第2話 風のいたずら
今日は午前中だけで解散になった。入学してから1週間、わたしはまだ、クラスになじんでいなかった。エリザのぼっちスキルでも発動しているのだろうか。
このままだと、昼食の時間がボッチめしになりそうな私は、自ら友達作りに動いた。クラスの女子に声をかけても、なぜかお断りされる。従者に誘われることは光栄ですが、わたくし達ごときではあなた様の足手まといになると言われてしまい、わたしに、貢ぎモノとしてチョコレートや果物をお供えしてくれた。
もらったお菓子とフルーツをもぐもぐしながら、仕方なく、隣の席の男性、まんまるメガネをしたタロー君に声をかけてみると、エリザさんのような高貴な美しい心をもった女性から僕のようなムシケラにお声をかけて頂くなんて、ご褒美ですか、そんな目で僕をムシケラみたいに見ないでください、ああ、ゾクゾクしてしまいます、と涙を流してきた。
ドン引きした私は、とりあえず今日はボッチめしにしようと思った。それが1週間続いた。
私は今日も、楽しそうにおしゃべりしながら帰っていくクラスメイト達をみて……、うらやましくなんてないんだからね。と、涙した。わたしは教科書をささっと鞄に詰め込んで教室を後にした。
運動場では先輩たちが木刀をもって打ち合いなどを始めている。私は木刀より断然、神槍ゲイボルグ(先端が尖ったただの木の棒)みたいな武器の方が得意なんだよね。
だけど、私はこういった部活動には参加できないだろうね。どうしてって、そりゃね。授業では剣しか習わないからね。貴族と騎士の嗜みってやつかな。女性はそもそも参加できないしね。私みたいなのが、かわってるだけだから。
私は散らかっていた練習用の木刀を拾いあげた。そして、木刀を木に向かって斬りつけた。ひょろひょろひょろ~、ぽすん! こんな攻撃じゃ、スライムにすら勝てないよ。木刀はポイ、かわりに、じゃーん! 神槍ゲイボルグ2号。(先端が尖った落ちていたタダの木の枝)
ゲームの世界なだけにスキルが存在する。攻撃をすると、たまにだけどその職業に応じたスキルが発動してしまう。武器のスキルレベルを上げると発動する確率が上昇するんだ。滅多にスキルなんて発動しないんだけどね。
こんな感じに木をちょちょんってしてみるとね
スキルが発動 必中、防御無視、必殺(ダメージ3倍)、連続(3回攻撃)
なんかスキルが発動しちゃった。
木を相手に3段突きが発動する。木に大きな三つの空洞ができてしまった。
あはははは、また、やっちゃった。槍レベル75/99はさすがに上げすぎかな。
山での修行はもうしてないけど、懐かしいね。
わたしは山での修行の日々を思い出した。
スライムハンターを卒業した私は山へと入っていく。美味しい恐竜さん(ワイバーンLV55)のお肉、川で泳いでいるお魚さん(デスシーラLV45)のお刺身を食べたりして、私はスローライフを満喫していた。時には処女の生き血を生贄とかなんたら、言ってた牙が生えた赤い目をした変態に出くわした。
そいつに神槍ゲイボルグで心臓を一突きにしたら灰になって消えちゃったっけ。その時、何かが光ってカシャカシャって音がしたような。
木に穴を空けちゃったね、ヤバイ、これ、見つかるとたいへんだから、さっさと帰ろう。
誰かが、側にいるなんて思わなかった。ある少女がわたしを見ていた。木陰でじっと見ていた。黒髪でボサボサの頭をして、前髪を隠しながら、そして、パシャとシャッター音を鳴らしたあと少女はニヤリと笑みを浮かべた。
★★★
学園からの帰り道。
この景色って見覚えがあるかも、ゲームの選択肢によく出てくる移動する場所を選択するアレだね。ここはたしか、並木道だったかな。
そうそう、あいつがよくここに出現するのよね。ってか、前にいるし!! こっちに向かって歩いてきてるし。もう、こっちくんな~!
わたしは聖なる王子様の一人を見つけてしまった。見覚えのある顔だけに私はすぐに気づいてしまった。わたしはみてはいけないモノをみてしまった。
クライブ=ノートン。
風の刻印をもつ王子様。
グリーンの長い髪が風になびいてる。
その瞳は優しさに包まれた緑である。
背もわたしよりかなり高い。
なによりイケメンだった。
周りの人が、へのへのもへじに見えちゃうよ。本当に目の毒だ。ここまでヤバいなんて、こんなのに告白されたらホイホイついてっちゃうヒロイン様の気持ちがわかるかも、クライブ、私も優しく抱いて、ってな感じでね。
だめ、ダメ、変な妄想しちゃ、だけど、わたしの小さな悪魔が、いいじゃん、友達ぐらいならさぁと、呟く。
「…………なむあみだぶつ、なむあみだぶつ」
目をつむりながら、中世の世界でシュールにお経を唱える私、私はただの悪役キャラ、ただのボッチです。空気です。空気です。
そわそわ、おろおろして挙動不審になりながらも、このまま彼とはナニゴトもなくすれ違うかと思われていた。
だが、風のいたずらなのか、強い風が吹き上げて、私の制服のスカートがこれでもかってぐらい、めくりあがり、ショーツが丸みえになっていた。こんな事になるんだったら勝負下着でもつけてくんだった。いやいや、だめでしょう。手でめくれあがるスカートをなんとか必死に抑えこんだ。涙目になった私はスカートから彼に視線を移した。
「……見たよね?」
彼は無言で申し訳なさそうな顔をしながら視線をはずしてくれた。よく見ると耳が少し赤い。
「…………」
恥ずかしすぎて、私の頬がピンクに染まってしまう。
「……や、ヤダ、シニタイ」
私は逃げるようにして、急いでこの場を離れた。
「熊か」
彼は空を見上げてボソリと呟いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます