第4話 クライブ・ノートン

 クライブのことばかり考えてしまった。そのせいで、あまりよく眠れなかった。おそるおそるカーテンの隙間から外を見ると、今日も快晴の朝だった。彼はまだ、寝ているのだろうか、彼のカーテンは閉まったままだった。


 目覚ましが鳴る前に起きるなんて。いつもならこんなに早く起きることなんてなかったのに……、ベッドから離れると、うーんと、背伸びして、あっ? 寝苦しかったせいで、わたし、無意識に脱ごうとしたのかな、パジャマの胸のボタンがかなり外れていて、また淫らな格好をしてしまった。また想像してしまう。


 また、クライブが現れて、今のわたしを見て……。


 私は、ごくりと唾を飲み込んだ。


 やだ、やだ、ナニ考えてるの。わたし、重症だね。わたしは慌てて制服に着替えた。


⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎


 今日は走らなくても大丈夫そう。今日は朝食もしっかり食べることがてきたし。そして、私は寮母さんに挨拶をした。


「行ってきます」


「頑張ってね」


 朝の通学も、私は相変わらずのボッチだけれど、寮母さんだけは普通に挨拶してくれる。それがとっても嬉しい。でも、この寮母さんはゲームの画面で見たことあるんだよね。体力とMP を回復するために休むを選択すると、寮母さんが朝、昼、夜に決まった挨拶をしてくれる。イベントが起こると挨拶がスキップされたり、出てこない時もあるんだ。


 今日は走らず、通学路をゆっくりと歩いていく。並木道に行けば彼に会えるかも? 行っちゃえ、行っちゃえ、行っちゃえよ、わたしの小さな悪魔がナニかを呟いている。そうだね、だが、断る。


 彼とはもう関わらない。そもそもヒロイン様の彼氏候補だからね。わたしは影ながら、そっと見守ってあげることにするよ。


 そして、クライブのことを吹っ切った私は気分良く学園に到着する。自分の机に座ってホームルームを待った。


 そう言えばタロー君が来ていない。


 私は隣の席が空いていることに気づいた。彼は度が過ぎた挨拶を毎朝してくるのに、それがなかった。今日はお休みかな。


 数分経ってから教室のドアが開くと先生と隣りに、


「えっ、どうして?」


 なぜか、クライブがいた。


「今日から、このクラスで一緒の仲間になるクライブ・ノートンだ」


「クライブです。宜しくお願いします」


 彼の自己紹介が始まったけど、まったく聞いていなかった。わたしは疑問符がいっぱいだった。


「席だが、そうだ、残念なことがある。親御さんから聞いた話では、タローは昨日、ダニアの森で黒いお化けのような人型モンスターに襲われたらしい。重症になったそうだ。彼の復帰の見所は難しい。退学届けは受け取っている。あそこは初心者エリアだったが、今は調査のため、立ち入り禁止だ。そこで彼のかわりに、このクラスに入ることになった。席は彼女の隣、あそこだ」


 彼がわたしの席に近づいてくる。吹っ切れたと思ったのに、どうして、こうなるの。昨日のことをまた思い出してしまう。タロー君のことは、ごめんね、すっかり頭になかった私だった。


 クライブがわたしの席の前にきて、


「君は、その、昨日の、よろしく」


「うん、よろしく」


 気ごちない挨拶を二人仲良くしていた。


-side クライブ-  

 

 彼女と、あんなことがあった直後にこのようなことになるなんて、僕は思ってもみなかった。


 隣の席に座るエリザの机と僕の机はつながっている。僕にはまだ教科書が配られていなかった。だから、彼女に教科書を見せてもらうことになった。


 先生が彼女に僕に教科書を見せるように言った時、僕の顔を見た彼女は、顔を赤く染め上げていた。僕も昨日のことを思い出し、顔が熱くなった。まだ気ごちない関係は続いているが、これは仕方のないことだろう。そう、僕は思っていた。


 だが、彼女の本性を知るまでは……。


 授業が始まって数分たらず、彼女に指摘してやりたいことがあるのだが、まだ授業中であるため言えない。彼女の顔をチラリと見る、そして目があうと、ほんのり頬を赤くして涙目になって僕を見つめてくるのだ。僕が彼女にイケないことをしているように思えるのだが、そんな誘う瞳はやめてくれないか、それに、先ほどから彼女は、


「はぁはぁ、ううんっ、あ、あついね」


と言いながら、彼女は制服のブレザーのボタンを外し、僕に胸を見せつけるようにしながら下敷きで仰いでいるのだが、彼女の豊満な胸の谷間が見えてしまう。彼女はわざと僕に淫らな格好を見せつけているのだろうか。その誘うような吐息もやめてくれ。


 ときおり、彼女は教科書を覗き込もうとして、その柔らかな身体を僕に預けてくる。同時にキスされても、おかしくないぐらい顔を近づけてくる。彼女の中身は別として容姿だけは清楚可憐な美少女だ。僕も冷静に振る舞ってはいるが、昨日のこともあり内心穏やかではない。流石に僕も男だ。勘弁してもらいたい。

 

 まさかと思いたくないが、彼女は並木道で僕に見せつけていたアレも、裸で僕に下着を見せつけていたアレも、さらに僕の名前を呼びながら、自慰行為を見せたアレも、まさか、彼女は、僕のことを……


 だが、僕は彼女のことを知らない。この国イフリートより、シルフィードの留学生として僕は招かれた。噂の聖女を探す目的でもあったが、なぜ、隣国にいた僕の名前を呼びながら彼女は……


 あんっ、やだったら、クライブ、やめて……


 僕は、彼女の自慰行為を思い浮かべた。

 くっ、冷静になれ、授業中だぞ。

 これ以上はアレがまずい。

 僕は妄想をかき消した。


 彼女はなぜ僕の名前を知っていたのだろうか。しかし管理人の連絡ミス、それに熊の、いや、風のイタズラでのことを考えれば偶然としか思えない。だけどこのような事が連続して起こるものだろうか。いや、待て、僕は気づいたぞ。


 彼女と管理人はグルなのか、それと彼女は風魔法を唱えて、わざと僕に下着を見せつけたのか。そして、アレも、なるほど、やはり、彼女は、僕のことを、


【つけ狙う痴女でストーカー】


 なのだろう。たとえ彼女が特殊な性癖をもっていようが、昨日、彼女の部屋に無断で入ったことは謝らなければならない。


「あっ、っ、ご、ごめんね」


 彼女が教科書を覗きこうもうとしたとき、また、バランスを崩して僕に強くもたれてきた、いや、彼女が、ぽよよんとした柔らかいものを僕の身体に預けてきたのだ。


「ふぅっ~」


 僕はこめかみに指をあてた。

 


 まずいな、まだ授業が始まって20分ほどしか経っていない。このままだと授業に差し支えが出てしまう。さすがに限界がくるだろう。もし、先生に名指しされ、黒板に答えを求められでもしたら、限界を超えた僕は席を立つことができなくなるだろう。休み時間になったら、すぐにでも教科書をもらうことにしよう。と、僕は思った。

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