第14話 入学二日目 放課後 後編
「ありがとうございました〜」
店員さんの挨拶を背にカフェを出る。今度は華ちゃんでも誘って来てみようかな?そんなことを考えながら葉桜駅前の広場を歩いていく。ここを通るのは説明会や学園祭、受験の時を含めてもまだ二桁に満たない。通学路って気付かないうちに通い慣れてなんとも思わなくなるんだろうけど、せっかくなら新鮮だと感じているうちに楽しんでおかないと損だよな〜。
「さて、このまま帰ろうかな」
改札口を通ってホームに座りぼんやりと電車を待つ。電光掲示板を見ればあと数分ほど待てば来るようだ。このままぼーっと来るのを待とうかとなやんでいると、頭の中に響いてくる声があった。
『あの……今日も検知結界に反応はありませんでしたか?』
「これは……念話かな?」
思わず呟いてしまったが、幸い近くに人はいなかった。危うく一人で誰かに喋りかけるやばい人になるところだった。
『はい。守さんもできると思いますよ。私たちが使う念話は少しだけ相手に魔力を繋ぐことでお互いに意思疎通できるといったものなので』
「なるほど。やってみるよ」
意識を自分の魔力に集中させて自分につながっている魔力を感じ取って、魔力のパイプを繋ぐイメージをする。
「うん。なるほど、フレアのを参考にすると……『こんな感じかな?』」
『凄い!できてますよ!守さん!』
これなら魔力を感知できる存在以外に気取られずフレアと話せるな。
『よかった。それで、検知結界っていうことはダークマターズのことだよね?』
『はい。あれ以来何も反応はないんですか?』
改めて検知結界の反応を確認したが、今のところ入学式の夜以来反応はない。
『そうだね。まあもっとでなかったこともあったし、現れない方が平和で良いんだよね?』
『そうですね。でも……歴代の先輩方に奴らが一度街を狙い始めた時は毎日のように現れるって伝わっていたので逆に不気味だな、と思ったんです』
そんな伝わり方がするくらい昔からいるのか、ダークマターズ……いや、少し前に
『そんな前からのやり方なら今はもう変わっているのかもしれないよ?それに奴らが現れ次第僕がなんとかすればいいからね。まあ、近くに華ちゃんとかがいれば任せてみようかな〜とは思うけど』
『なるほど、敵も変化するという可能性を失念していました。流石です!』
鞄の中にいて姿は見えないのに目をキラキラさせているフレアの姿がありありと思い浮かんでくる。こうも褒められ続けるとどうにも調子が狂う。でも出会った時から何かして見せるたびにこれだからフレアに悪気はないんだろうなあ。
『そんなことないって。それよりも今が平和なことを喜ぼう』
『はい!』
フレアとの念話がひと段落したところにちょうど電車が来た。幸い席は空いていたので座ってまったり右から左へと流れていく外の景色を眺める。間もなく最寄りの石織駅に着くという車内アナウンスが流れた時、検知結界に僅かな異変を感じた。
『フレア、さっきあんな話をしておいてなんだけど少しだけ反応があったから、電車降りたら調べてみようか』
『はい!』
石織駅の改札を出て検知結界の詳細を見る。ここから北東の運動公園に反応あり、か。なんでこんな微弱な反応なんだろう?まあ行ってみれば分かるか。
反応を確認しつつ運動公園に向かうと、うっすらと黒いモヤのようなものを纏って虚ろな目をした小学生ぐらいに見える少年が同い年であろう子供達の中心にいた。子供達が集まっているだけなら不審な点は無かったが、奇妙なことに中心の少年は誰に話しかけられても反応を示さず、棒立ちのままだったことだ。
「おい、どうしちゃったんだよゆーま!なんで返事しねーんだ?なあ!」
「もう放っておこう!時計見ろよ。もう一◯分はこのまんまだぜ?」
「でも、こんなのっておかしいわ!普通一◯分も棒立ちで喋らないなんてないでしょう?それにゆーくんの目もなんか変よ!」
どうやらモヤを纏った少年は彼らの友人らしい。黒いモヤは見えていない?あ、魔力と同じで適合者じゃないと見えないんだっけ。まあ考え込んでもしょうがない。とりあえず声をかけてみよう。
「ねえ、君たちそんなところで集まってどうしたの?もしよかったら僕にきかせてくれないかな?」
「え?あぁ、俺たちか。……なあ、どうする?」
突然話しかけたことに驚いたのか一瞬だけ怖がるような視線を向けられ、子供達は話し合い始めた。そして一分も経たないうちに子供達は僕の前に並ぶと最初に受け答えしてくれた男の子が話し始めた。
「さっきまで俺たちとこいつ、ゆーまは一緒に鬼ごっこして遊んでたんだ。でもちょうど一◯分前くらい、えっと……四時前くらいに急に棒立ちになっちまったんだ。それでどうしたのかなって思ってみんなで集まって話しかけてたんだけど揺さぶっても叫んでも何にも言わねえし動かねえんだ」
幼そうな割に順序立てて説明してくれている。僕が思っているよりも幼くないのかな?だけどだんだん声が震えてきている。やはり得体の知れない現象に少なからず恐怖している部分があるんだろう。
「なるほど……ちょっと見させてもらうね」
「分かった」
そういうと子供達は僕の後ろに回って心配そうに棒立ちの少年改めゆーまくんを見つめていた。片膝をついてゆーまくんと目線を合わせるが、やはり虚ろで反応がない。
『フレア、この子の周りモヤはダークマターズと同質のモヤだよね?』
『はい。周囲の人に黒いモヤが見えていないので間違いありません。ですがどうしてこんなにも微弱なのでしょうか?』
『恐らくこいつに一瞬だけ接触して消えたんだと思うよ。接触している間に何をしようとしていたのかまではわからないけどね。とりあえず浄化すればよさそうかな』
『はい!ワタシもそれで問題ないと思います』
状態異常に近いけどそうじゃない。一種の汚染?とりあえずこの黒いモヤを取り除いてあげれば治るはず。これで治ると決まった訳じゃないけど、なんのアクションもなく突然治るのも変だよな……よし、こうしよう。
「……(ホーリーミスト)」
右手の親指と中指で作った輪っかをゆーまくんの額に添える。そして中指に力を込めて軽く弾く。そう、いわゆるデコピンというやつだ。一連の動作をゆっくり、わざと子供達に見せながら小さな声で詠唱し聖属性を付与した魔力の霧を発生させる。そして発生させた霧で黒いモヤを包みこむと、ゆーまくんに纏わりついていた黒いモヤは魔力の霧と共に霧散した。黒いモヤが霧散すると同時に、糸が切れたマリオネットのように倒れるゆーまくんを受け止め、地面に寝かす。子供達はゆーまくんが倒れるとすぐさま駆け寄ってきて心配そうに顔を覗き込み始めた。
「ねえ、ゆーくんは大丈夫?」
「うん。大丈夫だとは思うけど……(ヒール)」
もし少しでも黒いモヤにより衰弱していたら危険と判断し、念のために治癒魔法をかけておいた。保険のようなものだが、多分問題ないだろう。その後ゆーまくんは、数秒の間眠ったようにじっとしていたが目を覚ました。
「あれ?僕……何してたっけ?え?お兄さん誰?みんなも……そんなにこっちみてどうしたの?」
「ゆーまくん、大丈夫?痛いところはない?立てる?」
ゆーまくんを起き上がらせ、できる限り優しく明るい声色できいてみる。すると心底不思議そうに首を傾げられた。
「え?どうして?なんともないけど……ってあれ?さっきの声がしない……?」
「声?なにか聞こえていたの?」
「うん。何を言ってるのかはわかんなかったんだけどね、みんなと遊んでたら突然眠くなって、なんか頭がボーッとしたの。あ!でも当たりとかちょうどいい?とか聞こえた気がする!」
無邪気に思い出した内容を伝えてくれるゆーまくん。
「そうだったんだね。教えてくれてありがとう、ゆーまくん。もう一回聞くけどもう体調は良くなったかな?」
「うん!なんでか僕みんなと遊んでた時より元気だよ!」
「そ、それなら良かった!この様子ならみんなのところに戻って遊んで大丈夫だね。あ、もしまた体調悪くなったらちゃんとご両親にたのんで病院に行くんだよ?」
「はーい!じゃあね、不思議なお兄さん!」
「うん。ばいばい」
近くで集まっていた子供達のところに走っていくゆーまくんに手を振り返しながら立ち上がり、公園を後にする。そして見慣れた街並みを尻目に自宅への帰路を辿っていく。
さて……「
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