第20話 エスト=トレンド
エスト視点
俺は王にオークキングが倒されたことを知らされた。倒したのが一人の少女だったという。思い当たるのは、アイツしかいない。
幼い頃――、
親族や親戚が参加する小規模なパーティを終え、その帰り道、母と自分が乗る馬車が、空を滑空するはぐれのワイバーンに襲撃された。馬車に向かってワイバーンが狙いを定めたとき、一人の少女が、空高く舞い上がり、ワイバーンを木の棒で突き刺し倒す瞬間を俺は見た。そして、小柄な少女のどこにそのような腕力があるのか分からないが、ワイバーンを引きずって森の奥へと少女は消え去った。
あれはエリザだった。かなり容姿がかわっていたが……
俺達は彼女に助けられたのだ。
初めて出会ったときのエリザは何を考えているのか分からない不気味な少女だった。最低な両親の元で虐待を受けていたこともあって、俺は同情していたが、あの瞳の奥を覗いたとき、俺の聖痕から危険信号のようなものが送られた。彼女は闇に手を染めてしまったのかもしれない、エリザから俺たちの敵である闇の気配を薄っすらだが感じたからだ。だが、俺の義姉になる人だ。今ここで両親に話せばこれ幸いに彼女を処分するだろう。俺はこのことを隠し、エリザになるべく関わらないようにした。
だが、あの時の礼を、助けてもった礼をしようと、俺は別邸の屋敷に訪れることにした。
そこでエリザに出会った。以前とは違い、髪は整えられており、以前より光沢がかかっていて綺麗になっていた。
だが、最低限のメイドや執事をつけられ不自由をしない生活を保障されているはずの彼女がボロをまとい、みずぼらしい姿をさらしていたのは疑問だった。
また聖痕から感じた、彼女に対する危険信号がなくなり、逆に聖痕が彼女に向かって呼び掛けているようだった。
エリザに俺が話しかけると、化け物にでも出会ったかのように、ぎゃああああ、と叫んだり、ノー壁とおかしな叫びをあげだした。
ムカっときたが、以前のエリザの面影がなくなり、闇の気配もしない。今のエリザは嫌いではなかった、好感がもてる。かなりむかつく時もあるが……。
俺は何度か別邸に立ち寄るようになった。照れ隠しもあって、つい悪口を言ってしまう事もあったが、せめて人間に戻れるように彼女にドレスや貴金属などを手渡した。だが、次に出会った時も変わらず、いつものボロのままだった。
調べたところ、俺が与えた物を換金し、恵まれないものたちに分け与えていたようだ。両親は領主としては最低の部類に入るが、そういう俺も一緒だ、結局なにもしていないのだ。彼女は謙虚で立派だ。それに強い。彼女は俺の目標となった。いつか必ず、あいつを超えてやると――
そして、俺は剣聖と呼ばれ王の護衛をまかせられるほど、強くなった。俺に勝てるヤツはこの国で誰もいなくなった。あいつにどこまで通用するのか、試してみたいと思った。
そして、その機会が巡ってきた。
俺はエリザに様子見の攻撃をするが、あくびでもするかのようにぼっとしながらエリザは躱していく。なら本気で斬りつけるが、やはり平然と躱す。
やはり強い、楽しい、これほど楽しい戦いはない。歓喜していた。魔物にしか試すことができないでいた、この技を必殺の一撃をお前は防ぎきれるか。さぁ、俺を楽しませてくれ。
「はい、チェックメイト」
だが、エリザは残像だけを残し、俺の背後にいた。何も見えなかった。あれを避けたのか、エリザはまだ余裕のある表情をしていた。俺は完膚なきまでに負けたのだ。ショックもあったが、清々しいものがあった。俺はまだまだだ。強くなってやる。お前を乗り越えて俺が最強になってやる。
エリザと目線があった。
すると、エリザは、俺にニヤけた顔をしてきた。伯爵領にいたときからこいつは、変わらない、むかっときた。
やるよ、とってもいいものをな、いつも聖女のことを嫌っていた、あいつにこれをおしつけて、領主の座までおしつけたら、さぞ、あいつの顔は見物だろうな。と俺はほくそ笑んだ。
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