁してやるだからね。その血が受け継がれてるのだから、仕方ないよね。
「おねぇさま、お父様がおっしゃったじゃないですか、これからも仲良くしてやってくれと、だから、わたし、きちゃいました」
いやいや、きちゃいましたって、あなたは王女様でしょ、こんなところまで私に付いてきちゃって本当にいいの、だめでしょう、とツッコミをいれたくなってしまった。
普通はお手紙とかをよこして王城に私を呼び出したりするものじゃないのかな。私、あの時、アリスは外出禁止だって言葉を監禁王子の口から聞いた覚えがあるのだけど、私の空耳だったのかな。アリスと目が合うとニコリと笑顔で返された。
私は中級エリアに該当する、王都郊外にあるカグラの森へと足を運んだ。
ダニアの森は軍をあげての再調査のため付近の出入りを固く禁止され封鎖されてしまった。そのせいで畑仕事にお弁当屋さんも休みになってしまった。
時間を持て余してしまった私は薬草摘みのクエストを受けてみようかと考えた。採取を行う場所はもちろん、カグラの森。
カグラの森はダニアさんの畑から少し南に行ったところにあって、この森で出現するモンスターの強さはダニアの森のモンスターを少し強化した程度のレベルだった。
ブルースライム、レッドキャップゴブリンなど、ネームに色がついたモンスターがここでは出現する。またここのモンスターは色に合わせた魔法耐性を持っていた。例えばブルーが水耐性、レッドは火耐性を持っている。
ゲームでのカグラの森では、状態異常などを回復させる効果をもった薬草を採取できることで有名だった。
だから採取のクエストを受けるプレイヤーが多かった。それで私も採取のクエストにチャレンジすることにしたのだけど……カグラの森に入って少しの所でアリスと偶然出会うことになったのがこれまでの経緯だった。
「ここには初めてきたけど、あまりモンスターがいないんだね」
「普段はいるのですけど、おかしいですね」
ゲームでのカグラの森はユニークモンスターが一切存在せず、薬草をホリホリしていると雑魚モンスターが突撃してきて、エンカウントするとまた最初からホリ直しになってしまうという残念仕様だった。でも、リアルでは関係なくホリホリできてしまうんだけどね。何かとても重大なイベントを忘れているような気がするのだけど、監禁王子のイベントだったかな。うーん、気にしない、気にしない。
毒消しホリホリっと、籠にポイっと!
光のドレスを着こんで、籠を背負った怪しい聖女候補がここにいますけど、気にしないでね。
「おかしいですね、いつもなら、いたずら兎が邪魔をしてくるはずなのですが、本当にいないですね」
「えっ、そんなモンスターがいるんだ。わたし、初めて聞いたよ?」
「一角の角を持った兎型の可愛いらしい容姿をもったモンスターなのですが、採取した薬草を奪って目の前で食べてしまったり、ツノを使って籠に穴を空けたりして採取の邪魔をしてくるそうです」
「なにそれ、私の天敵としか思えない」
籠に穴を空けるだなんてとんでもない。この籠も採取のために泣く泣く購入したのに、穴なんてあけられたら、もう泣くしかないよ。その時は覚悟してね。私のオジ槍弐式(神槍ゲイボルグ)の錆にしてあげるんだから。
「うん、やはりおかしいですね。運命の火もざわついているようです」
アリスは先ほどから、採取の手をとめて、なにやら考え込んでいるようだった。
「結構集まったし、森でも探索してみる?」
「そうですね」
私達はカグヤの森を探索することにした。だけど全くと言っていいほどモンスターとエンカウントしなかった。
「どういうことでしょうか、人の気配もありません」
「そういえばそうだね」
私たち以外にも森に採取にくる冒険者がいるはず、だけど誰一人すれ違うことがなかった。
ここには小動物すらいない、鳥の鳴き声も聞こえない。これは明らかに異常だった。不安にさせるような静けさが漂ってくる。そして、さらに奥へと進んでいくと、突然、紫色の結界が発動しはじめた。
そして、自分たちの目の前に――、
こ、これがアリスの言っていた、いたずら兎?
一角の大きなツノをもった、それそれは、巨大なウサギが私達の前に現れたのだった。
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