第15話 対策会議と父の忘れ物

『守さん?どうかしました?』


 ゆーまくんから聞いた言葉について考え込みながら歩いていると、鞄の中にいるフレアから念話で話しかけられた。


『フレア、さっきの黒いモヤだけど多分他にも被害者が出ると思う』

『え?そうなんですか!?』

『まだ憶測だけどね。ただ、僕の予想が正しければ黒いモヤを纏わされる人には何かしらの条件があると思う。ゆーまくんから聞いた当たり・・・とかちょうどいい・・・・・・っていうのはその適合者だったみたいな感じとかじゃないかな?』

『なるほど、ではその条件が分かれば未然に防げるかもしれないんですね?』

『うん。まあその条件を特定するためにはどうしても二人目以降の犠牲者が現れないと分からないんだよね。だから動きようがないし、しばらくは要警戒って感じかな。理想というか一番良いのは何も起きないことなんだけどね』

『そうですね!』


 実は僕がこういった予想ができるのにはちょっとした理由があったりする。まだ勇者として魔王の傘下にいる敵対勢力とやり合っていた頃、こういった手口を使ってくる相手とも戦っていたからだ。


 当時はまだ勇者として大した力もなく、戦闘と休息、鍛錬の繰り返しで作戦の立案と伝達は完全にパーティーメンバー任せだったけ。生き延びるために戦闘スキルを身につけようと必死で、周りからも自分の戦い方以外に魔族との戦いにおける戦略なんか考えてる暇があったら一回でも多く剣を振ったり魔法を使ったりして強くなってほしいと言われて大変だった。


 まぁ、おかげで魔王を倒せる程度には強くなれたのは事実だ……ってちょっと感傷に耽り過ぎてしまった。すぐに思考が脱線してしまうのは僕の悪い癖だ。今思い出さなければならないのはどうやって戦っていたかで……ん?そういえば……


『まあ、何はともあれ帰りましょう!』

『そうだね、検知結界の設定した条件を変えておくぐらいかな?』

『それぐらいしか事前にしておけることがないですもんね。とても歯痒いですが仕方ありません』

『うん。それに夕飯の支度もしないといけないからね。一旦帰ろうか』

『はい!』


 フレアの念話にそう返すと、沈み始めた夕日を背に帰路を辿る。道すがら周囲に違和感のある魔力がないか魔力探知というスキルを使って探してみたが特に気になる魔力は存在せず、結局家に着くまで何事もなく辿り着いた。


「これでよし。フレア、ご飯できたよ」

「待ってました!」


 家に帰ってすぐお風呂と着替えを済ました僕は、ソファーに伸びているフレアを尻目に夕飯をテーブルに並べていく。残りもので適当に作ったものだったがフレアはすぐに飛んできた。


「いただきまーす!」

「じゃあ僕も。いただきます」


 黙々と箸を進めて半分ほど食べ終わった頃、突然フレアが話しかけてきた。


「そういえば検知結界の変更する条件って具体的に何を変更するんですか?」

「例えばそうだなぁ……魔力の保有量だね。とりあえず前提の今までの条件について教えようか。検知結界を作る時の多すぎた情報量で分かったんだけどね、これまではダークマターズを捕捉するだけなら基本の魔法が使えるだろうってぐらいの魔力保有量で十分察知できるはずだったんだ。でもこれからは試しに魔法が使えるほどでなくとも、教えれば魔力を感じ取れる可能性があるレベルで反応するようにしてみるよ」

「なるほど、そうすればこれまで見逃してしまっていたかもしれない相手にも気づけるようになるということですね!」

「うん。一番弱いはずの個体が前の状態の結界に引っかかってたから大丈夫だと思ってたんだ。それで少し考えていたんだけど、気づかなかったのが恥ずかしいぐらいなんだよね。もしかしたらうまく魔力を隠蔽しているんじゃないかって」

「なんと!?そんなことができるんですか?」

「できるも何も普段から僕がやってるだろう?」

「え?……あ!?あーっ!!」


 目から鱗といったふうにフレアが叫ぶ。普段意識することはないが、僕も常日頃から魔力を制御して魔力を感知されないようにしている。かつて勇者として強くなる過程で、何も考えていなくとも常に制御できるようになってからだいぶ長かったのもありすぐには思い出せなかったが、自分だけが魔力を隠蔽できるなんて都合のいいことがあるわけない。むしろこの世界に長いこと根付いている力らしいしそういう技術があってもおかしくなかった。


 そもそもとして、僕よりも強い奴がいる可能性だってゼロじゃない。魔王を討伐したからって調子に乗っていたのかもしれない。……いや、魔王を討伐したことに関しては死ぬほど努力したし何度も死にかけたけし、偉業と言われても過言じゃないと思う。だけどそれにしたって一人で成し遂げたわけじゃない。僕は確かに強くなったと言える。でも僕は決して無敵の存在なんかじゃない。それを忘れていたのかもしれない。油断して未知の敵に足を救われないように気を引き締めないと。


「もし敵にも魔力を隠蔽できるようなやつがいるならきっとかなりの手練だと思う。だからこれからは今まで以上に気をつけないとだね。……ごちそうさま。フレアも食べ終わって片付け終わったら結界の設定変えてみようか。あ、別に急がなくて大丈夫だからね?」

「はい!こんなにおいひいほはんほ!!……味合わないなんありえません!!」


 ぬいぐるみっぽい見た目のフレアが、リスらしく頬いっぱいに詰め込んだものを飲み込んで、短い手で口を抑えながらそう主張してくる。そんなフレアを微笑ましいと思いながら洗い物をしていると、僕のスマホが鳴った。


「父さんから?……もしもし、どうしたの?」


 スマホを手に取り、スピーカーを音にして通話を開始する。


「いや〜突然すまん!仕事道具は全部持って出たんだが、色々と忘れ物してしまってたのに気付いてな。今取りに行ってるから着いたら手伝ってくれ」

「それぐらいなら別に良いけどさぁ……何忘れたの?」

「それがな、俺が大事にしている手帳とボールペンのセットなんだ。帰ってきたとき大事にしまって昨日出てくるとき忘れちまったみたいでな」

「え!?それって結婚記念日に母さんに貰った二つじゃないの?」


 僕が聞き返すと、父さんは力無い声で笑いながら返してきた。


「あはは……そうなんだよ。だから一刻も早く取りたくて今帰っているんだ」

「じゃあその二つ持って玄関前に出るから家つきそうになったらもう一回電話して」

「ああ、わかった。じゃあまた後でな」

「うん。また後で」


 愛妻家の父さんにしては珍しいな。絶対に言ってやらないけどね。


「ワタシは少ししかお父上とお母上に関わっていませんが、それでもあんなに仲良さそうだったので本当に大切にされているんでしょうね」

「まあそうだろうね。さて、じゃあ父さんの忘れ物を持ってきたら今度こそ結界の設定をいじろうか」

「はい!」


 そして父さんのデスクに当たりをつけて両親の部屋に入ると、二人のベッドとデスクのない窓もない壁の棚に小さい頃からの写真が綺麗に写真立てに入れた状態で飾られていた。


「あ、懐かしいなこれ。父さんたちの部屋って用事ないから入んないし、こんなに飾ってたの気づかなかったな。大掃除でもここは手伝ってないし。……ってそうじゃないそうじゃない、父さんの大事な手帳とペンは……っと、これかな?」


 父さんの机の引き出しを開けると、探していた物はすぐに見つかった。僕が生まれるよりも前に貰った物だと昔聞いた記憶があるが、綺麗な状態だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

元勇者と新米魔法少女 メガネとかがみ @megane10kagami

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ